「線香花火は 人の一生を表してるんだよ」
そう言ったのは 誰だったか
遠い記憶
否、誰が言ったのかなど どうでもいいことなのかもしれない
恒例の花火大会も 中止になってしまった
大輪の花が咲いて 散り、消えていく様は
人の魂のようだと
かけがえの無い人と 空を眺めたことが懐かしい
ただ1人
線香花火に火を点ける
火が灯り 膨らんでいく
それは生命の誕生と 恋の始まりなのだと
かつてあの人は 見蕩れていた自分に教えた
やがて火花は 枝分かれしながら飛び散っていく
それは幾重にも別れる 人生の路なのだと
またあの人は言った
数多に別れる路の中で 出逢ったのだから
運命、縁なのだと
しばらくして――実際、余り時は 経っていないかもしれないが
火花はゆっくりと下がって 柳のようになる
一昨年、あの人は
「まるで私たちみたいね」
と
己の皺になった手を擦りながら 穏やかに言った
晴れやかだった
線香花火のその姿は ゆっくりと己を見詰め直す時期
そうも言った
やがて尽きていく火
「これが 人生の終わりなんだろう?」
問い掛けても答えは無いが
美しい散り様は まるで
大勢に見送られた あの人のようだった
夜の公園に人気はない
幼い頃から傍にあったここは
ある時は青春ならではの悩みを
またある時は就職の悩みを
誰となく零した場所でもあった
走り回る子どもの姿は
一昔前から 全く見かけなくなったが
衰えた自覚のある脚で通い 日がな一日ベンチに座って
移ろう空を眺めることは
あの人と共にしたことでもあり
また1人でも “当たり前”の習慣だった
痛む腰をゆっくりと上げて 空を見上げる
茄子と胡瓜は 既に買ってある
「遠慮なく前と同じに 来てくれよ」
バケツ替わりの空き缶に 線香花火を入れて
徐に帰路に着く
かつて隣にいた温もりは
空の彼方で 幸せに暮らしているだろうか
コメント
6件
最後までとても綺麗な表現でした。夏らしいお盆らしい、纏まった文章で惹き付けられました。
うわぁぁぁあ!!!!うわぁぁぁあ!!!(((荒らし紛い) マイナス心情っぽい描写なんてないのに、なんか切なくて胸がぎゅっとなるのがすごい…なんで…魔法使いなのあゆちゃん…(錯乱) 線香花火の考察神すぎて感動した、これから友達と花火する時にあたかも私が考えたかのように自慢しt((( …すみません() 一切直接的な描写ないのに、主人公の状態もかつての景色も今公園で線香花火してるのも
考察と呼べる程の出来では無いですけど、直接的な表現を避けて書いてます 言葉選び頑張りました しっとり、切ない気分になっていただけたら幸いです(語彙力が低いからどうだろうか)