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バアン!!
これまでにない程乱暴に玄関の扉を開けた俺は
転がるようにして
勢いよく家の中へ入り込む
そんな俺の様子に ただならぬ雰囲気を感じ取った貴方は
読んでいた書物を放り
血相を変えて飛んできた
これから俺に
問い詰められることになるとも知らずに
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パシィッッ!!!
心配して俺に触れようとする彼の手を
俺は思いっきり弾いた
こんなにも明確な拒絶の意を表したのは
貴方と初めて会ったとき以来だろう
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面食らった貴方の表情は
三年たった今でも
昨日のことのように鮮明に覚えている
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それでもなお俺を気にかける貴方の眼の前に
俺はある一冊の本を突きつけた
暇72
俺が示したページの 冒頭に記述されている文字列を見て
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明らかに動揺する貴方
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一向に口を開かない貴方の様子に
俺は声を荒げる
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暇72
俺からいくら問い詰められても
暴言を吐かれても
貴方は俺から目を逸らして俯き
唯無言を貫くだけ__
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暇72
暇72
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暇72
暇72
涙がこみ上げる
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暇72
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暇72
涙でぐちゃぐちゃになった視界を 晴らそうともせず
俺は叫んだ
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不意に聞こえた乾いた笑い声
感情の感じられないその声が
自分の喉から出ているのだと気付くのに
そう時間はかからなかった
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暇72
暇72
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俺は最大限声を張り上げて
渾身の一撃を放つ
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そして俺は出ていった
貴方と数年間暮らした
思い出の詰まったあの場所から__
あの日から
俺の人生は狂った
いや
もとから狂っていたのかもしれない
俺があの日
あの部屋に入らなければ
あの本を手に取っていなければ
そもそも道に迷わなければ
俺は今も
貴方の隣で
幸せな生活を送れていたのだろうか
“あの部屋”……
領主の執務室に入ったのは偶然だった
当然
問題となる書籍を見つけたのも__
俺はあの日
別件で手が離せなくなった師の代理人として
毎年領主邸で行われている
とある会議に出席していた
会議と聞けば堅苦しいイメージがあるが
実際は軽く世間話をしただけだったりする
いわば
会議という題目の近況報告会だ
会議終了後
領主から声をかけられた俺は
彼と共に応接室へと向かい
しばし談笑した
彼曰く
一度俺とサシで話してみたかったのだそうな
俺と領主は
決して初対面というわけではない
これまで幾度となく顔を合わせてはいるが
直接話すのは初めてだった
領主と言葉を交わすのは
専(もっぱ)らあの人だったから__
思ったよりも話が弾み
気付けば西の空が朱くなっていた
俺は領主と別れ
応接室をあとにして
正面玄関に向かってしばらく歩く
数分後
俺は来た道を引き返していた
そう
迷ったのである
「領主に道を尋ねれば良いのでは…?」
そんな考えのもと
俺は足早に戻り
彼がまだいるであろう応接室の扉を開けた
___つもりだった
扉の向こうには
見慣れない机
見慣れない本棚
見慣れない光景が広がっていた
興味本位で中に入ったのが運の尽き
筆ペンの指してある執務机上に開かれていた
ある一冊の本を手に取った俺は
見てしまった
「人造兵器開発プロジェクトに関する調査報告」
この文字の羅列を
改めて言おう
偶然だったのだ
俺が執務室に入ったのも
机上の本の内容を盗み見てしまったことも
師が会議に出席できなかったのも____
彼が例年通り出席していれば
俺が迷子になることはなかったはずなのだ
あれは
偶然が奇跡的に重なり合って起こった悲劇だった
未然に防ぐのは不可能だと断言しよう
あの文字を皮切りに
俺の脳は
それまで奥底に閉じ込めていた記憶の断片を 掘り起こすはめになった
最愛の恩師が
俺の目の前で
俺と
俺の大切な人の命を奪う
そんな残酷な映像が
頭の中に流れ込む
言い表せないほどの怒りと絶望を感じた俺は
気が付けば師に罵倒を浴びせ
気が付けば裸足のまま家を飛び出し
気が付けばひとり
何処とも知らぬ町中を彷徨い歩いていた
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縋(すが)りついてしまいたくなるほど優しい声で
貴方は言った
言っていることは同じなのに
薄汚い格子越しに浴びせられてきた どの言葉とも違う
この人は信じられるかも…
そんな淡い期待は
あの瞬間
見事に崩れ去った
本音を隠して相手の腹の中を探る
所詮大人は皆同じなのかもしれない
他人(ひと)よりも 感情を隠すことに長けていただけで
あの人も本当は
心の内で
卑しい俺を嘲笑ってたのかな
特にやることが思いつかないので
少しでも記憶が戻ればいいと
過去を回想してみたのだが…
残念
これといった成果は得られなかった
むしろ
昔の傷を再び抉られ
俺の気持ちはドン底だ
俺は溜息をつく
殺された、ってのは覚えてんだけどなぁ
そう、俺と相棒は殺されたのだ
しかも殺した犯人が
俺の信頼していた恩師だときた
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誰に話すわけでもなく呟く
あの人は黒だよな
だって
俺が何言ってもだんまりだったもん
ありゃ自分から 「黒です」って言ってるようなもんだ
となるとおそらく領主も………だな
兄弟だし…仲良いし…
で、
いふさんと悠佑さんは黒確定してると
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悪態をつかずにはいられなかった
それもそのはず
俺はこの短期間で
俺が特に信頼を置いていた人たちに
こうも立て続けに裏切られたのだから
俺、裏切られ体質でも持ってんのかなw
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この流れでいくと……
俺は部屋の中央で静かに寝息を立てる親友を 一瞥(いちべつ)した
こいつも結局は………
ッいやいやいや
こいつに限ってそんなことは
ない…よ、な?
このところ
そんなことばかり考えている
いつか人間不信になりそうだ
バチッ!!!
止め止め
裏切られたことに変わりはねーんだ
悩んだって仕方ないよな!
はい、この件終わり!!
俺は自ら頬を思いっきり引っぱたき
気持ちを切り替えると同時に
自身に喝を入れた
今は
裏切られただのなんだのと ぼやいている場合ではないのだ
大量に貼ってあった被験者の写真
その名簿と記録
そして実験現場
ここで行われていた実験について
俺は深く知りすぎた
一度落ち着いて整理しなければならない
被験者時代のわずかな記憶と
そこから考え得る俺の過去
そして
それら全ての情報から導き出される
実験の真相を___