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私はどうも、貴方を好きになれない。
その容姿も、その接し方も、その性格も、その声も、その存在も、
その生まれ持った才能でさえも!!
貴方の全てが気にくわないのだ…。
サーカス・舞台裏
夏又平吉
郷田三郎
いつもの跳ねるような話し方。 あまりにも後先が分かりやすい貴方の言動。 誰かに負けることのない貴方が、何も考えていないはずがない。
アイツと同じ種目なのも気に食わない。 なぜあんな奴と同じ空中ブランコを披露しなければならない?
…そうだ。アイツを落としてしまえばいい。 足場などない空中ブランコなのだから、失敗するのも当たり前。 体調が悪かっただの、手が滑っただの言い逃れもできる。
よし、そうしよう。アイツを奈落の底にでも落としてやろう。一泡吹かせてやろう。
ハハハハハ、練習がとても楽しみで仕方がない!踊り狂う胸の鼓動がうるさくて仕方がない!
夏又平吉
夏又平吉
郷田三郎
夏又平吉
郷田三郎
夏又平吉
数十分後__
ついに来た。 この時を待ちわびていた。 貴方との空中ブランコの練習を!
これまでは、アイツがブランコから脚を離して、前の方へ、腕をうんと伸ばし、そのまま私の両腕にしがみつく…
だが今日ばかりは違う!
今日だけは、その命綱となる私の腕は差し出されない!
さあ、夏又平吉。 貴方は一体、どんな表情を見せてくれる。
夏又平吉
夏又平吉
郷田三郎
アア、貴方はこれからどんな目に遭わされるのかも知らない。 なんて哀れな人なのだろう。
そして、サア今に見てろ! 私の今までの、グツグツと煮え立った怒りを!復讐劇を!グランギニョルを!!
ついに待ち侘びた瞬間が来た。 サア早く脚を離せ、早く無様に腕を伸ばせ。
アア、いつもの手の感触はない。 摩れ合った皮膚の熱さしか感じられない。
今の貴方は、まるで、上から垂らされた蜘蛛の糸を掴もうと必死になって腕を伸ばす、地獄の死者同様…
貴方の呆気にとられたような、歪んだ表情は、私の望んでいた、脳裏に焼きつくほど、忘れることのない最高の表情だった!
ホラ、周りからは歓声の代わりに悲鳴が会場いっぱいに響き渡っている。 あの同輩だって見てみろ、あの青ざめた表情を。
今の私は、たまらなく興奮に満ちている
いま私は、生きていると実感している!
安全のために、下に網が張り巡らされていたものだから命に別状はないだろう。 団員たちは、皆焦った表情を浮かべながら、すぐさま彼のもとへ駆けつけていった。私を除いて…
そして私は、ゆやんゆよんと天井のブランコにぶら下がりながら、他人事のように優雅に眺めていた。
ここから見える光景は、とても心地が良かった。