吐き出す息が白く色付いて ゆるやかに溶けていく
風が体に当たる度、痛みを感じる
...マフラー、巻いてくるんだった
僕の手はポケットの中の筈なのに 握り締めると凍っているみたいだ
すれ違う人は皆、なぜか笑顔だ
...カップル?いや親子か
...ああ、そういえば
今日はクリスマスイブ、だったな
『雪でも降ったら完璧なのに...』
『お前と一緒だから満足だよ』
『パパ、だっこ!』
『おー、いいぞ!』
幸せそうな会話が腹立つ
お前らなんかに、 僕の気持ちは判らないだろう
ウザい...
大袈裟に吐いた息は、大きな白い煙となって消えた
その直後
チラ...と視界の端に、白が写る
ゆっくりと空を見上げると、いくつもの綿のようなものが
フワフワと落ちてきていた
...あー...傘も持ってくるんだった
僕の紺のコートに白が付いて 濡れていく
そういえば、このコートはお姉ちゃんが買ってくれたんだっけ
湊(ミナト)
小学校6年生にもなって
情けない言葉だったかもしれない
だけど...
あの地獄みたいな家でお姉ちゃんだけは心の拠り所だった
毎日喧嘩している両親の声に 怯えた日も
親に八つ当たりされそうに なったときも
いつも僕を抱き締めてくれたのは お姉ちゃんだった
...何も言わずに出てくるんじゃなかった
後悔しても、ここは隣町
たぶん、いや、きっと
お姉ちゃんには届かない
湊(ミナト)
小さすぎる呟きは、すれ違う人にも聞こえたかどうか...
僕は道の端に座り込んで、 フードを被った
私には、大切な弟がいる
両親の声に耐えきれなくて、 苦しい時に
弟―湊はギュッと抱きついて 温めてくれる
恋愛感情なんかじゃない、 もっと、もっと深い大切
だから、八つ当たりで殴られても 平気
大丈夫?って声をかけてくれる 弟がいるから
勉強で疲れていたら
『休んだら?』って
よく気が付いて
反対に疲れてそうで
『大丈夫?』と言えば
『僕は大丈夫だよ!』
と言って笑顔を向けてくれる
私の心の拠り所
優依(ユイ)
湊はさっき、コンビニに行ってくると言ってから帰ってこない
風邪気味か、少し怠い体を起こし 耳をすます
相変わらずうるさい喧嘩の声以外 何も聞こえない
窓のカーテンを開けると、 舞い落ちる雪
そういえば、湊は最近 父さんに目の敵にされていた
私が寝ていた間、 何かあったのかもしれない
...まさか、家出.....?
優依(ユイ)
冷たい水を被ったように、 ハッとなる
まだ少し頭痛の残る頭を無視して
コートを羽織り、 湊のマフラーと傘を持って
私は家を飛び出した
優依(ユイ)
並んで歩く男女の隙間を通り抜け
コンビニに駆け込む
優依(ユイ)
コンビニの中は比較的空いていて
湊がいないこともすぐに判った
...フラフラするな、なんか
...水、飲んでくれば良かったかな
コンビニを出て、少し 立ち止まって考える
湊が、行きそうな場所
...きっと、湊は頭がいいから
この町からは出てるかも
そんな勘を信じて、私は踵を返す
走ると傘を握る手が痛い
冷たい風に刺されている感覚
迷惑そうな顔をするカップルや家族に頭を下げながら
私は強く地面を蹴った
相変わらず、雪はやまない
それどころか、だんだん 強くなってる気がする
湊(ミナト)
...お姉ちゃん、寝てるかな
具合、悪そうだった
なんだか泣きたくなる
どうして僕が、こんな思い しなくちゃいけないのか
どうして僕の両親は喧嘩するのか
湊(ミナト)
お姉ちゃんはわかるのかな
...お姉ちゃん
湊(ミナト)
勝手に家出したのは僕なのに
お姉ちゃんなら見付けてくれるんじゃないかって
勝手に想像して、疲れて
湊(ミナト)
気持ちを言葉にした瞬間、 止まらなくなる
滲んでぼやけて、虹色になる視界
拭っても拭っても
後から後から溢れてきて
どうしようもなくなる
湊(ミナト)
袖に顔をうずめた
どうして早く気付いてあげられなかったんだろう
湊に気を遣われてばっかりで
どうして......
私のせいだ
湊が泣いていたら、 気付けなかった私のせい
湊が1人で悲しんでたら、 気を遣えなかった私のせい
私はとことん情けない姉だよね
...息苦しい
冷たい空気のせいで、 息が上手く吸えない
優依(ユイ)
そしたら、許して
みなと
私の大切な弟
家出するくらい、傷付いてた
だけど湊は、気丈に振る舞って
...年下のくせに
優依(ユイ)
声に出したら、雫が落ちた
早く、早く見付けないと
2つ目の角を曲がって、 目を凝らす
優依(ユイ)
道の端に座り込んでいる、男の子
見覚えのあるコート
優依(ユイ)
...やだな、ほんと
掠れた声しか出ないなんて
でも
できる限りの声で叫んだ
......!
名前を呼ばれた気がした
...気のせい、だよね
みなと!
...え、なに
みなと!
...え、なんで......
みなと!
湊(ミナト)
顔をあげようとしたら、 思い切り抱き締められた
優依(ユイ)
冷えきった体が温もりに包まれる
湊(ミナト)
その温かさで、止まっていた涙が また溢れだした
優依(ユイ)
お姉ちゃんは震える声で謝る
湊(ミナト)
...あれ、声が出ない
出るのは雫だけ
優依(ユイ)
目の前の泣き笑いの顔は
寒さで少し紅かった
湊(ミナト)
僕も、笑顔を返せたかな
湊(ミナト)
優依(ユイ)
湊(ミナト)
優依(ユイ)
湊は、私の全てだから
湊(ミナト)
優依(ユイ)
湊(ミナト)
湊(ミナト)
優依(ユイ)
お姉ちゃんと一緒なら
両親の喧嘩も、殴られるのも
もう怖くないよ
だって、僕の1番大事な人が 一緒にいるから
お姉ちゃんが困っていたら 絶対に助けるし
今日の僕みたいになったら お返しで絶対見付けるし
嫌な思いをしたら、僕が ギュッ、て抱き締める
だから
湊(ミナト)
優依(ユイ)
湊(ミナト)
繋いだ手が温かい
穏やかになってきた雪は さっき見た時よりも
ずっとずっと綺麗だった
Fin
チーズinペペロンチーノ様 主催コンテスト
『第一回チペコン』
タイトル統一コンテスト “アナタは私の全て”
に参加させていただきました
コメント
14件
感情も寒さの表現も、とても素敵です!! まだまだ子供なのに、しっかり者の湊くんとそれを支えるお姉ちゃん。感動しました!!
コンテスト参加ありがとうございます。 姉弟の絆って良いですね...!この家庭環境だからこそ、この2人はお互いが全てと言える程の存在になったんだと感じました。とくに印象的だったのは、2人が涙を流すシーンです。表現、言葉の選び方、一文の長さ、思わずこちら(読み手)が涙してしまう素敵なシーンでした。
あああ!こんな弟が欲しい!!!(←は?