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ななか
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ななか
雨がさっきよりも強く降っている
車内は静か
おばあさんとおじいさんは空気を読んで、 私にタオルを渡したきり何も聞かない
優杏は黙って外を見ている
私は優杏を見られない
ただただ重たい沈黙が流れていた
藤野 翠
藤野 翠
その二つが、頭の中でぐちゃぐちゃに 絡まっていた
私は乱暴に頭を拭く
『翠もそういうこと言うんだ』
さっきの優杏の言葉が、頭の中で何度も 繰り返される
思い出す度に胸が痛い
でも、それ以上に
怖かった
家に着き、車が止まった
雨は今だ強く降っている
予報では晴れやったのに、とおばあさんが 不思議そうにしていた
ソラは屋根側にぎゅっと身を寄せて雨を 避けていたけど、少し濡れていて 寒そうだった
家に入り買ったものを冷蔵庫に入れてから、 優杏は一人で二階へ上がっていく
藤野 翠
やっと声が出た
話し合わないと
広瀬 優杏
藤野 翠
広瀬 優杏
藤野 翠
私は戸惑って、その場から動けなかった
広瀬 優杏
広瀬 優杏
藤野 翠
広瀬 優杏
即答し、優杏は私の分まで勝手に荷物を全部 リュックの中へ突っ込んで肩に掛けた
そのまま乱暴に腕を掴んで玄関に向かう
藤野 翠
抵抗するけど、優杏相手に本気で 暴れられないし そもそも優杏の方がずっと力が強い
私はそのまま玄関まで連れていかれた
後ろで翠が小さく抵抗してるけど気にしない
私は靴を履いた
おばあさん
異変に気づいたおばあさんが聞いた
広瀬 優杏
広瀬 優杏
広瀬 優杏
私は淡々と告げた
おばあさん
広瀬 優杏
おばあさん
広瀬 優杏
おばあさん
わかってる
何度も、誰か助けてって願ってきた
でも助けを求められる人なんていなかった
助けの求め方を教えてくれる人もいなかった
おばあさん
おばあさんの言葉が私の価値観を揺らす
広瀬 優杏
広瀬 優杏
私は翠のリュックをその場に下ろす
一瞬迷ったが、翠の腕を掴んでいた手を 離した
そのままドアを開けて走り出す
雨粒が容赦なく私の体を打つ
藤野 翠
翠の引き留める声が聞こえたけど、 私は走った
走って、走って、走って
もう、どこにもいたくなかった
藤野 翠
私は叫んで、咄嗟に優杏の後を走り出す
雨が降ってるとかずぶ濡れになるとか そんなん気にしてられない
藤野 翠
荷物をおばあさん家に置いたまま、 私はもうすでに小さくなってきている 優杏の背中を必死に追いかける
藤野 翠
怖いんだよ、きっと
理不尽で自分を認めてくれないあの場所が
藤野 翠
駄目だ、すぐ息切れする 体力の続かない私じゃ 運動部の優杏に追いつけない
足は重く、太腿は痛い
靴は水没して、歩くたびに水の音がするし
濡れた髪は顔に張り付く
藤野 翠
もう、誰の足音も聞こえない
私のぜえぜえとした息切れだけが、 強い雨の音に掻き消されていく
藤野 翠
優杏との思い出がフラッシュバックする
体育祭の練習の時、庇ってくれたこと
リスカがバレた時、不器用だけど 優しい言葉をかけてくれたこと
一緒にここまで逃げてきたこと
隣で一緒に星空を見たこと
藤野 翠
あの時の優杏の言葉
『学校行けなくなって』
『部屋に引きこもってたのは誰?』
そうだよ
私は元不登校
意気地なしで、行動力が無くて、 後悔ばかりで、一人じゃ何もできなくて
どうしようもない人間だよ
藤野 翠
独りぼっちじゃ、あの場所で ずっと泣きながら 耐えてるしかなかったから…!
『私もやろうとして調べたことが あるってことだよ。未遂だったけど』
優杏も辛かったんだ、ずっと
出会った時から私は優杏に 励まされ続けてきたのに、 私はまだ何も優杏に言えてない
優杏のおかげで、私は何度も救われてきた
否定されなかった
『一人じゃない』って思えた
なのに、今度は私が優杏を 一人にするなんて…… 絶対に駄目
藤野 翠
足元がもつれながらも、私はまた走り出した
雨の中、優杏は一人で歩いていた
どこに行くかなんて決めてない
テントには戻れない
ただ、止まりたくなかった
広瀬 優杏
大人も、翠も
“正しい方に戻そうとする”
広瀬 優杏
そのとき
遠くで、サイレンの音がした
広瀬 優杏
パトカーが一台、ゆっくりと近づいてくる
広瀬 優杏
捕まったら、またあそこへ戻される
なのに、足が動かない
私を、手元の資料と見比べながら警察官が 二人で話している。
広瀬 優杏
体は冷え切って動かない
靴は水没、足は重い
走れない
……私って、こんなに弱かったっけ
足音が近づいてくる
心臓がバクバク鳴ってる
警察官
警察官が声をかけようとした瞬間
藤野 翠
広瀬 優杏
振り返ると、翠がいた
びしょ濡れで、息を切らして
藤野 翠
状況も説明せずに、翠は私の手を掴んだ
そのびしょ濡れの冷たい手で、強く、強く
『逃がさない』って意思が伝わってきた
広瀬 優杏
藤野 翠
その力に自然と足が前に出て、二人で そのまま走り出した
翠に手を掴まれてからは、すんなりと足が 前へ前へと動く
私の心臓はまだバクバクしている
後ろから聞こえる足音、追いかけてくる声
怖くて振り返れないけど、翠の手は しっかり私の手を握っていた
藤野 翠
翠の声に、一瞬だけ足の重さが 和らぐ気がした
でも恐怖はまだ残っている
翠は振り返り、雨で濡れた瞳で私を真っ直ぐ 見つめた
藤野 翠
藤野 翠
その言葉には、寄り添う強さがあった
手の力も、力強く、私を前に引っ張る
心臓はまだバクバクしてるけど、 恐怖だけじゃなく、少しだけ希望も 混じっていた
雨で滑る道、荒い呼吸、握られた手の温度
今度は、翠が私を引っ張ってくれている
私はその背中を追いかけながら、 また一歩、また一歩と前に進む
雨で滑る道
地面を強く踏んで走るたびにバシャバシャと 水が跳ねる
荒い呼吸
握られた手の温度
今度は、翠が引っ張っていた
コメント
2件
251(ニコイチ)にしました!! いやぁ、もう感情移入しまくりでもう。私は誰?(???) とにかく翠ちゃんと優杏ちゃんがお互いのことを大事にしているってことは分かりました。 最&高ですよ!!!!ほんとにこれ無料で見ちゃっていいんですか?!売ってたら買いますよ?!3冊ほど。 1冊は観賞用もう1冊は保存用もう1冊はなめるよう(((