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弁護人

第1話 - 弁護人

2,155

2018年09月23日

#ホラー

#裁判

#事件

#きりん

きりん

柳田千代

はあ…

柳田千代

どうしてこんなことに

柳田千代

私は

柳田千代

私は、ただ

柳田千代

そこを通りかかっただけで

柳田千代

何もしていないのに…

柳田千代

第一目撃者の私が

柳田千代

どうして疑われなきゃいけないんだろう

柳田千代

私は人を殺すなんてしない

柳田千代

たしかにあの人は

柳田千代

…被害者の方は

柳田千代

私にとって恨めしい存在だったけど…

柳田千代

ただでさえ精神的に疲れているのに

柳田千代

こんな目に遭うなんて

柳田千代

嫌になっちゃうわ…

柳田千代

はぁ…

柳田千代

あ、弁護士さん

弁護人の助川

こんにちは

弁護人の助川

この度は大変なことに巻き込まれてしまって

弁護人の助川

お気の毒です

柳田千代

はい…

弁護人の助川

ですが

弁護人の助川

私、助川が弁護人となった以上

弁護人の助川

全力で務めを果たします

柳田千代

ありがとうございます

柳田千代

本当に、何もしていないんです私

弁護人の助川

分かっていますよ、大丈夫です

弁護人の助川

では

弁護人の助川

早速なんですが

弁護人の助川

軽くあなたのことと、詳しく事件当時のこと

弁護人の助川

教えていただけますか

柳田千代

はい

柳田千代

柳田千代と申します

柳田千代

普段は家の近くのスーパーでパートをしていて

柳田千代

その日…事件の日も

柳田千代

パートの帰り道でした

弁護人の助川

資料によれば

弁護人の助川

柳田さんの目撃時刻は19時頃となっていますが

弁護人の助川

合っていますか？

柳田千代

はい

柳田千代

その日は、パート終わりにそのまま夕飯の買い物をして

柳田千代

帰ったので19時前後だと

弁護人の助川

ふむ

柳田千代

それで

柳田千代

いつも通り帰路を歩いてたんです

柳田千代

途中、被害者の家の前を通るんですが

柳田千代

玄関が不自然に開いていて不思議に思いました

柳田千代

それで家を見たら窓もカーテンも開いていて

柳田千代

夜なので暗かったんですけど

柳田千代

部屋の中に…見えたんです…

柳田千代

あ、あの人が倒れてて

柳田千代

すみません、ちょっと思い出してしまって

弁護人の助川

大丈夫です

弁護人の助川

無理のない範囲で話してください

柳田千代

ありがとうございます

柳田千代

…えっと

柳田千代

倒れているのに気付いて

柳田千代

何も考えずに窓から家に入りました

柳田千代

見たら、やはり倒れていて…

柳田千代

急いで救急車を呼びました

柳田千代

待っている間は何も…できなかったです

弁護人の助川

なるほど…

弁護人の助川

怪しい人物を見たとかは？

柳田千代

いえ

柳田千代

普段から人通りのあまりない所ですから…

弁護人の助川

そうですか…

弁護人の助川

柳田さんは

弁護人の助川

被害者の家の近くにお住いで？

柳田千代

近いと言えば近いですね

柳田千代

家から100メートルはないと思います

弁護人の助川

会話をされたりしたことはあるんですか？

柳田千代

…はい

柳田千代

町内会で同じ役員になったこともありますし

柳田千代

近所の人の中では親しいほうです

柳田千代

あ、だから

柳田千代

あまり躊躇わずに家に入れたのかもしれません

弁護人の助川

ほう

柳田千代

たぶん、あまり仲良くない人だったら

柳田千代

倒れていても見て見ぬふりをしてしまうかも…

柳田千代

弁護人の助川

ありがとうございました

弁護人の助川

参考にさせていただきますね

柳田千代

はい

弁護人の助川

では、ゆっくりお休みになってください

弁護人の助川

また伺いたいことがあったら参ります

検察官の志鎌

容疑者は柳田千代…

検察官の志鎌

被害者は小野寺信雄

検察官の志鎌

容疑者は仕事帰りに被害者の家に立ち寄り殺害

検察官の志鎌

だが、本人は第一目撃者と主張している…

検察官の志鎌

うーむ…

検察官の志鎌

上手く行きますかねぇ

裁判当日

裁判官

証人尋問

裁判官

証人は中に入って証言台の前に立ってください

柳田千代

…

裁判官

名前を述べてください

柳田蓮

柳田蓮です

裁判官

生年月日をー

柳田蓮

ーーー

柳田千代

(大丈夫だろうか)

柳田千代

(私の夫は何を言ってくれるんだろう…)

弁護人の助川

柳田蓮さん、あなたは被告人の夫ということですが

弁護人の助川

事件当日の朝、何か被告人に不自然な点はありましたか

柳田蓮

…いいえ

柳田蓮

いつも通りでした

弁護人の助川

ではーーー

柳田蓮

ーーー

柳田千代

(なんか普通だな…)

柳田千代

(私が無罪っていう確実な証言とか)

柳田千代

(あったらよかったのに…)

弁護人の助川

はい、わかりました

柳田千代

(あ、終わっちゃった…)

柳田千代

(本当に大丈夫なのかな…)

検察官の志鎌

検察からも質問よろしいでしょうか

柳田千代

(え？)

裁判官

…許可します

柳田千代

(何を聞くの…？)

検察官の志鎌

柳田さん

検察官の志鎌

あなたの奥様と被害者との関係

検察官の志鎌

何か知っていますか？

柳田千代

…！

柳田蓮

え…

柳田蓮

検察官の志鎌

知っていますか

柳田蓮

検察官の志鎌

言いにくいですよね

検察官の志鎌

あなたの奥様と被害者

検察官の志鎌

恋人関係だったんですから

柳田千代

柳田蓮

検察官の志鎌

一年ほど前ですよね

検察官の志鎌

あなたが奥様の浮気に気付いたのは

柳田蓮

…

検察官の志鎌

否定されませんね

検察官の志鎌

事実と受け取ってもよろしいでしょうか

柳田蓮

…そ、それは…

柳田千代

(…焦ってる…)

柳田千代

(そして私も)

柳田千代

(夫以上に…焦ってる)

検察官の志鎌

柳田さん

検察官の志鎌

事実ですね？

柳田蓮

検察官の志鎌

結婚してから十年近く経っても

検察官の志鎌

あなたは変わらず奥様を一途に愛していた

検察官の志鎌

しかし

検察官の志鎌

奥様は違かった

柳田蓮

…っ…

検察官の志鎌

お苦しいかもしれませんが

検察官の志鎌

話してみませんか

検察官の志鎌

半年前から

検察官の志鎌

何があったのか

柳田千代

(そんなの)

柳田千代

(そんなの聞いたって)

柳田千代

(何も変わらないわよ！)

柳田蓮

…半年前

柳田千代

！

柳田千代

(あなた…言うの…？)

柳田千代

…っ…

柳田蓮

妻が…

柳田蓮

い、いつもより遅く帰ってくることが続いて

柳田蓮

嫌な予感がして…

柳田蓮

こっそり調べたら

柳田蓮

小野寺信雄…今回の被害者と

柳田蓮

会っていたんです

柳田千代

…

柳田千代

(調べてたなんて)

柳田千代

(知らなかった…そんなの)

柳田蓮

それが一週間に何回もあって

柳田蓮

もう耐えきれなくなりました

柳田蓮

私がいるにも関わらず

柳田蓮

妻は別の男に愛情を注いでいるなんて

柳田蓮

もう

柳田千代

(喋り出すと止まらず喋り続ける)

柳田千代

(夫の癖だ…)

柳田蓮

私は

柳田蓮

妻がコソコソと小野寺さんの家に入るところを

柳田蓮

携帯で写真に収め

柳田蓮

帰ってきてから妻を問い詰めました

柳田蓮

妻は

柳田蓮

驚きながらも｢ごめんなさい｣と

柳田蓮

言いました…

柳田千代

(よく覚えてるんだな…)

柳田蓮

｢もうあの人とは会わない｣とも言ってくれました

柳田蓮

後日

柳田蓮

妻が小野寺さんにもう合わない旨を伝えに行ってくれました

柳田蓮

私は、これで一件落着、またやり直そうと思えました

柳田蓮

が…

柳田蓮

小野寺さんは違った

柳田蓮

｢自分は君を本当に愛している

柳田蓮

夫と別れて

柳田蓮

自分と一緒になろう｣

柳田蓮

小野寺さんはそう言った…そうです

柳田千代

(…やだ)

柳田千代

(チラッとこっち見ないでよ…)

検察官の志鎌

それからどのように？

柳田蓮

あ、はい

柳田蓮

妻は小野寺さんとの関係をやめる決心をしていたので

柳田蓮

一方的に別れを告げて戻ってきました

柳田蓮

何も起こらないことを祈っていたんですが

柳田蓮

そう上手くいかず…

柳田蓮

小野寺…は妻にストーカー行為みたいなのをするようになりました

柳田千代

(さん付けをやめて呼び捨て…)

柳田千代

(そんなに怒ってたんだ…)

柳田蓮

毎日耐えなければいけない気持ち悪さ

柳田蓮

妻はそれを原因に

柳田蓮

精神的に少し不安定になってしまいました

柳田蓮

今スーパーでパートをしていますが

柳田蓮

レジの仕事は小野寺が来ると困るからと

柳田蓮

別の目立たない仕事をしています

検察官の志鎌

なるほど…

検察官の志鎌

被告人は被害者からのストーカー行為に悩まされ

検察官の志鎌

精神を病んでいた

検察官の志鎌

これは今回の犯罪の立派な動機ではないでしょうか

柳田千代

(え)

検察官の志鎌

被害者の行動に耐え続けたものの

検察官の志鎌

限界を感じた被告人が

検察官の志鎌

解放されるために被害者に危害を加えた

柳田蓮

…

柳田千代

(夫のあの情けない表情…)

柳田千代

(まさか私がやったって思っているの？)

柳田千代

(たしかにあれは…浮気と言えるかもしれない)

柳田千代

(でも私はもう裏切らないと誓った！)

柳田千代

(こんなに愛してくれている夫を裏切らない、と…)

柳田千代

(でも…)

柳田千代

(あなたは私を見捨てるの…？)

柳田千代

…

柳田千代

(夫は私の無罪を証言するどころか)

柳田千代

(私を有罪に陥れるような発言ばかりしてしまった)

柳田千代

(ああ…どうしよう)

検察官の志鎌

弁護人もその表情ということは

検察官の志鎌

被告人と被害者の関係を初めてご存知になったようですね

弁護人の助川

…

柳田千代

(助川さん…)

柳田千代

(このことを言ったら不利になるとは考えていたんです)

柳田千代

(それで、言えなかった…)

柳田千代

(ごめんなさい…)

裁判官

検察側は相手を煽るような発言を控えなさい

検察官の志鎌

これは、失礼致しました

柳田千代

…

柳田千代

(こんな検察官いるんだ…)

裁判官

被告人質問に移ります

柳田千代

(そして私は)

柳田千代

(これからその人に質問される…)

柳田千代

(嫌だな…怖い)

裁判官

弁護人から

弁護人の助川

助川さんからの質問には

ただ呆然としていた

助川さんは私と小野寺の関係を知って

諦めたのだろうか

だんだんと

刑罰を軽くするための質問に変わっている

そんな気がした

検察官からの質問には

ただビクビクと怯えていた

｢どうして弁護人に被害者との関係を隠していたのか｣

そこから

私の有罪を決定付けるための質問を

ひたすらぶつけられた

私はなんとか

やっていないと伝えようと必死になったが

検察官は余裕の笑みさえ浮かべている

そんな気がした

判決公判日

裁判官

被告人を

裁判官

懲役4年に処する

ああ

終わった

冤罪って

こういうことか…

本当の犯人は

今頃

どこで何をしているんだろうな…

そして

私はこれから…

検察官の志鎌

お疲れ様です

検察官の志鎌

上手く行ってよかったですよ

検察官の志鎌

あなたのおかげです

？

いえ、そんなことは

検察官の志鎌

ご謙遜なさらずに

検察官の志鎌

今日はたくさん飲んでください

？

ありがとうございます

？

いただきます

検察官の志鎌

大変ですよ法の世界ってのは

？

ええ

検察官の志鎌

ある人を一度犯人としてしまったら

検察官の志鎌

無罪を示すのは難しい

検察官の志鎌

世間も警察の捜査に批判の目を向ける

検察官の志鎌

無罪の人間を逮捕したなんて、ってね

？

そうですよね

？

でも今回の場合

？

被告人…柳田千代さんですよね

？

彼女が無罪となっていたら

？

犯人すら見つけられず迷宮入りとなる可能性が十分ありましたからね

検察官の志鎌

そうなんですよ

検察官の志鎌

絶対的な証拠がなかなか無くて

検察官の志鎌

しかしあなたが

検察官の志鎌

彼女と被害者との関係を知り、私に教えてくださったおかげで

検察官の志鎌

彼女が犯人として一件落着です

検察官の志鎌

彼女の旦那さんがあなたに弁護を依頼してくれてよかった

？

お役に立てたようで幸いです

検察官の志鎌

彼女には親戚も少ないし

検察官の志鎌

旦那さんも少々諦めている様子でしたから

検察官の志鎌

再捜査を求められることも恐らく無いでしょう

検察官の志鎌

お酒頼みましょうか

？

ああ、よろしいんですか？

検察官の志鎌

もちろん

検察官の志鎌

感謝の意を込めて

検察官の志鎌

今日は私が払わせていただきますので

？

それはそれは…ありがとうございます

検察官の志鎌

こちらこそありがとうございますね

検察官の志鎌

助川さん

検察官の志鎌

すみません注文でーこれ2つお願いします

弁護人の助川

なんだか申し訳ないなぁ、志鎌さん

検察官の志鎌

いいんですって

検察官の志鎌

そうだ、これお礼の…

弁護人の助川

こんなに…よろしいんですか

検察官の志鎌

とても助かりましたから

検察官の志鎌

貰ってやってください

弁護人の助川

では、ありがたく頂戴します

検察官の志鎌

はい

検察官の志鎌

それでは、これからもよろしくお願いしますの意を込めて

検察官の志鎌

乾杯

弁護人の助川

乾杯

ｶﾁﾝ

柳田蓮

小野寺が重症で

柳田蓮

千代が逮捕…

柳田蓮

はあ…

柳田蓮

まさかこんなに思い通りいくなんてな

柳田蓮

ははっ…

柳田蓮

千代は俺が許してくれたと思ってたみたいだけど

柳田蓮

こんなに千代を愛している俺が浮気を許すと思うか？

柳田蓮

しかも相手は小野寺

柳田蓮

こんな近所でよくやるよ、ほんと

柳田蓮

神経を疑う

柳田蓮

どうやってお仕置きするか考えてたら

柳田蓮

小野寺がストーカーになるし…

柳田蓮

マジで頭おかしい奴

柳田蓮

千代もおかしくなりかけてたし

柳田蓮

俺1人だけ正常で困るわー笑

柳田蓮

でもそれを利用して

柳田蓮

俺は同時に2人を懲らしめられた

柳田蓮

ストーカー被害に苦しんだ末、小野寺を殺した千代が逮捕されるって設定

柳田蓮

俺はずっと恨んでた小野寺を殺せてスッキリしたし

柳田蓮

千代にはしばらく刑務所で反省してもらって

柳田蓮

帰ってきてからまた家でたっぷり愛してあげよう

柳田蓮

あー、念の為あの弁護士にお願いしておいて正解だったな

柳田蓮

いや、弁護士の仮面被った詐欺師か笑

柳田蓮

弁護士装って検察に協力して

柳田蓮

上手く有罪にできたら

柳田蓮

検察から金を貰う汚ねぇ奴

柳田蓮

そんな裏事務所が日本にあるなんてビックリだぜ

柳田蓮

見つけた俺もすごいけどな笑

柳田蓮

にしても、そんなことする検察も汚ねえよな

柳田蓮

人間なんてそんなもんかぁ

柳田蓮

裏切りも浮気もストーカーも

柳田蓮

殺人も嘘も賄賂も

柳田蓮

人間が汚ねえ証拠

柳田蓮

それが原因で人生滅茶苦茶になったり

柳田蓮

一方で楽しくやってたり

柳田蓮

知らん顔して普通にやってたり

柳田蓮

はぁ

柳田蓮

純粋潔白な人間なんていねぇんだな

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きりん

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