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第九話

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第九話

第1話 - 第9話

2023年08月28日

#knkm

#夢小説

#金カム夢

#BL

リーベ

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第九話
#1 第9話 / リーベ

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忠成

第9話

忠成

始まります

浩平

あ…ああ！

月島

ああ、コラ二階堂！

月島

離せ！

男性

その瓶を渡しなさい！

浩平

やだ！やだやだ！

浩平

わあああああ！

月島

うう……

鶴見

何の騒ぎだ？月島軍曹

月島

鶴見中尉殿

浩平

やだー！

月島

二階堂がモルヒネを瓶ごと盗み、隠れて自分で打ちまくっていたのです

男性

過剰摂取で死んでも知らないよ〜

鶴見

二階堂ダメだぞ、お医者様の言う用量を守らないと

浩平

返して

鶴見

ダメ！二階堂、ダメ！

浩平

…洋平の右足、燃えちゃったよ、江渡貝君の家と一緒に、

浩平

足がないと杉元を追えないね

鶴見

自暴自棄になるのは良くないな、二階堂

隙を見て二階堂はモルヒネに手を伸ばす

鶴見

ダメだ！二階堂、ダメダメ！

月島

鶴見中尉殿、誰かいます、

月島

もし、どちら様？

有坂

私が何者とな？

有坂

私は君が担いでる小銃を作ったものである

鶴見

これはこれは有坂閣下！お待たせして申し訳ない！

月島

(有坂…！)

有坂

たあーッ！(馬車から飛び降りる)

月島

(天才的銃器開発者、陸軍中将、有坂成蔵！)

月島

失礼いたしました！

ﾊﾞﾀﾝｯ(倒れる音

有坂

元気だったかね鶴見君！

鶴見

そちらもお元気そうで！

鶴見

有坂閣下は長年の兵器開発で聴力が弱くなっておられるのだ

月島

なるほど…！

鶴見

いかがでしたか？旭川は

有坂

気球部隊を旭川にも作ったらしくてね

有坂

気球に何か兵器を載せたいらしいのだ！

有坂

あんなもの水素で浮かんどるから、一発撃たれたらぶっ飛んでしまうんで

有坂

偵察程度が関の山だ、それに動きが遅いしね！

有坂

これからは飛行機の時代だよ、

有坂

ん？

有坂

モルヒネかね、鶴見君！

有坂

相変わらず頭の傷が痛むのかね！

有坂

そういや鶴見君！寒冷地に適したケシの栽培は軌道に乗ったかね！

鶴見

農地を広げるべく、金策に走っております！

有坂

アヘンは儲かるよ！今英国が国際世論に押されて、アヘンかは手を引き始めてるからね！

鶴見

有坂閣下、ケシ栽培の話はどうか内密に

(鶴見と有坂が笑い合う)

月島

(有坂中将がわざわざ鶴見中尉に会いに小樽まで？)

月島

(まったくこの人は底が知れん…)

有坂

最新の国産銃器を持ってきた！

有坂

部下の南部君が設計した、三八式機関銃と三八式歩兵銃だ！

鶴見

美しい、美しさがこの銃の機能を物語っている

鶴見

売れますよ、この銃は！

有坂

ああー！

有坂

だがたくさん売れればたくさん人が死ぬ！！

有坂

つくづく呪われた仕事だッ！

鶴見

あなたは美しいものが作れてしまうんですから、作ったらいいんです！

鶴見

美と力は一体なのです！

鶴見

機能美を追求した結果、強い武器が生まれたのです！

鶴見

美しいものは肯定すべきです、有坂中将が作られた二十八サンチベートルりゅう弾砲も美しい兵器でした！

鶴見

二十八サンチベートルりゅう弾砲の援護射撃が、敵味方問わず若い男たちの体を引き裂き

鶴見

臓物と、血の雨を降らせた

鶴見

私はその血の雨の中を走りました、圧倒的な力が生み出す美しさでした！

有坂

鶴見君頭がどうかしとる！

鶴見

はっ、前頭葉が吹き飛んでおります！

(2人が笑い合う)

月島

(大きな戦争が起きることによって、鎮痛剤の需要は高まる)

月島

(そして、日本が誇る高品質の武器、アイヌの金塊をそれらの投資に充てる)

月島

(戦争が道民の仕事を生む)

月島

(戦争が引き続きなければいられなくなる、まさに戦争中毒)

鶴見

ヒグマが圧倒的な力で人間を襲う、

鶴見

誰がヒグマを責めますか？

有坂

ヒグマ？

鶴見

ヒグマに襲われた部下がいますがこう言いました

鶴見

美しい生き物だったと！

有坂

面白い部下だ！

鶴見

有坂閣下、彼は今ひどく落ち込んでおります、

鶴見

無理を承知でお願いしたい！

鶴見

一肌脱いでいただけないでしょうか？

数日後

浩平

うわああああああ！ぎゃぁぁぁ！

月島

また盗んだな！

月島

よこせ！鶴見中尉に言いつけるぞ！

月島

よこせ！

鶴見

二階堂

鶴見

貴様にステキなお客様がお見えだ

浩平

え？お客さん？誰なの？

鶴見

どうぞお入りください

入ってきたのは誰か分からないおじさんだった

浩平

誰？この人

浩平

誰！

浩平

ねえ、誰なの！？怖いよ！

鶴見

誰だお前、あっちへ行け！

鶴見中尉が誰なのおじさんを押し飛ばす

誰なのおじさんが壁にぶつかる

有坂

やあ君が二階堂君だね！

浩平

わあ、誰ぇ？

有坂

君に贈り物を渡しに来たよ！

浩平

贈り物？何ぃ？

有坂

気に入ってくれると嬉しいんだが

風呂敷を開ける

有坂

君の新しい足だよ！

浩平

ハア…何だ義足か〜

有坂

ただの義足ではない！

(義足の底から銃弾が放たれる)

男性

ほあぁッ！

有坂

急ごしらえで作ったものだけどね

有坂

散弾が二発入る小銃の実包ならもっと装弾数が多くなったろうが、

有坂

仕込み銃なので、どのみち不意打ちの接近戦以外では使えないだろう

有坂

近距離で確実に相手の動きを止めるなら、散弾の方が有効だ！

浩平

ありがとう！知らないおじさん！

男性

お前ら病院で何やってんだ！

(３人の笑い声)

ステキな足をもらえてよかったね！二階堂！

杉元

誰だ？こいつは

土方

鈴川望弘という結婚詐欺師だ

忠成

結婚詐欺師？

土方

変装の名人でね、網走で知り合った

杉元

網走で？

土方が鈴川の服の前らへんを少し開ける

杉元

てめえ、隠してたのか

土方

すべての情報を共有すると言った覚えはないぞ

牛山

じいさん、俺にまで黙ってたのか

土方

何、網走に行く途中で呼ぶつもりだったまでだ

牛山

食えないジジイどもだ

尾形

たかが結婚詐欺師に何ができるんだ？

鈴川

詐欺師は頭を使う

鈴川

暴力で人から何かを奪うような、野蛮な脱獄囚と一緒にしないでもらいたいね

鈴川

それで、俺にどうしろって言うんだ？

土方

第七師団から白石を助け出す

土方

白石が旭川第七師団の兵営のどこにいるのか

土方

中に潜入して探らなければわからない

鈴川

関係者に成り済ますか

永倉

カムイコタンでの一件で警戒してるはずだから、よほどの関係じゃない限り簡単に教えはしない

杉元

東京の師団の上級将校とかは？

尾形

いや、軍は上に行くほど横のつながりが強いから、架空の上級将校はバレる

(犬が外で吠える

鈴川

犬…

鈴川

犬童四郎助はどうだろうか？

牛山

犬童？網走監獄の典獄？

忠成

それいける？

杉元

似てるのか？

土方

似てないな

尾形

第七師団に網走監獄の典獄と親しい人間がいる可能性は低いが、よほど似てないと多少の面識のある人間にならばれちまうぞ、大丈夫か？

土方

犬童は厳格で潔癖、規律の鬼と言われながらも個人的な恨みで私を幽閉する矛盾を持ち合わせている

土方

その心のゆがみが顔に表れている

杉元

確かに、性格って顔に出るよな

杉元

ヒグマもキツネっぽい顔つきしてにらんでくるのは、気性の荒いヒグマだって…

杉元

そうなんだよね、アシリパさん

アシリパ

(寝てしまっている)

杉元

ダメだ、おねむの時間だ

忠成

もう夜も遅いし、無理もないだろう

鈴川

ふむふむふむ…ならばこれでどうかな？

犬童そっくりの人間が座っているが、これは鈴川だ

牛山

あ…

永倉

おお…

忠成

へー、こんなんなの？犬童っておっさんは。

牛山

ああ…そっくりだぜ。

杉元

…で、網走監獄の典獄に化けて

杉元

第七師団相手にどうしようってんだ？

鈴川

そう焦るな、俺に考えがある

土方

あとは任せよう

アシリパが土方に寄り掛かる

土方

フフッ(微笑む)

杉元

ほっとけよ、眠いと機嫌が…

土方

やれやれ、この子は大物だ

杉元

ん？

杉元

……(ニシン番屋での出来事を思い出す)

杉元

あ…！

土方

どうした？

杉元がアシリパを土方から離して、壁の方に寄り掛からせる

杉元

思い出したよ

杉元

あの時ニシン番屋に現れたジジイはあんただな？

杉元

白石はあんたたちと内通していたのか？

キロランケ

白石が内通？

杉元

ああ、そうだとすれば結構前からだ

忠成

一体何があったんだよ。

キロランケ

白石はカムイコタンで俺の手をつかもうとする時、確かに躊躇した

永倉

この状況ならもう過ぎたことでは？

杉元

…ってことは、認めるんだな？

土方

敵も味方もない中で必要なのは、ただ情報だ

キロランケ

バレたらお前に殺されるとでも思ったんだろ

キロランケ

やつの考えそうなことだ

尾形

どうするんだ？それでもまだ助けるのか？

尾形

助けた上で殺すのか？

杉元

一度でも裏切ったやつは、何度でも裏切る

アシリパ

杉元

アシリパ

殺さなくて済む人間は殺すな

旭川

杉元

この広大な第七師団の敷地のどこに白石がいるのか

杉元

監獄じゃないから敷地内に入るのは容易だろうが…

杉元

建物を一軒一軒探して回るなんてできるわけがねえ

杉元

連中のほうから白石を差し出させるか

キロランケ

白石を連行した連中の番号が27だった

キロランケ

旭川に4つある歩兵連隊の一つ、歩兵隊第27連隊、ここがやつらの兵舎だ

尾形

ちょっと待て、27連隊？

杉元

どうした？尾形

尾形

いやお前らアホか

尾形が肩についてある27という番号を見せる

杉元

あ…そうだったっけ

杉元

…ってことは鶴見中尉も同じ連隊か

尾形

白石は27連隊がひそかに確保している可能性が高い

尾形

なぜなら連隊長は、鶴見中尉の息がかかった淀川中佐だ

淀川

何？網走監獄の典獄が私に会いたいだと？

淀川

一体何の用だ？

ｶﾞﾁｬｯ

淀川

あ…

鈴川

網走監獄典獄、犬童四郎助です、はじめまして

淀川

ああ…

杉元

ううう…イヌドウ

忠成

ど、どうも〜…(顔を隠している)

忠成

(杉元何なんだそれ！何そのマスク！wwww)

淀川

あの、そちらの方々は？

鈴川

看守の杉元と忠成です

鈴川

5年前、家永という凶悪犯によって、顔をズタズタに食いちぎられましてね

淀川

う…

鈴川

見た目はこんなんですが、私の優秀な部下です

杉元

イヌドウ……

忠成

私…は……

忠成

とても…見せられない……顔…なので……

忠成

許…して…ください…

淀川

はあ、お気の毒に…

尾形

あれでよく入れたな

鈴川

白石由竹がこちらにいると聞きました

鈴川

身柄を網走監獄に返して欲しい

淀川

白石？そんな男は、ここにはおりませんが

淀川

(どこから漏れた？誰が漏らしたんだ？)

鈴川

とぼけないでいただきたい

杉元

うう…ううう…イヌドウ…

淀川

あ…ああ…

鈴川

私が出張で網走監獄を留守にしている隙を見計らって

鈴川

不法に囚人たちを移送したあげく、全員を逃がした

鈴川

あなたたち第七師団の尻拭いを私はしているのですよ

鈴川

連隊長殿

淀川

な、ああ…

忠成

……

忠成

(今は鈴川がいい感じに色々してくれてる…)

忠成

(これでどうなるか…だな…)

忠成

(奴らが素直にはいどーぞって渡すか…？)

忠成

(ほかに誰も来なきゃいいが…いやこれフラグだわ)

杉元

(こいつ…ただのしょぼくれた結婚詐欺師かと思ったが…)

杉元

(土方が隠し玉にしていただけのことはある、ただもんじゃねえぜ、鈴川望弘)

杉元

(もう一押しで、この中佐は落ちる)

忠成

(さあ、どうなるかな……)

女性

申します、申します

女性

市内ですか？市外ですか？

鶴見

市外です！

鶴見

旭川の第七師団、27連隊司令部に！

鶴見

鶴見だ！淀川中佐の独断に従ってはならんぞ！

鶴見

白石を誰にも接触させるな！

鶴見

犬童四郎助が網走監獄を一歩でも動けば、網走にいる部下から報告が来たはずだ！(マイク的なのを噛んでる)

月島

近すぎます鶴見中尉殿

鶴見

鯉登少尉を向かわせろ！

尾形

あれは…

尾形

マズいぞこれは、

尾形

やつは鶴見中尉のお気に入りの薩摩隼人だ

ｶﾞﾁｬｯ

白石

え？

白石

なに？これ

白石

どういうこと？

鈴川

表に偽造犯を連れた部下が待機しています

鈴川

白石との交換は外で行いましょう

鈴川

網走監獄の一件でこちらとしても疑り深くなってますゆえ

白石

(なるほど、よく似てるけど、こいつは犬童に化けたニセモノだ)

白石

(そして後ろの何のつもりか分かんねえのは、服を見るに杉元と忠成)

白石

(俺を取り戻しに来たのか)

ｶﾞﾁｬｯ

忠成

ん？

淀川

どうした？鯉登少尉

鯉登

鶴見中尉が旭川へ到着するまで、白石には誰とも接触させるなと指示されているはずですが

杉元

(マズい、鶴見の手下か)

忠成

(鯉登？誰だかわからんが美形だな…)

鈴川

中尉の言いつけを守らんと行けないのですかな？

鈴川

淀川中佐

杉元

うう…うう…

忠成

う…う…

淀川

戻れ、お前など呼んでおらん

鯉登

犬童様、

鯉登

ちんちんぬきなもっしたなあ

忠成

(薩摩弁…！)

白石

ちんちん？

鈴川

んん…

鯉登

犬童様が月形の樺戸監獄で典獄を務められていた時、

鯉登

薩摩藩の囚人たちと接する機会が多く

鯉登

薩摩の方言を流暢に使いこなすとお聞きしました

淀川

鯉登、何のつもりだ？

鯉登

さっきおいがなんちゅうたかこたえてみっくんやんせ(訳:さっき私が何を言ったか答えてみてください)

杉元

んん…

杉元が後ろで銃を手に取る

忠成

(こっちは短剣でいいかな…？)

鈴川

よがへるとひえっくもんでな

鯉登

ん…

鯉登

薩摩弁)だんだん暖かくなってきましたな

鈴川

薩摩弁)日が暮れると寒くなるけどな

杉元

(さすが天才詐欺師、短い時間にそこまで対策してきたか)

鯉登

薩)朝は火鉢が要りますね

鈴川

薩)独り占めしてます

鯉登

薩)さつま揚げ食べた事ありますか？

鈴川

薩)酒のツマミにぴったりだ

白石

(何言ってるかさっぱりわからんな、ホントに同じ和人の言葉かよ)

鯉登

相当な飲兵衛だと聞きました

鈴川

近頃は弱くなりました

(銃声が3回なる)

杉元

うう…

忠成

……痛いなぁもう

鯉登

鶴見中尉の情報では、犬童四郎助は、

鯉登

下戸だ！

淀川

うう…ナメくさりおって！

淀川

こいつなんて、さっさと皮にしてしまえばよかったんだ！

白石

ちょっと待て！

鯉登

白石は殺さないでください、鶴見中尉に叱られてしまう！私が！

杉元が白石を庇う

白石

杉元！

杉元

俺は不死身の杉元だァァァァァァア！

忠成

杉元！どこ行く…

窓に体当たりして逃げ出す

忠成

うっそおぉ！

忠成

…って俺も行かなきゃ！

白石

うわああああ！

鯉登

追え！

男性

はい！

銃声

鯉登

外の仲間か…

白石

イタタッ

杉元

こっちだ白石！キロランケたちが馬を待たせてる！

白石

杉元、お前大丈夫かよ！

杉元

走れ！白石！

忠成

無理すんな！マジで！

鯉登

逃すな！

尾形

杉元こっちはダメだ、南へ逃げろ、あっちだ

尾形

さっきの銃声で蜂どもごあちこちの巣から飛び出してきた

白石

杉元と忠成が撃たれちまった！

尾形

不死身なんだろ？死ぬ気で走れ

白石

無理だ！こんな傷の杉元が走り続けられるわけがねえ！

杉元

俺の、足が止まったら…

白石

あ…

杉元

白石、お前がアシリパさんを網走監獄まで…

忠成

話しているところ邪魔してすまんが

白石

ん？

忠成

無理だったら俺が担ぐ！

白石

大丈夫なの！？

忠成

任せろ！傷は完治してる！

(一同)ハッ…

白石

何だ？ありゃ

尾形

気球隊の試作機だ

白石

ハッ、あれだ、あれを奪うぞ！

(兵士たちのどよめき)

尾形

全員さがれ、もっと離れろ！

杉元

よこせッ！(銃を奪う)

白石

早くしろって言ってんだろ！

忠成

てめっ…邪魔だよ！どっか行け！(兵士を投げ飛ばす)

杉元

下がれ！撃つぞ！

男性

どうせ撃てっこねえ

男性

撃てば水素に引火しかねん

男性

捕えろ！

兵士たちが登ろうとしてくる

忠成

おわ！何だテメェ！

忠成

おい、足掴むなこの野郎！

杉元

離せ！てめえら、コラ！

男性

あ！俺の軍刀！

鯉登

ハッ(兵士の頭の上を飛ぶ)

忠成

うわ何だあいつ！

杉元

あ…

杉元

鯉登少尉…

牛山

何だ？ありゃ

キロランケ

杉元たちが乗ってる

キロランケ

やっぱさっきの銃声はあいつらだ！

キロランケ

あれで逃げる気だ！

杉元

銃剣をよこせ、俺がやる

尾形

薩摩に伝わる自顕流を使うぞ

尾形

二発撃たれた状態で勝てる相手じゃない

忠成

気をつけろよ、杉元…

鯉登

な…

鯉登

尾形百之助、貴様！

鯉登

(早口の薩摩弁)よくも鶴見中尉殿を裏切ったな！前から貴様は大嫌いだった、私の事をボンボンだと舐め腐って陰口を言ってた事は知っておる！

尾形

相変わらず何を言ってるかさっぱりわからんですな鯉登少尉殿

尾形

興奮すると早口の薩摩弁になりもすから

鯉登

貴様ら全員叩き斬ってやる！！

杉元

うう…！

尾形

受けるな！

鯉登

(雄叫び)

鯉登

キエエエエッ！

弓矢が柱に刺さる

鯉登

…白石ッ！く…

白石

トウッ！

杉元

白石ィィィ！

鯉登

覚えてろよ！貴様ら全員鶴見中尉殿に叱られるからな！

忠成

よく響くねぇ〜

白石

あばよっ鯉登ちゃん

杉元

白石！木に突っ込むぞ！

白石

ええっ！

木の中に突っ込む

白石

痛…イタタタッ

白石

痛いーー！

忠成

お…出てきたけどアシリパもいる！

杉元

アシリパさん！

鯉登

(鶴見中尉の写真をみて)ハア…鶴見中尉殿に叱られる……

アシリパ

肩の銃弾は貫通してるが、左胸にはまだ弾が残ってる、あとで取り出さないと

アシリパ

忠成はどうだ？

忠成

ん？俺はね…(口から弾を吐く)

忠成

大丈夫だぜー！

白石

こんな危険を冒してまで俺を取り戻しにくるなんて…

白石

俺は脱獄王だせ？自分で逃げられたのに

アシリパ

みんな白石は諦めようと言った

アシリパ

助けに行こうと言い出したのは杉元だ

白石

な…本当？

杉元

網走では、白石が必ず俺たちの役に立ってくれる

杉元

お前を信じてたから、助けに行こうと決めた

白石

ああ…

杉元

でも思い出したんだよ

杉元

白石

白石

え？

杉元

ニシン番屋で出会った変なジジイのことを

白石

あ…

杉元

お前、土方と内通してたな？

白石

う…

白石が逃げようとする

杉元

待て白石！逃げるな！

杉元

これを見ろ！

白石

え…

白石

は…それは…

杉元

白石が札幌で牛山に手渡した、辺見和雄の入れ墨の写しだ

杉元

土方歳三が俺に見せてきた、確認したが…

杉元

デタラメの写しだった

忠成

…てことはね〜

杉元

白石は俺たちを裏切ってなかった

白石

そう！そのとうり

白石

言ったはずだぜ！俺はお前らにかけるってな！

(プロペラの調子が悪い

杉元

おい、何か調子悪いぞ

忠成

試作機だからか…？

白石

ウキーッ(ﾍﾞｼｯ

アシリパ

ウキーッ(ﾍﾞｼｯﾍﾞｼｯ

忠成

何それ楽しそー！

尾形

やかましい

杉元

ん？

杉元

うおおおお！

杉元

危ねえ…

アシリパ

パウチチャシだ

アシリパ

パウチチャシとはパウチカムイが住む村という意味で

アシリパ

パウチカムイの砦と言われている

アシリパ

パウチカムイは淫魔で、あまり心のよくない神様だ

アシリパ

取り憑かれるとその人間は素っ裸になって踊り狂う

白石

フッそんなバカな！

白石

アイヌは想像力が豊かだねえ！

杉元

第七師団の兵営から、40キロぐらいは離れられたな

尾形

馬に乗って追ってくる兵士が上空から見えた

尾形

あんな目立つものに乗っていたんだから、おおよその位置は把握されている

尾形

グズグズしてたら追いつかれるぞ

アシリパ

杉元の手当てをしないと

アシリパ

レタンノヤ、ノコギリソウを見つけた

アシリパ

葉を揉んで塗れば、止血の効果がある

杉元

鯉登少尉が撃った拳銃は二十六年式、豚の鼻に当たってポトリと落ちたで有名な低威力の拳銃さ

杉元

そんな銃で俺が殺せるかよ、

杉元

鈴川は豚の鼻より弱かったが…

アシリパ

は…鈴川は殺されたのか？

忠成

あ…これヤバい！

尾形

見つかった！

杉元

え…

尾形

急げ、大雪山を越えて逃げるしかない

白石

…マジかよ、この山を！？

杉元

マズいぞ！天気が急に崩れてきた！

忠成

風すげええええ！

白石

うう…風が冷たい

忠成

俺の着る？

白石

いいの！？忠成着てるの二枚だけでしょ！でもありがとう！

アシリパ

どんどん風が強くなる！雨も降りそうだ！

白石

無理だ！戻ろう！

尾形

バカを言え、追っ手が来てるんだぞ

杉元

残雪に穴を掘って避難するか？

アシリパ

ダメだ！身を隠せるほど雪が残ってない！

白石

あ…フヒヒヒッ

アシリパ

白石の様子がおかしい！

尾形

風を避ける場所を探すんだ、低体温症で死んじまうぞ

アシリパ

ハッユクだ！

アシリパ

杉元、雄を撃て！大きいのが3頭必要だ！

杉元

鹿を撃つのか？

尾形が2頭仕留める

杉元

2頭同時に！

アシリパ

急いで皮を剥がせ、大ざっぱでいい！

アシリパ

鹿の体よ中に避難する

杉元

鹿の死体の中に？

白石

アハハハハハッ

忠成

あ…

白石

アハハハハッハハハハッ

忠成

白石！素っ裸でどこ行くんだ！

アシリパ

パウチカムイに取り憑かれた！

杉元

錯乱している、白石ー！

アシリパ

杉元、その傷でもう走るな！お前と尾形と忠成は早く鹿をさばけ！

杉元

……

忠成

あれ？白石！？

白石が裸で鹿の隣で寝ている

杉元

白石！

杉元

え…アシリパさんは…

杉元

く…

尾形

おい杉元！

忠成

さばけた！あれ？杉元アシリパのこと探しに行った？

忠成

…あ、とりあえず！尾形、入れ！

忠成

ごめん…一緒に入ってしまった…

忠成

後ろ狭くないか？

尾形

……

忠成

おが…(腰に手を回される)

忠成

尾形？

尾形

なんでもねえ…

忠成

そうか、なら良かった！

忠成

……ひっ

忠成

つめたっ…

忠成

尾形っ…どうした？

尾形

さみい…

忠成

でもなんで…

忠成

あっ…

尾形

どうした、

忠成

えっと、前俺は鬼だから感覚が鋭い事は言ったんっ…だよな？

忠成

くすぐったいんだ……

尾形

ははぁ、そういうわけか…。

忠成

え…尾形…

忠成

やめっ…

忠成

ちょっ…んぅ……

忠成

フッ……く……w

その後結構くすぐられた

尾形

近くにはいないようだな

杉元

第七師団の連中も、さすがにあの天候では進めなかったか

忠成

あれは酷かったもんな〜

白石

このまま諦めて帰るとは思わないけどな

杉元

奴らは俺たちが、網走方面へ下山すると読んでるはずだ

杉元

意表をついて、ここは十勝面へ下山して、追っ手をまこう

アシリパ

そうしよう、キロランケニシパたちには、はぐれた時は網走で会おうといってある

忠成

てか白石、俺の羽織返してくれないか？

白石

あ、ごめ〜ん

アシリパ

大丈夫か…？

忠成

何がだ？

アシリパ

白石は臭いからうつってないかが心配だ

杉元

白石お前、良い匂いが消えたらどうすんだ！

忠成

白石の匂いうつってる？どう？

尾形

(ｽﾝｽﾝ)……

忠成

うつってない？

アシリパ

(ｽﾝｽﾝ)大丈夫だ！

白石

いつもどうりだぜ！

鶴見中尉は谷垣の昔の話を聞いている

チカパシ

ねえ、あれみて！

谷垣

あ…

チカパシ

遠くの方で誰か踊ってる！あれアシリパじゃない？

アシリパ

フントオリーフンチーカッハア　ホオオ

アシリパ

ホーイホオ

杉元

へえ、それが釧路に伝わる舞か

アシリパ

サロルンリムセ、鶴の舞だ

アシリパ

フントオヒー　フンチーカッハア　ホオオ

アシリパ

ホーイホオ　

尾形

ん…誰か来るぞ

杉元

ん？

忠成

３人いる、1人は子供だ

アシリパ

ん？

チカパシ

ほら！やっぱりアシリパだよ！

アシリパ

チカパシとチロンヌプ、それに谷垣だ

忠成

あいつら接点あったっけ

アシリパ

どうして…

チカパシ

やっと見つけた！

チカパシ

小樽からずっとアシリパを捜してきた！

アシリパ

私を？

杉元

ん？

チカパシ

あっちの森で狩りをしてるアイヌに会って聞いたんだ！

チカパシ

そんなに遠くから来たのかってびっくりしてたよ！

チカパシ

みんな一緒にコタンに遊びに来いって！

チカパシ

ヒグマが取れたらしいよ！行こうアシリパ！

アシリパ

行こう杉元、ヒグマの鍋が食べられるぞ！

白石

それより俺は街を出てインカラマッちゃんにおごってもらいたいな！

忠成

…このッヒモがッ(チョップをかます)

白石

痛い！

チカパシ

ダメだよ、インカラマッは俺の家族なんだから

白石

家族？

チカパシ

うん！インカラマッはオッパイ触っても怒らないお姉ちゃんで、谷垣ニシパはヒモなんだ！

インカラマッ

ですね

谷垣

(なぜここに…)

アシリパ

……ヒモ……

谷垣

あ…あいや…

女性たちの歌声

キラウシ

ん？

キラウシ

ああ、会えたか、よく来たな

男性

もうじきカムイホプニレが始まる

キラウシ

楽しんでくれ

杉元

ん？

忠成

カムイホプニレ…ってなんだ？

アシリパ

カムイホプニレは神の出発という意味の儀式で、

アシリパ

狩りによって取ったヒグマを送るものだ

アシリパ

檻で育てた飼い熊を送るイオマンテとはまた別の儀式だ

男性

オーホホホホ〜イ

杉元

オーホホホホ〜イ

アシリパ

オココクセという叫びだ！

アシリパ

火の神様に熊が取れたことを知らせる意味もある

アシリパ

カムイと呼ばれるのは、人間ができないこと、役立つものや災厄をもたらすものだ

アシリパ

火は私たちの生活に欠かせない

アシリパ

刃物は手で切れないものをきれいに切ってくれるから、カムイが宿ってる

アシリパ

木も山に座ってるカムイ

アシリパ

天候や疫病などは、人間の力が及ばないからカムイだ

アシリパ

でも決して、人間よりもものすごく偉い存在ではなくて

アシリパ

私たちと対等と考えてる

アシリパ

狩猟というのは、人間が取るんじゃなくて、カムイのほうから弓矢にあたりに来ると考えられてきた

アシリパ

人間を招待されて、肉や毛皮を与える代わりに、カムイは人間しか作れない、酒やタバコなどが欲しい

アシリパ

私たちは、カムイを丁重に送り出し、人間の世界は良い所だと、他のカムイにも伝えてもらわなきゃならない

アシリパ

ひどい扱いをすれば、そのカムイは下りてこなくなる

みんなの賑わう声

忠成

どうだ、楽しいか？

尾形

……

忠成

白石とか爆睡だなあw

尾形

お前はどんだけ飲むんだよ

忠成

注がれたら飲むだけだ、俺は酒に強いんでな

忠成

お、チカパシも寝てるな〜よしよし。

インカラマッ

ふふっ(微笑み)

忠成

白石はあそこだと邪魔だな、どかすか！

忠成

みんな寝たかな…(小声)

アシリパ

フチ…

忠成

(俺は慣れたことだから、あまり悲しみもないが…アシリパもまだ子供だ、仕方ない…)

尾形

そんなことを伝えにわざわざ小樽から来たのか？

尾形

谷垣一等卒

谷垣

尾形上等兵

尾形

本当は鶴見中尉の命令で俺を監視しに来たのだろう？

谷垣

違う、俺はもう軍に関わる気はない

谷垣

世話になったばあちゃんのもとに、孫娘を無事帰す

谷垣

それが俺の役目だ

尾形

どうだかな

尾形

貴様は鶴見中尉を信奉し、山で３人の戦友を殺した男だ

杉元

ん？山で？

杉元

谷垣と行動していた３人のことか？

杉元

あいつらを殺したのはヒグマだ

杉元

俺があの場にいたんだから間違いない

谷垣

ヒグマ…

尾形

フン、ばあちゃんが二度と孫と会えなくなる夢を見たって

尾形

たかが夢だろ、手紙でも送っておけよ

アシリパ

夢というのは、カムイが私たちに何か伝えたくて見せるものと、強く信じられてきた

アシリパ

私は信じなくても、フチは古い考え方のアイヌだから、

アシリパ

それにフチは昔、ある夢を見た

アシリパ

自分の娘の周りに、熊がたくさん集まって、送っている夢だった

アシリパ

その後すぐに、私の母は病気で亡くなったとフチが話していた

アシリパ

だからなおさら夢占いを信じてるんだ

杉元

アシリパさん、一度帰ろうか

杉元

一度顔を見せりゃ、孫娘とは二度と会えないってフチが見た予言は無効だろ？

杉元

元気になるさ

杉元

我慢しなくって良いんだよ

アシリパ

子供扱いするな、杉元

アシリパ

私にはどうしても知りたいことがある

アシリパ

知るべきことを知って、自分の未来のために前に進むんだ

キラウシ

おい、谷垣ニシパ

キラウシ

その村田銃、気になってたんだが、二瓶鉄造の物じゃないか？

谷垣

あ…二瓶を知ってるのか？

キラウシ

10年以上前、ヒグマを一緒に狩った

キラウシ

腕が良すぎて、ヒグマがこの土地からいなくなるかと思ったほどだ

谷垣

二瓶は山で死んだ、この村田銃は俺が引き取った

キラウシ

そうだったか

キラウシ

しかし、あんたにはそんな古い銃、扱いにくいだろ

谷垣

二瓶鉄造が、俺を兵士からマタギに戻してくれた

谷垣

獲物を撃つ時の持ち方を忘れないために持つことにした

キラウシ

勝負は常に一発で決めろ、か？

谷垣

フッ

キラウシ

その銃床に小さな7本の傷があるだろ

キラウシ

二瓶が俺に話してくれた

(二瓶)俺には子供がたくさんいるが、息子は1人だけでね

(二瓶)これはこの息子が日清戦争で使っていた銃だ、届けてくれた息子の戦友が、この銃床の傷は息子さんが敵を撃つたびに刻んでいたと

(二瓶)７人目で刻むのをやめたのか、７人目であいつの方が死んだのか、どちらにしろ、息子は楽しんで人を撃つようなやつじゃない

(二瓶)殺した責任をしょい込むような甘ったれは、兵士なんぞにならないで、俺と熊撃ちをしていれば良かったんだ

谷垣

………

ｶﾞｻｶﾞｻｯ

谷垣

ん？

茂みの中からリュウが顔を出す

谷垣

あ…お前リュウか！

リュウが吠える

アシリパ

リュウ！

忠成

お〜！再会だな！

チカパシ

ホントだ！リュウだ！

杉元

なんで二瓶の犬がこんな所に…

キラウシ

連れてきていたのか？

谷垣

いや…

杉元

ハッもしかしてリュウ、お前まさか…

杉元

谷垣が持っていた二瓶の忘れ形見を、ずっと追いかけて…

杉元

リュウー！お前なんて健気なイダッイテテテテテッ！

杉元

痛えなクソ犬！あっち行けよ！

忠成

杉元のことは嫌いか〜？ほら〜よしよし！

白石

リュウは忠犬だぜえ

白石

主人と敵対した相手は忘れてねえ

コタンのみんなとバイバイする

杉元

谷垣はこれからどうするんだ？

谷垣

アシリパが目的を果たすまで、俺もついていく

杉元

そうか

谷垣

アシリパ、街に出たら俺がフチに電報を打とう

アシリパ

分かった

杉元

じゃ、網走に向けて出発だな、アシリパさん

アシリパ

ああ！

鯉登

ハア…鶴見中尉殿に叱られる…

鯉登

白石由竹を逃がしたと聞いてさぞかしお怒りだっただろう

鯉登

どんな様子だった？

鯉登

…月島軍曹

鯉登

鶴見中尉殿は私のことを何か言ってなかったか？

月島

あ…

鯉登

言わなくていい！

鯉登

分かってる！月島ァー！

鯉登

きっと私は網走にでも行かされて犬童四郎助の監視でもやらされるのだ！ああ…

月島

鯉登少尉、お気を確かに

月島

ほらほら、頼まれた写真を持ってきましたよ

鯉登

ハッ！

鯉登

(鶴見の写真を見ながら)おお！良い良い良いではないか、月島ァ！

鯉登

鶴見中尉殿のお顔に傷がないから奉天会戦の前くらいか…

鯉登

ハア…

鯉登

私は月島軍曹が羨ましい…

月島

ん？

鯉登

あとほんの少し早く生まれていれば、私もおともすることができたのに…

鯉登少尉が自分の写真を貼り付ける

鯉登

いいぞ！ピッタリだ！

鯉登

月島、米を潰してのりを作ってくれ！

月島

嫌です

鶴見

来てたのか鯉登少尉

鯉登

キエエエエッ！

鯉登

すんもはん！おいがとばれんかったで白石をひっにがしてしまいもした！

鯉登

じゃっどん入れ墨だけは事前に写しちょいもした、じゃっちゅってん許さるいわけじゃあいもはんどん！

鶴見

落ち着け、早口の薩摩弁だとまったく聞き取れんぞ、深呼吸しろ

鯉登

ふぅー…

鯉登

ひっにがしてしまいもしたどん、白石ん入れ墨は写しちょいもした！

鶴見

分からん！

鯉登

月島ァ！

鯉登

(月島の耳元で)白石に逃げられはしましたが入れ墨は写しておきましたと言え

月島

…白石の入れ墨は写してあるそうです

鶴見

どうして私にだけ早口の薩摩弁になるのだ？鯉登少尉

鶴見

白石という男に利用価値があると判断したから殺すなと命じたのだ

鶴見

それをみすみす敵の手に渡すとは、失望したぞ鯉登少尉

鯉登

ああ…(ｺﾞﾄﾝｯ)

鯉登

ハッ

上着を脱いで刺青人皮の服？を見せる

鶴見

ほほう、似合ってるじゃないか

鶴見

犬童に化けていた囚人の皮だな？

鶴見

確かにこれは思わぬ収穫だったな、情報を総合するにこの刺青人皮は、詐欺師の鈴川望弘と見ていいだろう

鶴見

よくやったぞ鯉登少尉

鶴見

ただ…剪が甘いな

鯉登

ガッ…

鯉登

すんもはん！すんもはん！

鶴見

そういうところだぞ、鯉登少尉

鶴見

お前は旭川での任務を外れろ

鯉登

う…ああ…(床に座り込む

鶴見

これからは…

鶴見

私の囚人狩りに参加するのだ

鯉登

ハア…！

鯉登

あ…(月島に伝えたいことを言う

月島

精進いたしますと言ってます

月島

(面倒くさい)

鶴見

旭川で白石と杉元と共に飛行船に乗っていたのは、間違いなく尾形上等兵だったんだな？

月島

…はい

月島

尾形の父である、元第七師団長、花沢幸次郎中将の自刃に泥を塗る行為でありますと

月島

私の父ですら、花沢中将の自刃を第七師団の責任とした中央へ、強い不信感を持っているのに、

月島

尾形は一体どう言うつもりなのかと、

鶴見

鯉登少尉の父君は、花沢中将と同じ薩摩の生まれでご親友同士であったそうだな

鶴見

自刃は二〇三高地の甚大な被害を中央がすべて花沢中将になすりつけたのが原因だ

鶴見

尾形百之助も当然、父君の名誉と第七師団のために戦ってくれると、私は信じていたのだが…

尾形

当時…

尾形

父上は近衛歩兵第一連隊長陸軍中佐

尾形

世間体を考えれば浅草の芸者とその子供は、疎ましく感じたでしょう

尾形

本妻との間に男児が生まれると、父上はぱったり来なくなったと祖母から聞きました

尾形

祖母はまだ母と赤ん坊の俺を茨城の実家に連れ戻した

尾形

母ひよく、アンコウ鍋を作ってくれました

尾形

西のフグに東のアンコウってね

尾形

地元の庶民的な鍋です、俺も好きで食べてました

尾形

でもね、それが毎日なんですよ

尾形

冬の時期はね、母は毎日…アンコウ鍋を作ろうとするんです

尾形

父上がおいしいと言ってくれたからまた食べに来てくれると信じて、毎日毎日…

尾形

頭がおかしくなってたんです

銃声

尾形

俺は祖父の古い銃を持ち出して畑へ行って鳥を撃った

尾形

鳥があれば母ひアンコウ鍋を作らないと思って

尾形

…でも、いくら鳥を撃っても、

尾形

アンコウ鍋を作り続けるんです

尾形

だから俺は、祖父母が留守の時、殺鼠剤をアンコウ鍋に入れて母に食べさせた

尾形

少しでも母に対する愛情が残っていれば、父上は葬式に来てくれるだろう

尾形

母は最期に愛した人に会えるだろう、と

尾形

でも…

尾形

あなたは来なかった

花沢幸次郎

自分たちを捨てた恨みとでも言うつもりじゃあるまいな

花沢幸次郎

貴様も頭のおかしくなった母親が哀れで、疎ましかったのだろう

花沢幸次郎

私と同じじゃ

尾形

子供は…親を選べません

尾形

愛という言葉は神と同じくらい存在があやふやなものですが、

尾形

仮にあなたに愛情があれば、母を見捨てることはなかったと思います

尾形

愛情の無い親が交わってできる子供は、何かが欠けた人間に育つのですかねえー…どんなにご立派な地位の父親でも

尾形

父上と本妻との間に生まれた息子さん、花沢勇作少尉が高潔な人物だったことも証明してる気がします

尾形

入隊して初めて会いましたが面を食らいましたよ

尾形

規律が緩みますからと何度注意しても、部下の俺を兄様と呼ぶのです

尾形

一人っ子育ちでずっと兄弟が欲しかったと、俺にまとわりつくのです

尾形

あの屈託の無い笑顔、

尾形

あー…これが両親から祝福されて生まれた子供なのだ…

尾形

と心底納得しました

尾形

ところで花沢勇作少尉が、二〇三高地でどうやって亡くなったか…

花沢幸次郎

うう…

尾形

父上は本当のことをご存じないはずだ

(銃声)

尾形

俺が後頭部を撃ち抜きました

尾形

少尉殿に対する恨みからじゃありません

尾形

父上を苦しませたい、というのともちょっと違う

尾形

ただ、一つ確かめてみたかった

尾形

勇作さんの戦死を聞いた時、父上は俺を思ったのか、無視し続けた妾の息子が、

尾形

急にいとおしくなったのではないかと

尾形

…祝福された道が俺にもあったのか

花沢幸次郎

貴様の言うとおり…何かが欠けた人間、

花沢幸次郎

出来損ないのせがれじゃ…

花沢幸次郎

呪われろ…！

鶴見

中央は第七師団に、自刃の責任を被せるだろう

鶴見

我々にとって厳しい時になるが、耐え忍ぶのだ

鶴見

外敵を作った第七師団は、より結束が強くなる、第七師団はただ1人残された花沢中将の御令息を担ぎ上げる

鶴見

失った軍神を貴様の中に見るはずだ

鶴見

よくやったぞ、尾形百之助

鶴見

よくやった

尾形

(たらしめが…)

鶴見

そういえば鯉登少尉

鯉登

(月島に言う)

月島

はい、なんでしょうか

鶴見

他に誰か乗っている所を見たか？

月島

杉元、尾形、白石と他1人、忠成と呼ばれてた男がいました

鶴見

ほう、忠成とな？

月島

フードをかぶっていたので顔は見えなかった、と言ってます

鶴見

それは仕方がない、あの男は鬼なのだ

鶴見

(しかし、日光に当たらない限り不死身…

鶴見

この軍には必要な人材だ…)

白石

マンボウ？

杉元

夏はマンボウが水面でプカプカ昼寝してるから、上に乗って、肉とか内臓とかを切り取るんだと

忠成

わ、すっげ目玉動いたー

白石

結局、旬の物を食べたいだけじゃねえの？

インカラマッ

しっかりと縫い付けておきましたので

谷垣

ありがとう、世話になりっぱなしだ、俺もチカパシも

インカラマッ

いえいえ、私も男性がいれば、道中安全ですから

谷垣

あ…！

インカラマッ

谷垣ニシパは私に冷たいけど、いざとなると優しいです

谷垣

…

男性

(アイヌ)あんたら夫婦か？

男性

肉いらんか？

谷垣

え？

インカラマッ

ラッコの肉をくれるそうです

谷垣

ラッコ？食べたことないな、ありがとう

男性

必ず2人だけで食べなさい

インカラマッ

あ…

谷垣

何だって？

インカラマッ

ハマナスの実を採ってきますね

谷垣

ん？

アシリパ

ん…

チカパシ

何だ？あの黒い雲は

杉元

う…

杉元

やだあ、バッタ嫌ーい…

白石

不死身のくせに…

尾形

マズいぞこれは

忠成

あれやばくない…？

杉元

あ？

大量のバッタがこっちに向かってくる

杉元

うわあ！

白石

嫌ー！

杉元

こいつら！服かじるぞ！

忠成

ええー？ちょっとやめて、服はダメ！

谷垣

番屋だ、あの番屋に遭難だ！

谷垣

インカラマッが近くにいたはずだが

杉元

死にはしねえよ、早く入れ！

ガラッ(戸をあける)

谷垣

ハア…ハア…

白石

アイタタタッ一体何が起きてるんだ？

忠成

もー…服めっちゃかじられた…

尾形

飛こうってやつだ

尾形

洪水やら何やらで条件が重なると大発生する時がある

尾形

こいつらは集団で何十キロもの距離を移動し、海だって越えちまう

尾形

農作物や草木はもちろん、家の障子や着物まで食われる

白石

通り過ぎるまでどれくらいかかるんだ？

白石

腹減ったぜ

杉元

アシリパさん、大丈夫だろうか？

白石

ラッコの肉って独特なにおいがするな、ホントに食べられる物なの？

忠成

わかるー、何なんだろうねこのにおい

杉元

(何か変だ…どう見ても、白石が色っぽい)

谷垣

杉元、大丈夫か？

杉元

ん？

谷垣の服のボタンが取れる

忠成

あ…

杉元

あ…

谷垣

おっと、またボタンが…

忠成

よく取れるねー…

白石

(このマタギ、スケベすぎる…)

忠成

(あっつい…)

尾形

ああ…

白石

ハッ

尾形

ああ、頭がクラクラする

白石

大丈夫か、尾形！

杉元

横になれ、今すぐに！

谷垣

あ…

忠成

大丈夫？尾形、熱？

忠成

(…すっごいあつい、これ死ねる)

谷垣

胸元を開けてらくにしたほうがいい

白石

下も脱がせろ、いや全部だ！

ガラッ(戸が開く音

杉元

あ…

忠成

ん？

キロランケ

イテテッ耳噛まれた！

キロランケ

よう、久しぶり

杉元

キロランケ…

忠成

なんで1人なんだ？

キロランケ

土方たちとは、旭川ではぐれたままそれっきりだ

キロランケ

第七師団をまくためにお前らは一旦、十勝方面へ下山すると俺は踏んだんだ

キロランケ

そしたら近くのコタンでお前らの話を聞いてな

キロランケ

それよりよ、杉元お前

キロランケ

ちょっと見ない間に急にいい男になったな

杉元

よせやぁい…

白石

(かわいい)

キロランケ

(かわいい)

谷垣

(かわいい)

忠成

(杉元は顔が良いからなー…)

白石

キロちゃんも、前よりいい体になってねえか、ええ？

キロランケ

そうか？どうだ？谷垣

谷垣

ぬう…

谷垣

(何なのだ、この感情、抑えきれない…)

白石

(こんな気持ち、初めてだ…どうやって発散させりゃいいんだ…！)

忠成

(尾形…もうなんか寝てるみたいになってる…)

忠成

(俺も脱ぎたいけど、流石に需要ないし。)

忠成

フードだけ脱いどこ…

杉元

ダメだ、俺、もう我慢できねえ…

杉元

相撲しようぜッ！！

白石

なるほどそうか！

忠成

なにが…？

目の前でほとんど全裸の男たちが相撲をしている

忠成

なんてカオスな…ん？

忠成

尾形、どうしたんだ？

尾形

お前も脱いだほうがいい…

忠成

いや俺はいい…ってちょっと力づくで脱がさないでッ

尾形

なら自分で脱げ

忠成

大丈夫だって…

尾形

早く脱げ

忠成

ちょ…力つっっっよ！

忠成

あっ…もーいいって言ったのに…

忠成

あ！下はいい、大丈夫！

忠成

上だけ！お願い上だけで勘弁！

尾形

…て

忠成

て？

尾形

繋いどけ、これ収まるまで離すんじゃねえぞ……

忠成

ああ、わかった…

ごっちゃんですしました

白石

バッタ、どっかへ飛んでったみたい

杉元

うん、そうだね

キロランケ

何か、盛り上がっちゃったな

忠成

確かに盛り上がってたな。

(一同)うーん…

杉元

誰にも言うなよ

キロランケ

うん

谷垣

(寝ている)

谷垣

ん…

谷垣

あ…

谷垣

インカラマッ

インカラマッ

ラッコの肉は、食べると欲情すると信じられています

インカラマッ

ラッコがつがいの片方を失うと、行き場のない欲情で死んでしまうほどだそうです

谷垣

ま…待て、どうしたんだ？急に

インカラマッ

谷垣ニシパは、ラッコの肉を食べたせいにしていいです

アシリパ

(インカラマッ『このまま網走へ行けば、キロランケと再会してしまう』)

アシリパ

(『とでも危険な男です、最後には刺青人皮も奪われ、金塊も奪われる』)

アシリパ

(キロランケニシパが父を殺すとは思えない)

アシリパ

(『証拠があります』)

アシリパ

…

インカラマッ

アシリパちゃん

谷垣

一晩中そこにいたのか

白石

あ…いたいた、アシリパちゃんだ〜

杉元

良かった、無事だったか

忠成

昨日は急に居なくなってすまないな。

インカラマッ

あ…

インカラマッ

(キロランケ…！どうしてここに…)

キロランケ

よう、アシリパ

キロランケ

ん？

アシリパ

キロランケニシパが、私の父を殺したのか？

白石

え…

キロランケ

俺が？

キロランケ

何だよいきなり

インカラマッ

(いきなり本人に問い詰めるとは……しょうがない子ですね)

インカラマッ

証拠は…

インカラマッ

馬券に付いていた指紋です

キロランケ

何？

白石

指紋？

谷垣

インカラマッ

インカラマッ

指紋は人によってそれぞれ模様が異なるため、

インカラマッ

外国では既に数年前から犯罪捜査に利用されています

インカラマッ

私は、長沼の競馬場て男性方の指紋を採取し、照合を依頼したところ

インカラマッ

キロランケさんの指紋が、数年前のある場所で採取されたものと一致しました

インカラマッ

アシㇼパちゃんのお父様が殺害された現場です

杉元

殺害された？

忠成

なぜだ？

アシリパ

遺品のマキリの刃に、指紋が付いていたそうだ

アシリパ

父とは何年も会ってないと言ってたよな

キロランケ

おいおい、俺が犯人なら監獄にいるのっぺら坊はなにものだよ

尾形

ちょっと待った、この女、鶴見中尉と通じてるぞ

谷垣

よせ、何を根拠に！

尾形

谷垣源次郎、色仕掛けで丸め込まれたか？

尾形

殺害現場の遺留品を回収したのは鶴見中尉だ

尾形

つまり、中尉だけが指紋の記録を持っている

忠成

(みんなそんな内通する…？)

谷垣

あ…

インカラマッ

鶴見中尉を利用しただけです

尾形

大した女だな、谷垣よ

キロランケが尾形の銃をどかす

キロランケ

鶴見中尉の情報を信じるのか？

キロランケ

殺し合えばそれこそやつの思うツボだ、そうだろ？

キロランケ

アシㇼパ

キロランケ

父親がのっぺら坊じゃないと信じたい気持ちはよく分かる

キロランケ

でも、刺青人皮なんて暗号を仕掛けられる男が

キロランケ

この世に何人もいるはずがない

キロランケ

お前だってそう思ってるんだろ？

白石

どっちだ？どっちの話がホントなんだ？

尾形

白石

尾形

この中で監獄にいたのっぺら坊と会ってるのはお前だけだよな

杉元

本当に、アシㇼパさんと同じ青い目だったのか？

白石

え…俺は1度も青い目なんて言ってねぇぞ

白石

あんな気持ちの悪い顔、まじまじと見たことねえよ

杉元

のっぺら坊は本当にのっぺら坊なのか？

白石

あいつは黙々と入れ墨を彫るだけだった

白石

脱獄の計画は、全て土方歳三を通して、俺たち囚人に伝えられたんだ

杉元

ひょっとして、すべて土方歳三が仕組んだことなのでは？

谷垣

インカラマッの目的が分からない

インカラマッ

アイヌの女として、金塊を守りたいだけです

谷垣

アシㇼパの父親、ウイルクもそう思うようになったと言うのか？

インカラマッ

ええ、そのためにゲリラ組織の仲間だったキロランケに殺された

インカラマッ

そう私は考えています

谷垣

指紋の件が、鶴見中尉のガセである可能性もある

インカラマッ

否定できませんね

インカラマッ

ただ、私がこれから誰かに殺されたなら、その時はキロランケが犯人です

谷垣

やつから自分の身を守るために、俺と寝たのか？

インカラマッ

……いいえ、ゆうべのことはラッコ鍋のせいです

谷垣

(ラッコ!!!!)

月島

釧路の谷垣から、小樽のアイヌのおばあさんへ

月島

また電報が来てました

月島

杉元たちと合流したようです

鶴見

よおし

鶴見

そろそろ我々も網走へ向かおうか

キロランケ

俺の息子たちは北海道のアイヌだ

キロランケ

金塊はこの土地のアイヌのためにある

キロランケ

俺の目的は、お前と同じだ

白石

…で、どうすんだよ、全員疑心暗鬼のままだぜ

尾形

誰かに寝首をかかれるのは勘弁だな

忠成

(やっぱみんな黙ってるな……)

杉元

行くしかねえだろ

杉元

のっぺら坊がアシㇼパさんの親父なのか、

杉元

会えば全部はっきりする

杉元

網走監獄へ行くってのは、最初から変わらねえ

杉元

じゃあこうしよう

杉元

インカラマッとキロランケ、旅の道中、もしどちらかが殺されたら───

杉元

俺は自動的に残ったほうを殺す

杉元

何てな、ハハハハハッ

忠成

(杉元が言うと冗談にならんな…)

忠成

終わりです

忠成

次は〜門倉さんが出てきます、あと宇佐美も

忠成

それではさよ〜なら〜