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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

竹中少尉

本日は、お忙しい中当作品を拝読いただきありがとうございます。

竹中少尉

僕は竹中塔二。
意外かもしれませんが結構最近まで生きており…
2010年代に93歳の大往生を遂げました。

竹中少尉

序話は井嶋さんの口から…僕が配属された所までを語り…

これより先は不詳、竹中塔二がご案内させていただきます。

竹中少尉

さて、前置きもこの辺りで…
これより…昔むかし…
皆さんのお爺様お祖母様の若かりし頃の時代をお送りします…

時代を遡ります…

1945年…六月某日…

井嶋さんとの1件があってから… 僕はただひたすらに訓練にあけくれた…

整備士

準備出来ました。
少尉、いつでも始めてください。

竹中少尉

了解…
竹中、進水する…

乗り込み… 乗り口を閉め… 発射管から射出されると同時にスクリューを回す。 そして操縦桿を握り 、海中に浮かぶ標的の木箱に体当たり…

外から木製の何かが壊れる音が聞こえた… 同時に、練習機内の有線電話から…

整備士

命中!
標的の木箱丁度中央です!

竹中少尉

了解、回収してくれ…

これを朝から夕方までただ繰り返す…

外から聞こえる練習機を引き上げる固定鎖のガラガラという音… この音を聞く度…まるで心臓を締め付けられるような苦しい感覚に襲われる…

竹中少尉

ッ…!
ウッ…ゥゥ…!!
クッソ…クソッ…!!

自分を殺すための訓練を終える夜は毎回… 母さんから書いてもらった手紙を… 力の限り握りしめながら自室のベッドに蹲り… …ただ…声を押し殺して涙を流した… 苦痛と悔しさが込み上げ… 言葉にならない思いをひたすら押し込めながら…

竹中少尉

何が…ッ!
何が誇り高き帝国軍人としてだ…ッ!
そんなに自爆したけりゃしたい奴が勝手にやってろ…ッ!

なんで…!
なんで僕なんだよ…!

親父を…母さんを…誇りをもって守れる… そんなふうに戦いたかった… 例えそれで敵の銃弾に撃たれて命を落とすならまだ納得だってできた… でも…国はそんな僕に… 「魚雷の部品になって死ね」 って言ってきた…

悔しい…悔しい悔しい悔しい…!!!

そうして朝を迎え… また、特攻の訓練…

そんなふうに毎日をただ繰り返しながら… いずれくる自分を殺す命令を待ち続ける… 最初は毎日…明るい時間は目元が腫れてた… それも…時間が経つにつれ涙すら出なくなっていった…

整備士

『命中…
標的の木箱、破壊しました…』

竹中少尉

…回収を

そうして…また練習機からでる。 横須賀の潮風が身体に吹き付けてくるのを感じた… でも…こんな感覚すらも次期味わえなくなるんだ… もはや…怒るような気力も…悲しいって感情ももうない… ただ…訓練するだけ… そうして練習機を見ようと体を向けた時…

井嶋少佐

竹中少尉

遠くから井嶋さんがこっちを見てるのに気が付いた… あの夜の事で怒ってるんだろうか… でも今はそんなこともどうだっていい… 軍礼で敬礼だけしてさっさと練習機に乗り込んだ…

それから10日後… 1945年の六月のとある夜のこと… 僕を始め、伊号ロ型401型艦の乗組員全員が作戦会議室に招集された。 全員が、部屋から見て正面の壁に立つ井嶋さん…そして、その後ろについてる射影機から映し出された横須賀から半径300kmの海図を見ていた… いくつか、司令部から提供された情報を井嶋さんから聞くことになる…

井嶋少佐

以上が、明日の出撃に伴う我々の撃破目標である敵艦隊の戦力、そしてそれらが取る行動を予想した物となる!

それに対し我が艦は東南小笠原諸島の南沖にある孤島。

「ここだ!」という一言と共に、手に持っていた指揮棒で小笠原諸島の南に位置する孤島を指した。

井嶋少佐

この孤島の東沿岸で待機。
その後、味方艦隊の出撃を合図に先行…
目標である敵空母を雷撃し
敵航空戦力を削ぐ!

加え今回は特殊攻撃作戦を併用、竹中少尉の乗る、有人魚雷回天を用いて敵空母の撃破を確たるものにする

竹中少尉

…ッ!

とうとう… 僕の残りの命の長さが決められた…

井嶋少佐

尚、回天は通常の魚雷よりも強力だが、命中精度に対し疑問の声も上がっている。

攻撃が失敗した場合、通常戦闘に備えねばならないことを留意しろ!

竹中少尉

そうだ… 回天は海中に出たら視界が悪い… 現に練習機で何度か全く見当はずれの方向経進路を取ってしまったことがある… 当たるかどうか… それは僕にかかっている…

井嶋少佐

以上、明日の戦闘概要とす!

各員、栄えある帝国海軍の一員として一層奮励努力せよ!

解散!

そして…明日僕は死ぬ… そう思いながら、部屋を後にしようとしたその時だ…

井嶋少佐

竹中、少し残れ

竹中少尉

はい

とめられると同時、他の乗組員がいなくなったのを確認してから井嶋さんが口を開いた…

井嶋少佐

…出撃前に確認するが…
本当にやるんだな?

…今更そんなことを聞かれても そう思ったが…井嶋さんに言ったってしょうがない…

竹中少尉

もちろんです。
士官学校にて、教官殿からご命令を受けたその時よりこの命を捧げると誓いました。
その決意…

今も変わりません

これでいい… 僕が海軍をめざしたのだって井嶋さんの背中に憧れたからだ… 死ぬ時が決まった今くらい憧れた人の前だけでも気丈に構えなければ…

井嶋少佐

…そうか…
ならこれからお前にだけ伝える事がある。
一言一句聞き逃すな…

竹中少尉

はっ!
竹中塔二、少佐の言葉しかと記憶します。

胸を張り、両足を肩幅に開く… 下士官が上官の話を聞く時の正しい所作だ…

井嶋少佐

よし、いいか?
先程説明した攻撃だが…

小笠原周辺の海域は、この時期暖流によって、北東方向へ向かって潮が早く流れる。

加えて、事前偵察に出た哨戒機によると、明日接敵する敵空母は、水面ギリギリの位置中央に機関がある最新の物だ。

よって、回天発射後は八時方向及び、上角四十五に軌道修正しろ。

そうすれば空母のちょうど真ん中に命中する。

…なんだ、その話…?

竹中少尉

暖流の影響…お言葉ですが、そのような話初めて聞きます

井嶋少佐

士官学校ではやらんだろうな。
これはこの海域を知る者でなければわからん

竹中少尉

しかし…

たしかに…井嶋さんの言うような例というのもたまにあるんだろう… それでも、実戦では何が起こるかなど誰も予想できない… そう考え込んでしまったところ…

井嶋少佐

少尉貴様、まさか少佐であるこの俺の意見に楯突くつもりか?

竹中少尉

い、いいえ…!

冷酷な目でこっちを見てくる… ついで、僕の胸元に人差し指を強引に押し当て…凄まじくこちらを睨みつけながら言ってきた…

井嶋少佐

いいか?
機会は一度きり、失敗は許されん…
貴様は余計なことを考えず俺の命令に従え…
わかったか…!!

竹中少尉

思わず目を見開いた… 今まではどこか井嶋さんという人を軍人ではなく、近所の年の離れた兄弟だっていう感覚があったからだ… でも、目の前にいる人は帝国海軍の将校… ここに来てまで自分の中の甘えみたいなものを痛感する…

竹中少尉

申し訳ありませんでした少佐殿。
竹中少尉、ご命令に従います

上官に楯突くのは軍規違反… しっかりと敬礼して非礼を詫びる。

井嶋少佐

よし…話は終わりだ。下がれ…

竹中少尉

承知しました。
失礼いたします…

僕も、足早に部屋を退出した。

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