泡音
短編読切。
泡音
創作です。
蒸し暑い夏の日。
刻まれた名前は、眩しいくらいに明るかった、わたしの親友。
ナナ
…摩耶、久しぶり。
手を合わせる。
ナナ
あのね、あんたがいなくなってから変わったよ。
ナナ
うちのクラス。
そこで聞いてくれてる事を願いながら。
ナナ
摩耶、やっぱり中心だったんだよ、うちの。
ナナ
謙遜しなくても良かったのにさ。
摩耶は私の笑顔が好きだと笑ってくれた。
私は摩耶の笑顔が好きだった。
ナナ
…ねぇ、返事して。
うちに置いてたあんたが好きな飴。
もうすぐ、溶けちゃうよ。
摩耶
ナナっ!今度遊ぼうよ!!
ナナ
いーけど…また飴買いに行くの?
摩耶
うん!ナナも食べるあの飴ね!
世界一美味しい!
ナナ
…私なんかと食べる飴が?
摩耶
ナナと食べるから美味しいんだよー!
ナナ
今夏だよ?アイスとかは?
てかあの飴うちにいくらでもあるって…。
てかあの飴うちにいくらでもあるって…。
摩耶
ナナ、冷たいもの苦手でしょ!
ナナ
…そーだけどさ…
摩耶
だから、!
また2人で飴、食べよう!
ナナ
…うん。
土曜日。飴を買いに行った日。
ナナ
駄菓子屋さん、私達の事覚えてくれたみたいだね。
摩耶
ねーっ!値引きしてくれたよ!?
夏の太陽よりあつい笑顔が失われた日。
ナナ
元々が安いんだから、値引きなんてしなくていいのに。
摩耶
それはそうだねw
ナナ
…ね、摩耶。あのね、
摩耶
…っ!?ナナ、!!
ナナ
え、?
視線の先頭を走り出したのは、赤く染まっていく車。
いや、それより、横たわる黒髪の小柄な親友。
ナナ
…え、
運転手
だ、大丈夫ですか!?
車から飛び出してきた運転手が。
あまりにも、憎らしい。
全部、私のせいなのに。
ナナ
ねぇ、待ってよ、ちょっと、!
摩耶
…ね、ナナ
ナナ
摩耶、摩耶、
さっき、なんて言おうとしたの?
ナナ
…へ、?
太陽のあつい笑顔って言うより、月の朗らかな笑顔で。
優しく、優しく。
そう問うた。
ナナ
…なんでそんなこと、
摩耶
…あはっ、!
大切な事でしょっ、!
大切な事でしょっ、!
ナナ
…摩耶っ…
ナナ
…好きだよ、
摩耶
…ありがとう、
幸せ、って言おうとして動いた唇から、血が滴る。
運転手
救急車呼びました、!
近所の大人
大丈夫か!!
ナナ
…まや、
ナナ
…あめ
彼女が噛んでいた飴は道路に放られていた。
だから、私がまだ食べていなかった飴を彼女の口に入れた。
ナナ
…ね、おいし?
摩耶
…うん、世界一、ね…、!
そう、笑った。
ナナ
ね、ほんと、ほんと、ごめんね、ごめんね…、
ナナ
摩耶、摩耶、!
意味なんてないのに、泣いた。
届かないのに。
こんな涙。
いーよ、ナナ
また、飴、食べようね
泡音
おかえりなさい。
泡音
ここまで見てくださりありがとうございました。
泡音
それではまた!






