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第1話 - あ

2023年06月17日

#恋愛

結城真矢

ミナミ

いよいよ明後日は結婚式だね！楽しみだね～

タツヤ

そうだな。両家顔合わせも式の準備も、滞りなく進んでよかったよ

ミナミ

それもこれも、タツヤが式は私の思う通りにしていいって言ってくれたからよ！

ミナミ

本当にありがとう！最高の式になりそうだよ！！

タツヤ

俺はこういうのわからないから、全面的に任せたんだよ。ミナミが満足するなら嬉しい

ミナミ

それで実は、完璧な式にするには一個だけ懸念点があるんだよね…

タツヤ

なんだよ懸念点って

ミナミ

あのさ、タツヤのお兄さんのカズヤさんの顔の傷って、随分大きいんだね

タツヤ

ん？いまさら何言ってんだよ。昔からうちとは付き合い長いだろ

ミナミ

確かにタツヤとは幼馴染で家とも付き合い長いけどさ…

ミナミ

タツヤとカズヤさんって12歳も歳が離れてて、

ミナミ

物心ついた時にはカズヤさんは高校の寮に入ってたし、

ミナミ

しかも私は小学校の時に引っ越して、大学でこっちに戻って来たし、

ミナミ

顔合わせまで、カズヤさんの顔の傷をじっくり見たことはなかったんだよね…

ミナミ

傷があることは知ってたんだけど、あそこまで大きくて深いとは思わなかったっていうか…

タツヤ

そういえばそうだったな。で、その傷が何なんだよ？

ミナミ

あのさ、こんなこと言いたくないんだけど、カズヤさんに式を欠席してもらう事ってできないかな？

タツヤ

は？何言ってんだよ！

タツヤ

兄貴は誰よりも、俺達の結婚式を楽しみにしてたんだぞ！

ミナミ

だって、結婚式って幸せいっぱいな空間でしょ

ミナミ

それなのに、あの顔の傷見ちゃうと、なんか心が曇っちゃうっていうか…

ミナミ

結婚式にはちょっとふさわしくないっていうか…

ミナミ

ね、カズヤさんには個人的にいくらでもお祝いしてもらおうよ

タツヤ

なるほど。要するにミナミは、顔に傷があるからって理由で

タツヤ

俺の兄貴を結婚式から追い出そうっていうのか

タツヤ

顔に傷があったら幸せな場に相応しくない？言っていいことと悪いことがあるぞ

ミナミ

怒らないで！カズヤさんの顔が悪いとは言ってないよ？

ミナミ

ただ、TPOってものがあるじゃん？

タツヤ

TPO…ね。ミナミが個人的に兄貴の顔が嫌ってだけだろ？

ミナミ

私だけじゃないよ？結婚式にはたくさんの人が参列するんだよ！

ミナミ

カズヤさんの顔を見て、怖がる人も多いと思う

ミナミ

折角結婚式に出席してくれた人に、不快な思いをさせたくないんだよ！

ミナミ

そういう人に心無いことを言われたら、カズヤさんだって傷つくと思うし…

ミナミ

だから、出席してもらわない方がカズヤさんのためでもあるの！

タツヤ

今一番心無いこと言ってるの、ミナミだけどな

タツヤ

それに、兄貴はちょっと言われたくらいではへこたれないぞ

タツヤ

顔の傷だって、自分からネタにするくらいだしな

タツヤ

確かに最初兄貴の顔を見て驚く人はいるけど、

タツヤ

兄貴の人柄に触れると、みんな兄貴を好きになった

タツヤ

だからミナミの心配は無用だ

ミナミ

だけど！

タツヤ

これ以上兄貴について何か言うなら、この結婚考え直してもいいんだぞ

ミナミ

考え直すって、結婚取りやめるってこと？

タツヤ

そうなるな

ミナミ

待って待って！そこまでしなくても！冗談だよ～

ミナミ

私、沢山結婚式の希望叶えてもらえたんだもの！

ミナミ

カズヤさんが出席することくらい我慢できるよ！

タツヤ

我慢、ねぇ…

～翌日～

カズヤ

タツヤ、ちょっといいか？

タツヤ

どうしたんだよ兄貴

カズヤ

明日の結婚式のことだけど、中止になったって本当か？

タツヤ

は！？

カズヤ

いや、ミナミさんから連絡来たんだよ

カズヤ

結婚式は急遽中止、延期になったって

タツヤ

はぁああああああ！？なんだそれ！そんな事実はないぞ！！

カズヤ

やっぱりな…父さんや母さんとか、他の参列者にはそういう連絡来てないみたいだし

カズヤ

それに、何故か「事情があってタツヤは忙しくしてるから、連絡しないでくださいと言われたぞ」

カズヤ

「タツヤの代わりに伝えるように言われたんだと」

タツヤ

ミナミのやつ、そこまでするのかよ…！

カズヤ

何かあったのか？

タツヤ

実は、言いにくいんだけどさ…ミナミ、兄貴に式出席してほしくないみたいなんだ

タツヤ

原因はその…兄貴の顔の傷だってさ

カズヤ

この傷が？なんで

タツヤ

怖がる人がいるとか、幸せな結婚式に相応しくないとか…

タツヤ

ごめん！兄貴に不愉快な思いをさせて

タツヤ

なんとか宥めたと思ってたけど、まさかこんなことするなんて…

カズヤ

いや、こっちこそごめん。そういうことだったのか

カズヤ

そういうことなら、残念だけど俺今回は欠席でいいよ。後で祝わせてもらう

タツヤ

その必要はないよ

タツヤ

もうこんな奴と結婚する気は失せたから

カズヤ

いいのか？幼馴染で、大事な彼女なんだろ

カズヤ

それを俺なんかのために…

タツヤ

気にするなよ。兄貴にはむしろ感謝してる

タツヤ

結婚する前に本性が知れて良かったってね

～数時間後～

タツヤ

ミナミ、兄貴から聞いた

タツヤ

なんで、結婚式が中止になったなんて嘘をついたんだ？

ミナミ

えっ！カズヤさん話したの！？

タツヤ

あぁ。なんで話さないと思ったんだよ

ミナミ

あんなにタツヤには連絡しないでって言ったのに…

タツヤ

そりゃ弟の結婚式が中止だなんて聞かされたら、弟に確かめるだろ

タツヤ

そこまでして兄貴に式に出てほしくなかったのかよ

ミナミ

違うの！ちょっと勘違いして送っちゃっただけで…

タツヤ

式が中止になるなんて勘違いしたなら俺にまず何か言うだろ

タツヤ

兄貴にだけ送っておいて何言ってんだ。姑息な真似しやがって

タツヤ

そんなに嫌なのか？兄貴の顔の傷が

ミナミ

…そうよ！何よあの人！！

ミナミ

普通自分から空気読んで式を欠席すると思わない！？あの傷なんだから！

ミナミ

せっかく傷つけないように欠席させてあげようとしたのに！

ミナミ

よくあんな顔、人前で晒せるよね～

タツヤ

とうとう本性現したな

タツヤ

ミナミこそ、よくそんな醜い本音を兄貴の身内である俺に晒せるな

ミナミ

だってキモいもんはキモイもん！！生理的に無理なものは無理！！

ミナミ

結婚式は私の好きにしていいって言ってたでしょ！

ミナミ

なんでも私の思い通りにさせてくれたでしょ！

ミナミ

だったら、カズヤさんが出席しないというあとたった一つの頼みも叶えてよ！！

タツヤ

お前の本音はよーくわかった。お望み通り、兄貴は結婚式に出席しないよ

ミナミ

えっ本当！？

タツヤ

あぁ。なんてったって結婚式自体が中止になるからな！

ミナミ

へっ？

タツヤ

結婚式が中止になるってお前、言ったんだよな？

タツヤ

嘘から出た実にしてやるよ

ミナミ

え、嘘だよねこんなことで…明日式を挙げるんだよ！？

ミナミ

お父さんもお母さんも、こんなの納得しないよ！

タツヤ

お前の両親なら今兄貴に土下座してるよ

ミナミ

へ？

タツヤ

「うちのバカ娘が本当に申し訳ございません。式は中止にしますってな」

ミナミ

何よ何よ！なんでそんな人にうちの両親がへこへこするのよ！！

ミナミ

本当に最悪、全部カズヤさんのせいよ！！

タツヤ

この際だから教えてやる。兄貴の顔の傷はな、お前を助けたためなんだよ

ミナミ

へ？

タツヤ

22年前、当時15歳だった兄貴は、

タツヤ

車道に飛び出して車に轢かれそうになった3歳の女の子をとっさに助け、

タツヤ

その時に顔に深い傷を負った

タツヤ

その女の子がミナミだったんだよ

ミナミ

嘘…

タツヤ

もし兄貴が助けなかったら、顔に傷を負ってたのはお前だったかもしれない

タツヤ

それどころか、命も失っていたかもしれないんだ

タツヤ

それなのにお前は、兄貴の顔の傷を蔑んで式に出席させまいとした

タツヤ

そのことにご両親はお怒りだよ

ミナミ

そんな…なんでもっと早く教えてくれなかったのよ！

タツヤ

俺も知らなかった。今聞かされて驚いてる

タツヤ

ミナミのご両親はその件で、昔からカズヤに頭が上がらないらしい

ミナミ

お父さんもお母さんも、そんなこと言ってなかったもん…

タツヤ

兄貴が口止めしたんだよ

タツヤ

ミナミは俺の顔の傷を随分気にしてるようだから、気に病むといけないって

タツヤ

ミナミがこんなことを思ってるとは知らずにな…

ミナミ

だってしょうがないじゃん！！3歳の頃のことなんて覚えてるわけないもん！

ミナミ

そんな過去があるって知ってたら、こんなことしなかったのに！

タツヤ

そんな過去があろうがなかろうが、するべきじゃねぇんだよ

ミナミ

ね、私反省したから、式は予定通りやろう？

ミナミ

勿論カズヤさんにも出席してもらって、お祝いしてもらうからさ

ミナミ

私も、カズヤさんのお陰であなたの弟さんと結婚できますって示したいの

ミナミ

最高の門出になると思わない？

タツヤ

無理。俺はお前とは結婚できない

タツヤ

俺の大事な兄貴を見た目で差別して、

タツヤ

あまつさえ姑息な手段で結婚式から弾こうとするような女とはな

ミナミ

そんな…私反省してるんだよ！なのに酷いよ！

ミナミ

寿退職までしたのに、私どうすればいいのよ！

タツヤ

何言われてももう無理だよ。俺の気持ちが戻ることはない

ミナミ

だったら私、カズヤさんの方と結婚する！！

タツヤ

は！？

ミナミ

カズヤさんの顔の傷は、私を助けたからなんだよね！？

ミナミ

これって運命だと思わない！？

タツヤ

お前、頭大丈夫かよ。あんだけ差別してディスった相手に…

ミナミ

カズヤさんだって、私を助けてくれたんだもの。私のこと好きだったのよね？

タツヤ

バカかよ。当時お前三歳だぞ

ミナミ

それに、どうせカズヤさんは顔の傷のせいで、結婚相手なんかできないでしょ！

ミナミ

だったら、傷を作った原因の私が、責任取って結婚してあげる！

タツヤ

この期に及んでまだ兄貴の顔を見下すのかよ…全然反省してないじゃねぇか

ミナミ

反省したから結婚してあげようとしてるんじゃない！

ミナミ

結婚式取りやめるとか、式のために予定立ててくれてる人たちに悪いじゃん！

ミナミ

新郎だけ変えて予定通りやろうよ！兄弟だしなんとかなるでしょ！

ミナミ

考えてみればカズヤさんの方が収入高いし、ご両親の遺産だって変わらず貰えるし…

タツヤ

今度は金目当てかよ…つくづくクズだな

タツヤ

あのな、兄貴もう結婚してるぞ

ミナミ

え？

タツヤ

式はまだだけど、籍は入れてる

タツヤ

俺も会ったことあるけど、とても優しくていい奥さんだよ

ミナミ

そんな…

タツヤ

マジでお前と結婚しなくて良かったよ。ほとほと愛想が尽きた

タツヤ

これを機に幼馴染としての縁も切らせてもらう

ミナミ

待って！許して！そんなつもりじゃ…

タツヤ

いつか、本当の意味で反省できるといいな

～後日談～

タツヤ

その後、ミナミのご両親の申し出で、

タツヤ

式場のキャンセル代諸々は全額肩代わりしてもらいました

タツヤ

ミナミのご両親は娘の所業に激怒して、

タツヤ

肩代わりした金を全額働いて返せとミナミに言いつけました

タツヤ

ミナミは寿退職したのを後悔しながら、

タツヤ

バイトを掛け持ちして必死に働いているのだそうです

タツヤ

ミナミが好きなように設定した華やかな挙式は、

タツヤ

そのままミナミの負担として帰って来たようです

タツヤ

俺の結婚式は中止になりましたが、兄貴は予定通り結婚式を挙げました

タツヤ

勿論俺も出席しました

タツヤ

兄貴は何度も、自分だけ幸せになって申し訳ないと謝っていましたが、

タツヤ

その度に、あいつと結婚しても幸せにはなれなかったから気にするな、と笑い飛ばしました

タツヤ

そしていつか俺も、兄貴の奥さんみたいに

タツヤ

見た目に惑わされない素敵な人と幸せになりたいと思いました

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結城真矢

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