TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

タイトル、作家名、タグで検索

テラーノベル(Teller Novel)
コンテスト受賞作品集

コンテスト受賞作品集

「コンテスト受賞作品集」のメインビジュアル

8

零れ桜と恋散らし

♥

5,022

2020年05月10日

シェアするシェアする
報告する

零れ桜ってね

桜が散るときのことを言うんだよ

蒼衣

っ…

蒼衣

なんで…

でも分かる

多分、4月だから

毎年、この時期だけ蘇る記憶

蒼衣

灯茉莉…

蒼衣

君に会いたい

君に初めて会ったのは3年前

丁度、桜が咲きはじめた頃

蒼衣

ここの桜は綺麗だな

町外れに咲いている桜を僕は見に来てた

もちろん町に咲く桜も綺麗だけど

僕はこっちのほうが好きなんだ

町外れに咲いているからいつも僕1人

別に寂しくなんてない

逆に静かで好きだ

だけど、今日は先客がいた

蒼衣

あ…

灯茉莉

え…、

蒼衣

(先客だ…)

灯茉莉

あ、あの!

蒼衣

灯茉莉

いつも見に来てる人ですか?

蒼衣

えっ…なんで…

それを知ってるの

灯茉莉

あ…。

灯茉莉

み、見えるの!

灯茉莉

その、私病院にいて

灯茉莉

窓から見えるの!

蒼衣

あ、そ…うなんだ

確かによく見れば病院服だ

灯茉莉

あ、別に身体はもう大丈夫なんだよ

灯茉莉

だから先生が外出許可してくれたの

蒼衣

…そうなんだね

蒼衣

(勝手に悪いと思ってた自分が恥ずかしい…)

灯茉莉

ね、名前教えてよ!

蒼衣

あ、ああ

蒼衣

僕は蒼衣

灯茉莉

蒼衣ね!

灯茉莉

私は灯茉莉!17歳だよ!

蒼衣

あ…じゃあ…同い年だね

灯茉莉

ほんと!?

灯茉莉

じゃあ同級生だ!

蒼衣

そうだね

灯茉莉

私、同級生に会うの久しぶり!

蒼衣

(病院生活長いのかな…)

灯茉莉

ねぇ…

蒼衣

何?

灯茉莉

私ね桜が散るまではここにいるの

灯茉莉

だからそれまでは一緒に桜見ない?

蒼衣

(引っ越しするのかな)

蒼衣

いいよ

ただ、なんとなくそう応えた

もしあの時

灯茉莉が綴った言葉の意味を

もう少しちゃんと考えていたら

今とは違う未来になったのかい?

蒼衣

灯茉莉!

灯茉莉

蒼衣!

灯茉莉と出会って1週間が経った

灯茉莉

今日は早いね!

蒼衣

別に…暇だし

蒼衣

(灯茉莉に早く会いたいからとは言えない…)

灯茉莉

まぁ、春休みだもんね!

蒼衣

(当の本人は鈍感だから助かってるけど…)

蒼衣

そういえば後どれくらいなの?

灯茉莉

えっ

蒼衣

引っ越しするんでしょ?

灯茉莉

あ、ああ……うん

灯茉莉

後1週間かな

蒼衣

そっか

灯茉莉

灯茉莉

桜も後1週間だね

蒼衣

うん

蒼衣

満開だったのにね…

蒼衣

桜が…散ってゆく

灯茉莉

そういうことをね

灯茉莉

零れ桜って言うんだよ

蒼衣

零れ桜?

灯茉莉

そう

灯茉莉

満開だった桜が散ることを示すんだって

蒼衣

へぇ…

蒼衣

よく知ってるね

灯茉莉

蒼衣

灯茉莉?

灯茉莉

皆は満開の桜を見て綺麗って言うけど

灯茉莉

私は短い時間を生き抜いた桜が最後まで綺麗に散る姿もいいと思うの

灯茉莉

だから私は零れ桜って言葉が好きなんだ

灯茉莉

あ、他にもね花散らしって言葉があって

灯茉莉

桜の花を散らす雨とかのことを言うんだけどね_

僕はこの時の記憶が曖昧だ

だって

零れ桜を語っていた灯茉莉の顔が

あまりにも

切なくて綺麗だと思ってしまったから

蒼衣

じゃあ…また明日

灯茉莉

っ…

蒼衣

灯茉莉?

灯茉莉

ごめんね

灯茉莉

明日からは会えないの

蒼衣

え…

灯茉莉

ほら、1週間後に引っ越すでしょ?

灯茉莉

だから最後に検査しなくちゃいけないの

灯茉莉

ほんとに大丈夫かって

蒼衣

あ、ああ

蒼衣

じゃあ、今日で会うのは最後か

灯茉莉

そうなんだ

連絡先交換しようよ

蒼衣

(なんて聞ける勇気を僕は持っていない)

灯茉莉

灯茉莉

またね、蒼衣

灯茉莉

私、引っ越すけど来ないでね

蒼衣

えっ…

灯茉莉

会いたくないなら来ないでね

これが灯茉莉と交わした最後の言葉だった

もしあの時引き止めていれば

ちゃんと話を聞いていれば

後悔がこんなに大きくならなかったかもしれない

蒼衣

灯茉莉と会って早1年

あれ以来、灯茉莉とは会っていない

蒼衣

灯茉莉元気にしてるかな

去年、灯茉莉と別れた次の日

もしかしたらと思って桜の木に行ってみた

するとそこにあったのは一通の手紙

差出人は灯茉莉だった

蒼衣へ

まず、この手紙が蒼衣に届いてることを祈ります。

もしこの手紙を読んでいる貴方が蒼衣じゃないのなら即刻破いてください

 

蒼衣

急に会えなくなっちゃってごめんね

でも蒼衣なら許してくれるでしょ? 蒼衣が優しいの知ってるから

私ねもう蒼衣と2度と会えない場所に行くの

蒼衣とはもう2度と会えないの

ごめんね、折角仲良くなれたのに

私、前に言えなかったことあるの

零れ桜の話したでしょ、覚えてる? あの時、ほんとは言いたかった

"私の命が消えるときにもそんな風に言葉が添えられたらいいのに"って

ねぇ、蒼衣

もし私の死にも名前が添えられたら何になっていたと思う?

最後にそう書いてあった

手紙には「ありがとう」も「さようなら」もなくて

ただ

灯茉莉が知りたかったことだけが記されていた

蒼衣

僕はまだそれに答えを出せていない

蒼衣

答えをだしてしまったら

蒼衣

その時が本当に灯茉莉との別れになりそうだから

蒼衣

蒼衣

でも考えたよ

蒼衣

君が言うように僕は優しいから

花散らしって言葉があってね

桜の花を散らす雨_

蒼衣

君は

蒼衣

僕の恋を散らしたんだ

コンテスト受賞作品集

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

5,022

コメント

74

ユーザー

切ない… まって、さきちゃんの物語好きすぎる…🙄 サムネも物語も全部素敵…!!

ユーザー

桜が綺麗に散るように 灯茉莉ちゃんも綺麗にちったんだろうな 素敵なお話とサムネでした!

ユーザー

あのもうなんていっていいかわかんないくらいさいこうでした(語彙力低下)

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store