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その日、雪は降っていなかった
それなのに縁側の障子の向こう側だけが やけに霞んで見えた
ユイカ
ユイカは手にしていた湯呑みを台所に置き そっと障子を開ける
そこには___いつの間にか居た
白と淡い青が混じった毛並みの獣人が縁側にそっと腰を下ろしている。
長い尻尾は丁寧に揃えられ、狐の耳は年老いた木の枝のように静かだった。
こちらを見ているのかいないのか分からない、細められた金色の瞳。
アカリ
まるで独り言のような声。 けれど、その声は確かに神話の温度を帯びていた。
ユイカ
ユイカは一瞬だけ息を整え、自然に頭を下げる。
ユイカ
狐の獣人は、ゆっくりとユイカを見上げた。 その視線は値踏みするようで、しかしどこか眠たげでもある。
アカリ
――神。 その単語に、ユイカの心臓は一拍遅れて跳ねた。
けれど、不思議と恐怖はなかった。 威圧も、神々しさも、あるにはあるのに……目の前の存在は、どこか迷子の老人のようだった。
ユイカ
ユイカは少し考えてから、障子を大きく開ける。
ユイカ
アカリは目を瞬いた。
アカリ
ユイカ
淡々とした返答。 それが、アカリにはひどく眩しく映った。
アカリ
そう呟いて、アカリはゆっくりと立ち上がる。 神であるはずの存在が、人の家の敷居をまたぐ瞬間。
その日から、ユイカの家には ――帰る場所を失ったお狐様が、当たり前のように居着くことになる。