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ぬし
元貴
若井
涼架
元貴
その朝
目覚めとともに異変に気づいた
元貴
頭がずきンと重く
吐き気に近い鈍い感覚が後頭部を締め付ける
身体は鉛のようにだるく
喉の奥には熱を持った違和感
じわりと汗が滲んでいた
元貴
携帯を手に取り、時間を確認する
午前7時42分
今日の予定が頭をよぎる
元貴
しかも、かなり重要な一日
アルバムの要となる一曲のメインパートの録音
歌詞も、メロデイも、彼自身が時間をかけて向き合ってきた
思い入れの深い曲だ
元貴
ベットの脇にあった常備薬を飲み
水と一緒に流し込む
効いてくれ、と願いながら洗面所へ向かう
鏡の前に立つ
顔色は明らかに悪かった
目の下にはクマ、唇は乾いて血の気がない
元貴
元貴
気合を入れるように自分に言い聞かせ
スタジオへ向かった
都内のスタジオ
いつもの場所
だが、今日はやけに遠く感じた
スタジオの扉を開けると、スタッフ達が振り返った
スタッフ
元貴
スタッフ
元貴
元貴
マネージャーが少し眉をひそめた
スタッフ
元貴
元貴
譲れない目だった
マネージャーもそれ以上は言わなかった
音がなる
最初の小節
声を乗せる
元貴
だが、声に力が入らない
喉が熱い
息が苦しい
視界が滲む
元貴
譜面が滲んで読めない
天井がゆれて見える
スタッフの声がやけに遠い
スタッフ
世界が暗転した
目を覚ましたとき、そこは自宅のベットだった
元貴
頭に冷えピタ
布団の重み
窓から入る夕方の光が優しくもどこか眩しかった
元貴
若井
若井
声がして、隣を向くと若井が椅子に座っていた
心配して待っていたのだろう
元貴
若井
若井
若井
若井
涼架
若井
元貴
涼架
元貴
元貴
元貴
涼架
涼架
元貴
元貴
若井
元貴
元貴
元貴
元貴
りょうちゃんは黙って元貴の顔を見ていた
彼の真剣さを、きっとわかってくれた
涼架
涼架
元貴
元貴は天井を見つめながら、深く息を吐いた
元貴
元貴
元貴
元貴
元貴
元貴
若井は優しくうなずいた
若井
若井
若井
元貴
涙が滲んだ
熱のせいか
感情のせいか
自分でもよく分からなかった
元貴
涼架
涼架
元貴
目を閉じると
外から蝉の声が聞こえた
もうすぐこの夏が終わる
でも、まだ終わってほしくない
数日後、体調が、完全に戻った元貴は
改めてスタジオへ向かった
スタッフ
音がなる
その声は数日前よりずっと澄んでいて優しかった
きっと、ちゃんと休んだからだ
その歌には熱だけではなく、少しの優しさが宿っていた
ぬし
ぬし
元貴
若井