蘇枋
依頼を受けて来たのは、 深い森の中にある洞窟の中だ。 山菜を取りにこの山へよく来る住人から、変な声が聞こえると言われ、 ここに来た次第だ。
三角型の耳をピンと立て、 思いっりこちらに抱きついてきたのが 九尾である蘇枋。 俺の唯一の式神だ。 黒い革製の眼帯を付け、 三角耳にはタッセルのピアスが揺れている。隻眼から除く蘇芳色の赤い瞳は、ルビーの様な綺麗さを帯びていた。
桜
桜
蘇枋と会話している間、向こうから少し大きめな、柔らかい様な声が聞こえてきた。
桐生
桐生
楡井
蘇枋とは違う三角耳を立てて、 呑気に話す猫又の桐生と、 キラキラした様子でこちらを見ている化け狸の楡井。 妖自体は、そこまで強力では無かったのだが、楡井の修行になるのと、 数が多いとの事で、式神では無いのだが2人には手伝ってもらっていた。
どうして妖であり、式神でも無い2人といるのか、と周りには首をかしげられるだろう。 それでも桜にとっては、 少ない友人である。 相手は、妖だが。 妖退治をしている、まして、白と黒のツートーンカラーの髪、 左右で色の違う瞳を持つ桜と 連むなど、物好きの妖怪もいるようだ。 それでも桜にとっては、 妖怪なんかよりも人間の方が何倍も醜く見える。
桐生
桜
蘇枋
楡井
桐生の冷やかしに思わず顔が、 カッと熱くなった。 蘇枋も俺の首に腕を回したまま 抱きついており、いつも蘇枋の後ろで揺れているはずの尾が、桜の腰にぐるりと巻きついていた。 離れるつもりは無いらしい。
桜
蘇枋
蘇枋
桜
そう。九尾である蘇枋には 九本の尾がある。 その中での1本分でしか戦ってなかったのだ。それを見るに、蘇枋は力のほんの一部しか出していない。 頑張ったも充電もクソもないだろう。
蘇枋
急にピント三角に立っていた耳を垂れさせ、真剣ですと言わんばかりに こちらに語り掛けてきているが、 もうこの罠には引っかからない。
桜
桜
九尾は、妖狐の最終段階と言える。 あのゲットだぜ!で、有名な某ゲーム、で例えると、 進化系と言えるだろうか。 妖狐は年月を重ねるにつれ、 尾が分裂して増える。 それの最終形態が九尾の狐だ。 まぁ、それは悪狐に限っての話だが。
妖狐にも種類がいるらしい。 善狐と悪狐 先程話した悪狐は、 尾が多いほど強いらしい。 さっきも言ったが、九尾が最大だ。 そして善狐は、悪狐とは違い、 どんどん尾の数が減って行き、最終的には、尾が0本の空狐になるらしい。 神に近づくにつれ、狐の姿を保つ必要がないだとかなんだとか。
蘇枋
桐生
楡井
少し憐れむ様に見てくる桐生と、 目をぱちぱち瞬かせ、 真顔でこちらを見てくる楡井。 あの時の事を思い浮かべ、 思わず桜は、恥ずかしげにそっぽを向いてしまった。
桜
蘇枋
桜
夜中の洞窟中に桜の大声が響き渡り、 慌てた全員にしーっと人差し指を立てられたのだった。
桜
楡井
蘇枋
桐生
全員、村の人達の顔を思い浮かべながら、胸がジンとする感覚を感じた。 大体の村なら、桜の奇抜な容姿を毛嫌いし、払ったのならさっさと帰れと言わんばかりの態度だ。ましてや人々の恐れる妖を、式でもない者を連れているとなるとあんな反応にもなるだろう。 式神では無いということは縛りがない。 式神と違い、命令が通じないのだから、 桜がいつ殺されてもおかしくない物なのだ。それは村の物も同じ。
主無しの妖怪は、好き放題に人間を襲うものもいる。 だから人間は妖を恐れる。それが 自然の摂理なのだ。
桐生
楡井
桜が非難される度に、背筋が凍るほどに冷たい視線、 辺りを漂う黒いオーラを放つ蘇枋を 宥めるには中々骨が折れる。 今にでも人間を殺してしまいそうな勢いなのだ。
蘇枋
桜
蘇枋
目の前の九尾は、 胡散臭い笑みを浮かべて笑ってみせる。 こればっかりは信用ならない。
柘浦
柘浦
勢い良く襖を開けたのは、 今日1日留守番を任せていた 柘浦だ。 今回の依頼は、数勝負の依頼で、 一撃一撃が重くて、図体がデカめで小回りの聞かない柘浦には相性が悪いと判断したからだ。 まぁ、実はもう1名留守番要員は居るのだが、アイツはいつもあんな感じで、一切俺達には着いてこないし、今更気にすることもないだろう。
桐生
楡井
柘浦
3人揃ってワイワイ先程の出来事について話し始めてしまった。 蘇枋と俺は、その姿を微笑ましく 眺めるだけ。
基本的に、こいつらは、 自由にここを出入りしている。 気づいたらいるし、 気づいたらどこかへ消えている。 式神では無いのだから、それはそうなのだが。
1度こいつらには式神になりたいと 言われているのだが、 俺が断った。 俺とこいつら…… 妖との時間は明らかに違いすぎるから。 長生きするこいつらにとって、 人間1人の時間なんて一瞬だ。 一緒にいてしまえば、 式神としてより近くに居てしまえば、 更に別れが辛くなるだろう。
こいつらは、あっさりと諦めがつき、気持ちなど切り替えられる 俺ら人間とは違って、 きっと何千年も同じ気持ちを持ち続ける。だから妖とは適度な距離を保つ。 それが俺のやり方だ。 それにコイツらとは対等に居たいとも思っている。仲間だから。 式神という上下関係等に縛られたくはないから。 それでも、妖を無理やりにでも従えている輩は、この世に何千といるのだが。 逆に俺みたいなのが稀だろう。
まぁ、ここまで考えておいて、あのバカ狐……じゃなかった。 蘇枋と主従関係と なってしまったのだが。 初めてみたわ。妖が人間に無理やり主従関係結ばせるとか。 普通逆だろっ! と叫びたくなってしまった。 その代わり、命令などはしない事にしている。ちょっとした頼みくらいはしているが、それは楡井達も同じなので、 扱いとしては同じだ。
俺は君の特別になりたいのにだとか ぶつくさ言われたが、 こちらはしったこっちゃない。 高位である妖の蘇枋と主従関係にあるのはこれが原因だ。というかほぼ蘇枋の所為だ。
蘇枋
蘇枋
桜
蘇枋
桜
蘇枋
耳を垂れさせ、目を伏せる蘇枋を見て、 少し良心が痛んだが、 仕方ない。こちとらバカ狐呼びが 定着してしまっているのだ。 それでも悪いとは思っているので、 一応謝りはする。
蘇枋
桜
人型だったらぶん殴っていた所だが、 流石に狐姿だと殴る物も殴れず、 そのまま放置していたのだ。
桐生
楡井
桜
勿論動物姿でだ。 流石に1人用の布団に3人の人が入るなんて無理があるからな。
桐生
蘇枋
桐生
なんてお茶目な会話をしている 2人だが、 翌朝動物の毛が落ちてたり、 布団の掃除が大変なので、 出来れば辞めて欲しいところではあるのだが…… 寒さに弱い猫又の桐生には、 どうも強く言いづらい。 そして蘇枋の事も許してしまっているので、今更やめろなど声を荒らげて言えるはずもなく… それに桐生が布団に入る頻度など蘇枋と比べれば少ない方だ。 毎日気づけば布団に居る蘇枋と違って、 桐生は滅法寒い日だけに暖をとりにくるから。
楡井
楡井
蘇枋
楡井
ここに来て楡井まで 参戦してくる様だ。 楡井のキラキラとした嬉しそうな 笑顔を見た瞬間に、桜の方が折れた。
桜
楡井
桐生
柘浦
『柘浦/さん/くん/ちゃんは暑苦しいからヤダ。/……です。』 と全員の声が被ってしまった。 しょんぼりと肩を下げている 柘浦には申し訳ないが、 流石に人型の妖と寝るには俺の耐性がない。 というか絶対に眠れない。
桐生
柘浦
桐生
少し古く、大きな屋敷からは、 1人寂しいあの頃とは違い、 沢山の楽しそうな声が響き渡っていた。
コメント
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ゲットだぜwww まーた面白くぶっ込んできたねww 待ってました妖怪パロ!!! 俺なんて考えても全く思いつかなかった(()) 善狐と悪狐ってすおはや君はもしかして悪…… まぁそこは読むまで楽しみに待ってます♡ いいなぁ桜、俺もその布団に混ぜt(((殴 ほのぼのじゃなくても泣かないぐらいのお話にしてね…??(涙腺うっすいから)
今回も素敵なお話ありがとうございます🙇♀ 新連載!!! 前書きたいっていってたパロですよね!! 久しぶりのほのぼのに癒やされますね🥰…と思ったら油断はできない様ですね…笑 これからの展開楽しみにしてます✨ もう伏線があるなんて!! 全然気づけなかったです…笑 続き楽しみにしてます! これからも頑張ってください💕
待ちに待った新作!妖怪パロです!! ずっと書きたくてうずうずしておりました笑 今回、すおさく要素は薄いですが、どんどん2人についての話も出てきますので、楽しんでお持ちください✨️ 最近悲しいお話ばかりでしたから、偶にはこういうストーリーも良いですよね……?ですが皆様、緩い日常だけの物語だと油断はしませんように。このストーリーを作ったのはあのどっかの誰かさんです。勿論伏線は既に散ってます(続きます)