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探偵は黄昏時に

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探偵は黄昏時に

3 - 一条の御屋敷

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2024年01月02日

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少し酷い扱いでは無いのか、と常々思う。

別にそれが嫌だというわけでは無いのだが、なんとも腑に落ちない。

もちろんのこと俺はあの人の後輩で、あの人は俺が尊敬すべき人。

だからといってこうも、いいように使われるのは少し思うところがある。

なんて考えながら、事務所から1番近い _と言っても徒歩7、8分の場所だが_ コンビニで甘味を調達した。

店員

2230円になります

落ち着いていて、まるでバーによくいるバーテンダーのような老紳士がコンビニで働いていることに少し面白く感じてしまった。

まあ、もちろんそれも俺の根拠の無い想像、つまり妄想であって笑うことはしないが。

店員

レシートご入用ですか

出雲 治

いいや、大丈夫です

店員

…ありがとうございました

店員は他にいないのか、低い老紳士の声の後には誰の声も聞こえなかったが、店を出た時に老紳士から2度目の「ありがとうございました」が聞こえた。

出雲 治

__晴翔さん、喜んでくれるだろうか

袋に入った甘味を見て、これをあの人に渡した時のあの人の笑顔を勝手に妄想して、頬が緩んだ。

出雲 治

只今戻りました〜

月見 晴翔

おお、良くやったね出雲

月見 晴翔

お疲れ様

そうやってにこやかに笑い返してくれるものだから、なかなかいいように使われていることに「何故?」と問えない。

月見 晴翔

あ、これ今月の新作だね

月見 晴翔

分かってるじゃないか

出雲 治

うふふ、貴方のことも分かってきましたから

月見 晴翔

……そういうのは好きな女にでも言ってやれって

出雲 治

あはは、いないから貴方に言ってるんですよぅ

出雲 治

だいたい、貴方私に__

ジリリリ、ジリリ

事務所に置かれた電話がけたたましく鳴る。

電話を取るのは俺の仕事なので、晴翔さんの事務机の上にある電話に手を伸ばす。

出雲 治

はい、こちら探偵事務所の出雲ですが

出雲 治

依頼ですね?

『おぅ、警察からの依頼だ』

出雲 治

あ、司刑事

『久しぶり_いやそうでもないか。』

『まあとにかくだな、なんとも誘拐事件が起きた。起きてしまった』

『どうも手がかりも掴めなくてな……そこで、お前達探偵の力を借りたいわけだ。』

出雲 治

はぁ、依頼お受けしますよ

出雲 治

司刑事の依頼ですしねぇ、うふふ

出雲 治

で、現場はどこです?

出雲 治

急がないといけないんですか、それ

『特別急いで欲しいわけではないが、なるだけ早く来てくれ』

『場所は○○町の……一条家だ』

出雲 治

……一条家?あの、馬鹿みたいに広い土地の

『嗚呼、間違いねえよ』

『一条だって言えば伝わったな、良かったぜ』

『とにかく頼む、あっちは問題にしたくないらしくて……』

『いや、後で話そう』

『待ってるぞ、探偵諸君』

出雲 治

はあい、なるだけ早く、ですね

__ツー、ツーー

月見 晴翔

ふうん、一条ねえ

出雲 治

ええ、ここら一帯の大地主ですねえ

出雲 治

誘拐だとか言ってましたが…

月見 晴翔

娘じゃないのか

月見 晴翔

いや、でも問題にしたくないってのはなんだかね

出雲 治

よく分かりませんね

うんうんと考えるが、どうも問題の一条家の考えが読めない。

月見 晴翔

ま、とりあえず出発するか

出雲 治

タクシーですか?

月見 晴翔

いや、車を出そう

月見 晴翔

あそこなら停める場所くらいあるだろうし

月見 晴翔

それに……

出雲 治

嗚呼、問題にして欲しくないと言われたからですか

月見 晴翔

うん、そっちのが安全だろう?

出雲 治

流石、晴翔さん

月見 晴翔

はいはい、早く車出しに行くよ

出雲 治

はぁい

エンジンをかけて、まだ明るい中車を走らせる。

隣でこの車を運転する彼__晴翔さんは、この車にとても似合っている。

出雲 治

ふぅん…晴翔さん、車似合いますね

出雲 治

私より小柄なのに、なんだか逞しいですね

月見 晴翔

あ"あ?

月見 晴翔

小柄とはなんだ、そもそも誰のおかげでお前がここにいると思ってる?

出雲 治

あはは…それを言われると、ねぇ

出雲 治

貴方には感謝してもしきれませんから

月見 晴翔

分かっているなら良いんだよ

彼は小柄だと言われるのは苦手らしい。

それは事実で、実際彼の身長は俺と比べて15cmは低い。

かくいう俺は180cm程度なので、おそらく彼は165cm前後なのだろう。

彼が解決してきた事件はここ十数年で何百、もっと言えば何千にものぼるだろう。

あの小柄な背中で、どれだけのことを背負い込んでいるのかは、俺には想像もつかない。

それでも弱さを見せないのは、彼のプライドか、それとも彼が本当にそういうことに強いのか。

月見 晴翔

__おい、山道に入るから注意しといてくれ

月見 晴翔

ここで事故なんて馬鹿になんないんだからな

出雲 治

ん、分かりました

山道に入って十数分、やっと大きな御屋敷が見えてくる。

月見 晴翔

お、見えてきたー

出雲 治

うわあ……相変わらず大きい屋敷だ

そこらに車を停めて、警察らの集まる場所へと向かう。

月見 晴翔

それにしても誘拐とはね

月見 晴翔

犯人もなかなか面白い

月見 晴翔

あの一条家を敵に回そうなんざ、常人の考えじゃないからね

出雲 治

相手は常人じゃない可能性アリ、と

月見 晴翔

まあ十中八九常人じゃないだろうね

月見 晴翔

大抵、誘拐やら放火やら、強盗だってそうだが

月見 晴翔

頭の回らない馬鹿な幼子のすることだ

月見 晴翔

救いようもない、ね

出雲 治

あっはは、厳しいですねえ

月見 晴翔

む、そういうやつを明るみに晒すために僕らはいるんだぞ

出雲 治

ま、そうなんですけど

とかなんとか駄弁っていると、向こうから走ってくる人影が見える。

肩幅が広くて大柄な男__

朝霧 司

おーい、探偵!

出雲 治

あっ、司刑事

月見 晴翔

お久しぶりだね、刑事サン

朝霧 司

おぅ、月見探偵

月見 晴翔

それにしてもどうしたのかな

月見 晴翔

なかなかに早いご依頼じゃあないか

朝霧 司

嗚呼、どうも娘がいなくなったらしくてな

出雲 治

あれ、誘拐じゃなかったのかい

朝霧 司

おそらく、誘拐だ

朝霧 司

しっかしなあ……

月見 晴翔

……おかしなことでも?

朝霧 司

"一条家の一人娘"は誘拐されてねえんだよ

出雲 治

……うん?

出雲 治

じゃあ誰が、

月見 晴翔

"一条家のもう一人の娘"

すかさず晴翔さんが言った。

月見 晴翔

……違うかい?

朝霧 司

ううむ……流石は探偵といったところか

朝霧司は予想外の反応にびっくりしたものの、冷静さを取り戻して淡々と告げる。

が、そもそも何も知らない自分は話についていけるはずもなく。

出雲 治

は、いやいや待ちたまえよ

出雲 治

一人娘だろう、違うのかい

朝霧 司

嗚呼……世間ではな

月見 晴翔

一条家には才色兼備、本当になんでも出来る一人娘がいる

朝霧 司

でもな、なんにも出来ねえ一条家の娘もいるんだよ

出雲 治

え、はあ…?

出雲 治

つまり、いないものにしてるって訳ですか、その子を

出雲 治

んな漫画みたいな

月見 晴翔

嘘じゃないさ

月見 晴翔

誘拐されたのはそっちの娘

月見 晴翔

だから一条家も問題にしたくないんだ

月見 晴翔

いないはずのもう一人の娘なんかが誘拐されたところで、ってね

出雲 治

え、え

出雲 治

で、でも!

出雲 治

じゃあ誰が通報したっていうんですか

朝霧 司

嗚呼、それは__

チラ、と朝霧司が後ろを振り返ると、そこにはいつか見た老紳士の姿が。

朝霧 司

彼だ

朝霧 司

その一条の誘拐された娘を唯一大切にしていた方だ

黒井 千歳

__黒井です

黒井 千歳

私、攫われてしまったお嬢様__一条彩葉お嬢様の執事をやっております

出雲 治

あ、あんた__

いや、確証もなく喋るのは辞めておいた方がいいだろう。

実際何度も晴翔さんに注意されている。

憶測でものを言うな__と。

月見 晴翔

どうかしたのか

出雲 治

いえ、なんでもありません

朝霧 司

それでだな、この人が唯一の証人でもあるんだ

月見 晴翔

へえ、証人

月見 晴翔

それじゃあ、実際に聞かせてもらおう

月見 晴翔

その事件当時の話をね

晴翔さんは鋭い目つきで黒井を見つめ、口角を歪める。

既にこの事件の真相が分かっているかのように。

__[解決編]へ続く

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