マサ
ようユキ、お前大学院へ行くらしいな笑
マサ
俺は大手企業に内定貰ったぜ!
ユキ
おお、良かったね!
ユキ
うん、迷ったけど私は大学院へ進学する事にしたよ
マサ
最初聞いた時はまさかと思っていたけど、マジだったのか
ユキ
うん、どうしてもやりたい事があってさ。親とも相談して決めたの
マサ
という事は、就職しないって事か?
ユキ
そうなるね。せめて修士課程に行ってから考えようかな
マサ
おいおい、マジかよ
マサ
女が大学院進学とか、何考えてるんだ?
ユキ
え?今どき大学院へ行くのに男も女もないでしょ
ユキ
私がやりたいって決めたんだし、私の人生だもの
マサ
え~だって俺ら付き合ってるじゃん
マサ
俺との結婚は考えてくれてないの?
ユキ
そうじゃないよ、院へ行ってからでも就職はできるし
ユキ
研究職に就くって選択肢もあるのよ
マサ
はあ?俺そんなの許さないからな!
ユキ
え?何で?
マサ
だって、大学院って大学より学歴は高いんだろ?
マサ
中卒の女は低すぎて嫌だけど、院卒みたいな高すぎる女も無理だ
マサ
院卒の彼女とか、俺の事少しは考えろよ
ユキ
いや、学歴は別に関係ないでしょ?
ユキ
てか、マサってそんなんで私と付き合ってたの?
マサ
当たり前だろ?大卒の俺の隣を歩くのはせいぜい高卒じゃなきゃな
マサ
中卒は論外だが、院卒みたいな高学歴も嫌なんだよ
マサ
俺がまるでバカみたいじゃないか!
ユキ
いや、学歴云々じゃなくて選択の問題でしょ?
ユキ
マサは就職、私は進学を選んだんだから
ユキ
それだけの話でしょ?
マサ
いいや、違うね。女のお前が俺より学歴高いなんて許せない
マサ
今すぐ進学を止めて就職しろ!
ユキ
マサ、それは流石にないんじゃない?
ユキ
恋人に学歴ってないでしょ。そもそも中卒が論外って分からないし
ユキ
マサ、そんな見栄を張るような人じゃないよね?
マサ
お前が気にしなくても俺と周りが気にするんだよ!
マサ
そんな高学歴が嫁になるなんて……
マサ
世間体が悪いだろ!
ユキ
その世間体ってさ、具体的に誰の事を言ってるの?
マサ
そ、それは……俺の親とか、近所の人とか
マサ
最終的には俺の地元で同居するんだからよ!
ユキ
ちょっと待って、そんな話聞いてないんだけど!
ユキ
仮に結婚したら私、あなたの地元に行く事になってたの?
マサ
だって、本来そういうもんだろ!
マサ
家の両親厳しくてさ、嫁が俺より学歴高いと……
ユキ
いや、何でそれで私がやめなきゃいけないのか分からないんだけど
ユキ
それで私の進路は左右されるの?
マサ
彼女なんだから俺の事を立てろよ!
マサ
彼女が彼氏より学歴高いって……普通有り得ないだろ
マサ
だから俺の事が好きなら進学はやめてくれ
ユキ
……ごめん、それは無理
ユキ
院への進学は私が自分で決めた事だから
ユキ
いくらマサの頼みでも、それはできないよ
マサ
何でだよ!俺の事好きじゃないのか!
マサ
俺と結婚したいんじゃないのかよ!
ユキ
……結婚したかったよ。でも今は考えられない
ユキ
学歴とかで選ぶような人なんて無理だし
ユキ
ごめん、ちょっと考えさせて
マサ
何でだよ!お前がやめれば済む話じゃないか!
マサ
簡単な事だろ?
ユキ
だから、やめられないって言ってるの
ユキ
私は院への進学がしたいの。もっとやりたい事があるの
ユキ
マサの事は大事だよ、でも私にもやりたい事があるの
マサ
どうするんだよ!実家の両親にはユキが就職するって言ったし!
マサ
結婚する予定である事も言っちゃったんだぞ!
ユキ
はあ?私の承諾もなしに勝手に言ったの?
ユキ
後、こんな事言うのもなんだけど私まだプロポーズすらされてない
マサ
だ、だっていずれは結婚するんだからいいだろ!
マサ
少し先取りしてやっただけだよ!
ユキ
いやいや、見切り発車もいいところでしょ!
ユキ
そういう事を何で事前に教えてくれないの?
マサ
だって、どうせお前は俺の言う事に従うかと思って……
マサ
彼女ってそういうもんだろ?両親もそうだったし
ユキ
もういい、マサがどういう人なのか、今更ながらよく分かったわ
ユキ
男尊女卑思想の持ち主だったのね
ユキ
悪いけどあなたとは今後結婚するどころか、付き合う事はできない
ユキ
だから私と別れてくれない?LINEで言うの申し訳ないけど
マサ
は、はあ?何でだよ!
マサ
お前が院への進学をやめればいいだけなのに!
マサ
何でこんな簡単な事が分からないんだよ!
ユキ
マサこそ、何で私の話を聞いてくれないの?
ユキ
自分の意見ばかり押し付けて、私の意思は無視なの?
ユキ
マサがそんな人だったなんて……
ユキ
私は悲しい
マサ
悲しいのは俺の方だよ!
マサ
恋人である俺の意見を尊重してくれないなんてな、失望したよ
マサ
分かったよ、別れてやるよ。お前とはこれっきりだ
ユキ
ありがとう。私も私を尊重してくれない人とは無理
マサ
もう一度聞くが、本当にそれでいいのか?
ユキ
何よ、もう私たちは終わりでしょ?
ユキ
彼女の進路も理解してくれない人とは思わなかった
マサ
俺も、こんなに強情な女だとは思わなかった
マサ
まさか女で大学院進学するとはな
ユキ
そういう偏見がある時点で、私たちはもう無理だったね
ユキ
それが分かっただけでも良かったわ
ユキ
強情なのはどっちよ?
マサ
だって、女は結婚して子供を産むのが幸せだろ?
マサ
俺の母さんもそう言っていたし
マサ
それに、本当なら就職すら違和感があるんだ
ユキ
はあ?どういう事?
ユキ
意味が分からないんだけど
マサ
だってさ、結婚したらいずれ家庭に入ってもらう予定だし
マサ
それに、家の両親と同居して貰うし
ユキ
ちょっと待って、何で私が専業主婦になる前提なの?
ユキ
おかしくない?私何も言ってないのに
マサ
いやいや、だから女ってそういうもんだろ?
マサ
まあ進学した時点でお前に興味なくなったし、もういいけど
マサ
それじゃ、じゃあな
ユキ
はいはい、じゃあね~
10年後
マサ
ようユキ!久しぶりだな!
マサ
元気にしてるか?
ユキ
誰かと思ったらマサか。いきなり何の用?
マサ
冷たいな~一度は愛し合った仲だろ?
マサ
その相手にきつくないか?
ユキ
だってそれは過去の話でしょ?
ユキ
10年間一度も連絡してこなかったし
ユキ
というか、どこで私の連絡先知ったの?ブロックしたはずだけど
マサ
新しくアカウント作って、友達から聞いたのさ
マサ
お前に話があってな
ユキ
私はあなたに話なんかないけど
マサ
まあまあ、話だけでも聞いてくれよ
マサ
お前、研究職に就いたらしいな
マサ
で、それなりに給料もらってるんだろ?
マサ
頑張ったんだな!本当に凄い
ユキ
ええ、運よく引き入れてくれた大学があったからね
ユキ
今はちょうど講師をさせてもらってる
マサ
お前、やっぱり俺が見込んだ女だな~
マサ
本当に流石だよ
ユキ
何?何だかさっきから気味が悪いんだけど
ユキ
急に連絡してきて、いきなり手のひら返して褒めだして
ユキ
手首緩すぎでしょ
マサ
いやいや、俺はお前の事を評価してやってるんだぜ?
ユキ
いや、別にあんたに評価して貰う必要ないし
ユキ
何か魂胆があるなら早く言って。こっちも暇じゃないの
マサ
分かった。単刀直入に言うわ
マサ
ユキ、俺と結婚してくれ!
ユキ
はあ?あんた寝言言ってる?
ユキ
寝言なら夜寝てる時に言ってよ
マサ
いや、俺は本気だぜ
マサ
実は俺、この前離婚したんだ
マサ
お前と結婚するために!
マサ
どうだ?嬉しいだろ?
ユキ
はあ?全然嬉しくないんだけど
マサ
前の嫁は綺麗で可愛かったんだが、根性がなくてな
マサ
結婚して同居しても、2カ月で出て行ったし
マサ
本当、綺麗なだけの女だったわ
ユキ
いやいや、2カ月で出て行くって相当だよね?
ユキ
あんた、奥さんに何やったの?
マサ
俺は何もしてないよ、母さんに家事を指導されたら
マサ
あいつが根を上げて勝手に出て行ったんだ
マサ
俺の母さんが嫌がらせしてくるって言ってきてさ
マサ
正直、俺も辟易していたんだ
マサ
それで2カ月で出て行ったんだ
ユキ
いやいや、何で夫のあんたが庇わない訳?
ユキ
話聞く限りどう見ても嫁いびりじゃん
ユキ
むしろ2カ月もよく耐えたね、その奥さん
マサ
それで、向こうが慰謝料請求してきてさ
マサ
それでこの10年、揉めてたんだ
マサ
で、つい最近やっと離婚したって訳さ
ユキ
かなりの泥沼だったんだね……
ユキ
で、慰謝料はどうなったの?
マサ
最終的に俺らが払って終了した
マサ
だから、今の俺はフリーだ
ユキ
で、私とやり直すって?
マサ
そう!そういえばお前と付き合っていた頃が一番幸せだったなって
ユキ
ごめん、お断りするわ
ユキ
だって私……
ユキ
もう結婚してるから
マサ
へ?
ユキ
見えなかった?私もう結婚してるのよ
ユキ
夫がいるの
マサ
は?嘘だろ!
マサ
お前、俺以外の男と一緒になったのかよ!
ユキ
嘘じゃないよ。私たちが別れたのって何年前よ?
ユキ
10年前でしょ?それに逃げ出した奥さんの話聞いてさ、
ユキ
やり直したいって思う人いる?
マサ
だ、だってユキなら根性ありそうだから!
マサ
母さんも気に入ってくれるだろ!
マサ
だから俺と結婚しよう!やり直そう!
ユキ
だから、無理だって言ってるの
マサ
それに、お前の旦那って何の仕事してるんだよ?
ユキ
私の夫は一般企業に勤めてる会社員だよ
ユキ
マッチングアプリで知り合ったの
マサ
なんだ、一般企業か。大した事ないな
マサ
そんな男より、一流企業勤めの俺の方が……
ユキ
丁重にお断りするわ。夫は下積み時代の私を支えてくれたの
ユキ
研究を続ける私をね
ユキ
だから、そんな夫を裏切る訳にはいかないの
マサ
何だよ、そんな男のどこがいいんだよ!
マサ
高収入の俺の方が……
ユキ
だから、あなたとは結婚するつもりなんてありません
ユキ
それにさ、私が知らないとでも思ってる?
マサ
はあ?何をだよ
ユキ
マサさ、入社した一流企業辞めてるでしょ?
ユキ
大学時代の友達から聞いたよ
ユキ
あんた、会社のお金を横領したんだってね
マサ
はあ?そんな事ねえよ!
ユキ
で、今は無職だから養ってもらう相手を探してるんでしょ?
ユキ
こっちはもう全て知ってるのよ
マサ
くっ、だって仕方ねえだろ!
マサ
大企業って言う割に給料少ねえし!
マサ
おまけに仕事はきっついし!
ユキ
そりゃ、入社したてで給料多く貰える訳ないでしょ?
ユキ
なんでそういつも短絡的なんだか……
マサ
だから、欲しいものととかもいっぱいあったんだよ!
ユキ
欲しいものがあるならきちんと貯めて買いなよ
ユキ
いい年してお金を横領するとか、何やってるの?
マサ
し、仕方がなかったんだ!
ユキ
まあ、私には関係ないけどね
ユキ
どちらにしろ、あなたとやり直す気はないし
マサ
は?何でだよ!あんなに愛し合ったのに!
ユキ
いやいや、だから10年前の話でしょ?今更何言ってるのよ
ユキ
私はもう結婚してるし!無理だからね
マサ
頼む!俺を養ってくれ!
ユキ
絶対に無理です。横領なんて下手したら懲戒解雇でしょ
ユキ
そんな人を養う訳ないじゃない
ユキ
大体、女は家庭に入って専業主婦じゃなかったの?
ユキ
10年前、あなた本人が言っていたじゃない
マサ
そ、それは……だって
マサ
懲戒解雇されて、俺賠償金も払わなきゃなんだ!
マサ
頼む!金がないんだよ!
ユキ
そんなの私の知った事じゃないし。大人なら自分で責任取りなよ
ユキ
忙しいからブロックするね。それじゃ
マサ
おいユキ!待ってくれよ!
マサ
俺を見捨てないでくれ~
後日談
ユキ
その後大学時代の友人から聞いた話ですが、
ユキ
マサは賠償金を支払うためにバイトを掛け持ちしているそうです。
ユキ
両親からは勘当され、今はアパートと職場を往復する
ユキ
寂しい日々を送っているとか。
ユキ
正直、この道を選んだ時は生きていけるか不安でしたが、
ユキ
今となっては、自分の道を選んでよかったと思っています。