非現実逃避

目を覚ますと 白い部屋に閉じ込められていた。

記憶はない、けどこれだけは分かる。 何者かに監禁されている。

扉もなく真っ白い部屋の中に一際目立つ3色のボタンがあった。

再び辺りを見回した

このボタンに関わりたくないと願っての行動なのかもしれない。

しかしこのボタン以外は 何もない。。。

赤いボタンを押した。

目を覚ますとそこは病室だった。

私は母の悲しみに溢れた顔を眺めていた。

励ましてあげたいのに 笑って欲しいのに

私の体は動かなかった。

気づくとまた白い部屋にいた。

そしてまたボタンがあった。

ボタンの方に近づくと前とは少し違っていた。

赤と緑のボタンの下に「後2回」 青いボタンの下に「後1回」 と書かれていた。

そこには雄大な緑が広がっていた。

目一杯身体を動かした。

たくさんの美味しいものを食べた。

いっぱい友達と遊んだ。

お母さんとたくさんお話しした。

そこではなんでも思い通りになった。

(なんでも思い通りにしかならなかった、、、)

ボタンに近寄ると、全てのボタンの下に「後1回」と書かれていた。

そう呟きながらも 私は赤いボタンに手を伸ばしていた。

言葉も身体も正直だからこその 異様な行動だった。

今日は、母の誕生日だ。

私の給料からだと大分奮発したご馳走だ。

こんなに笑っている母を見るのは、

事故後、私が初めて話したとき以来じゃないだろうか。

今まで私は赤いボタンを押したことに後悔したことはない。

もちろん全てが思い通りに行かないし

緑のボタンの世界と同じようには行かないけど

私の手で自由な体を取り戻した

私の手でご馳走を用意出来た

私の手で大切な人を笑顔にさせれた

自分の手で何かを成し遂げることができる。

こんな幸せを感じることが出来ているのだから。。。

おしまい