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Re:んネ

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Re:んネ

14 - Re:んネ «第11話»

♥

255

2024年02月10日

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〝ドンッ〟

湿気た火薬音が谷間中に木霊する

銃声による甲高い耳鳴りが キンキンとしつこく繰り返す

その反面

思っていたよりも 薄い手応えの感触に

あたしは少し拍子抜けてしまう

リン

拳銃って言っても
こんなもんか…

眼前には

血塗れた 項垂れる成仏屋が静かにある

硝煙の焦臭さを漂わせる黒髪が 風に短くなびいて

額から滴る鮮血が ヒビ割れた眼鏡の合間を滲ませた

〝随分と呆気ない〟

そう、ぼうと 短く5拍置いた後

環境音がダム湖の瑞々しい 水音へと移り代わっていった

リン

リン

…また別の暇つぶし
を考えなきゃ

リン

リン

…あ、

リン

そっか

リン

まだあったね

2度楽しめるのが

〝私たち〟のいいところ

成仏屋から奪った拳銃を その傍らに放り投げ

死体から背を向けて 立ち去ろうとした時

あたしの下腹部に 違和感を感じた

リン

あ゛…がッ…

死の直前をも想起させる激痛

耐えられなくて 思わずその場にしゃがみ込んだ

溢れ出る 腹部からの出血が止まらない

両手で傷口を押さえながら

混乱した頭で背後を見ると

成仏屋がいつの間にか持っていた 形の異なる別の拳銃から

白煙が昇っていた

「お前は」

シズマ

やっぱり

シズマ

詰めが甘いな

リン

…!?

シズマ

隠し玉ってのは

シズマ

最後まで
取っておくもんだ

リン

あの閃光と発砲音は…

リン

あたしのじゃ​…

リン

ゲホッゴホッ!!!

リン

な…んで…

リン

確かに弾は入ってた…

シズマ

俺を撃つ直前

シズマ

弾の位置を
確認しなかったろ

シズマ

その銃は

シズマ

発砲時以外

シズマ

弾倉が固定されない
特徴があってな

シズマ

勝手にクルクルと
廻りやがる

シズマ

伝統と因習に塗れた

シズマ

ボロい拳銃だ

シズマ

覚えとけ

あたしがさっき 放ったそれを見ると

確かに装填された弾が ズレた位置にまだ残っていた

リン

ちっ…

シズマ

もう一度言うぞ

シズマ

諦めてここで祓われろ

リン

…ッ

リン

…ははっ笑

リン

…死に損ないが

リン

威勢良く
取り繕ってても

リン

あんたはもう虫の息

リン

何も出来やしないわよ

リン

成仏屋

シズマ

…やかましい

血と土埃に塗れて 弱々しい呼吸を繰り返す

放っておいても やがて死ぬのは目に見えた

そんな成仏屋は

ジャケットの左脇から

煙草の箱を取り出すと

慣れた手つきで 一本引き出して咥える

その後、微かに震える左手で

カキンッと ライターの火を付けた

シズマ

…すぅ

シズマ

はぁ……

シズマ

ゴホッゴホッ…!

シズマ

くそっ…

シズマ

血の味で
ろくに美味かねぇな…

リン

最期の一服かしら…?

シズマ

…どうだかな

リン

シズマ

シズマ

お前は…

シズマ

ハルナを殺した

リン

呆気なかったね

リン

正直、

リン

もう少し
期待してたんだけど

シズマ

あいつは…

シズマ

シズマ

あいつはな

シズマ

出会って数時間の
奴の為を想って

シズマ

ボロっカスに泣くんだよ

シズマ

それで

シズマ

挙句の果てには

シズマ

肉親が死んだ元凶の

シズマ

お前のことですらも

シズマ

遂には、同情して
躊躇いやがった

シズマ

本当に

シズマ

シズマ

…本当に呆れるほどの
お人好しだった

リン

リン

…くだらない

リン

今さら泣き落とし?

シズマ

そんなつもりは
微塵もねーよ

シズマ

お前には理解も

シズマ

共感も

シズマ

心変わりも

シズマ

求めていない

リン

…だったら何

シズマ

ただ、

シズマ

シズマ

…ただ、

シズマ

馬鹿でいつも抜けてて

シズマ

オセロの相手にも
なりやしない

シズマ

ため息が出るほど
ポンコツ野郎な

シズマ

お人好しを

シズマ

無下にして

シズマ

殺した

シズマ

お前を

殺してやる

成仏屋の殺気が

甦る

リン

…ッ?!

身構える間もなく

重症のはずの成仏屋の右腕が あたしの首元まで伸びてきた

腕の傷をつけた時

無意識に手加減してしまったのかと 疑う程の握力で

あたしの喉が潰される

リン

あ゛ッ…う゛ッ…

シズマ

どれほど悲惨な
過去があっても

シズマ

心寄せてくれた人を
殺めた時点で

シズマ

お前にもう
選択肢は無い

シズマ

ただの意志を持った
災害に、他ならない

ググッ…っと 更に拳に力が入る

リン

ッゔぅ

シズマ

〝人〟としての

シズマ

一線を超えたんだよ

シズマ

お前は

リン

は…な゛ぜッ

ゴンッ…と

投げ捨てた銃の 銃口が額に押し当てられた

リン

あ゛んただって

リン

人…殺し…じゃない゛

シズマ

…そうだな

シズマ

成仏屋だなんて

シズマ

きっと、
都合のいい解釈だ

シズマ

だが

シズマ

お前のように
感情に身を任せて

シズマ

快楽的に霊達を
殺めたことは無い

シズマ

あの全ての引き金には

シズマ

意味があった

シズマ

その筈だ

成仏屋が鋭く冷たい眼孔で あたしを睨んだ

それが引き金を引く 数秒前を意味するのだと

直感的に分かってしまって

あたしは死んでから初めて

気持ちの悪い悪寒と 身震いを覚えた

リン

や…

リン

い゛や゛ッ…

リン

じに゛たぐないッ

シズマ

…都合のいい野郎だ

シズマ

ハルナだって

じゃあね、シズマさん

また明日

シズマ

…そうだったろうさ

シズマ

シズマ

…じゃあな

〝ハルナ〟

リン

や゛めッ​───

『本当にそれでいいんですか?』

あのアパートで ハルナがそう言った時の

どこか

腑に落ちていない表情

どういう訳か 今になって

あの時の 艶のない陶器のような

ハルナの表情が妙に引っ掛かった

〝極悪〟〝非情〟〝馬耳東風〟

そんな奴が相手なのは 始めから凡そ検討がついていた

『両親を殺した霊を』

『探して欲しいんです』

俺は初めから

ハルナのこの言葉で

とんだ勘違いを していたのかもしれない

『仇を殺してくれ』だなんて

思えば

あいつは一言も言ってない

〝駄目なら殺す〟と

勝手に結論付けたのは

他でもない

俺だった

シズマ

シズマ

待てよ…

シズマ

だとしたら

こんな死に方で

あいつが あっさり成仏する筈がない

ハルナが仮に

コイツの払除を 望んでいないのなら

他にやりようがあるのなら

俺が

ハルナを

地縛霊とする

その原因を

パァンッ!!!!

涙で顔を ぐちゃぐちゃにしたリンが

一瞬

力の緩んだ隙を付いて 左手に持つ拳銃の引き金を押し込んだ

弾丸はリンの頭を逸れて

首元を押さえる 俺の

右腕の上腕部を貫通した

シズマ

しまっ​──​─

リンが片足で地面を蹴って 俺から後方へ離れていく

そのまま絶える間も無く

霧を払う様な仕草で 右手を素早く動かすと

俺の身体が 数メートル吹っ飛ばされた

シズマ

​────ッが!?

ダム天端のコンクリート面に 身体の側面で着地すると

ゴロゴロと回転しながら

頭を含めた全身を打撲していく

シズマ

お…前…

シズマ

まだ…そん…な…

シズマ

しぶと…
過ぎんだ…ろ…

リン

はぁ…はぁ…!

リン

死なない…

リン

もう死なないッ

リン

好きなこと

リン

好きなだけしてッ!

リン

好きなだけこの身体で
生きてやるッ!!!!

リン

お前みたいな
あたしに楯突く害悪も

リン

嫌いなやつは
みーんな殺して…

リン

はっ…ははっ…

リン

あっはははっ!!!!

想像よりも 出血が酷かったようで

無様な事だが

身体が文字通り

指先一つ動かなかった

おぞましい表情で

狂った様に高笑いをする リンが

無意識に 力なく閉じていく瞼で

ゆっくりと

闇に埋もれていった

…けん…しゃは​……

じも…け…さつ…で​

きゅう…か…です…

あけて…く…ださッ​…

しゅ…けつが…と…り…せん…

ゆ…つ…いそいで…!

しっ…さい…

しっか…なさい…

〝しっかりなさい!〟

シズマッ!!

シズマ

…生き…てる…

…起きた?

シズマのおっちゃん

ベッドの手摺に両手をもたれて

ニヤニヤと笑う女性が隣にいた

シズマ

…キョ…ウコ…?

キョウコ

まだ口開かない方が
いいよ

キョウコ

中身含めて
全身ぼろぼろだし

シズマ

お…前んとこの…

シズマ

病院か…

キョウコ

そ、

キョウコ

ここが現場から近くて
良かったねー

キョウコ

あと数分遅ければ
貴方も晴れて

キョウコ

自分のお客の
仲間入りよ…♪

シズマ

キョウコ

キョウコ

…心配した

キョウコ

ばか

シズマ

…すまん

キョウコ

…でも、

キョウコ

一体、何をしてたら
こんな傷作るのよ

シズマ

…仕事だ

キョウコ

お祓い屋さん?

シズマ

成仏屋だ

シズマ

そろそろ覚え​────

ゴンっ

シズマ

いッ​…だッッ───!!!!!

キョウコ

口答えしないの

キョウコ

またやるからね

キョウコ

カルテチョップ

シズマ

重症患者に
何しやがる…泣

キョウコ

急患で入って来て
手術で8時間

キョウコ

目が覚めるまでに丸3日

キョウコ

流石に肝を冷やしたよ

シズマ

あれから3日も…

シズマ

シズマ

…ほんとに助かった

キョウコ

で?

シズマ

で、ってなんだよ

キョウコ

なんかあったんでしょ

キョウコ

その顔は

シズマ

キョウコ

まぁ顔見なくても

キョウコ

その様を見てたら
一目瞭然だけど

シズマ

シズマ

…少し長いぞ

キョウコ

いいよ

キョウコ

私ちょーど
休憩時間なの

キョウコ

でも

キョウコ

起承転結

キョウコ

事実を詳細かつ簡潔に

キョウコ

よろしくどーぞ?

シズマ

…へっ笑

キョウコ

なーるほどね

キョウコ

ダムで幽霊と決闘して負けて依頼者死なせてズタボロになりつつも今に至ると

シズマ

まぁ…

シズマ

大雑把に言えば
そうだな…

キョウコ

無理があるなぁ…

シズマ

いや嘘じゃ…

キョウコ

って

キョウコ

言いたい人生でした!

キョウコ

残念ながら

キョウコ

昔から貴方と
色々見てきたし

キョウコ

その話ダウト!とは
やっぱ言えないよね

シズマ

シズマ

そういや
お前のことも

シズマ

沢山巻き込んだよな

シズマ

す…

キョウコ

『すまなかった』

キョウコ

は、言わなくていいから

キョウコ

…別に責任

キョウコ

とってもらったし…

シズマ

お前よく平気で
小っ恥ずかしいこ​──

ゴンっ

シズマ

ッッッッ​───!!!!

キョウコ

そのハルナって子

キョウコ

高校生くらいの子だっけ

シズマ

…ぁ?

シズマ

あ、あぁ…

キョウコ

肩までのロングヘアー?

シズマ

それくらいだな

キョウコ

ちょっと
くせっ毛のある?

シズマ

ちんちくりん

キョウコ

おー

シズマ

知ってるのか?

キョウコ

うん

キョウコ

見たから

シズマ

何処で

キョウコ

ここで

シズマ

いつ?

キョウコ

今日

キョウコ

から過去2日にかけて

シズマ

シズマ

どういうことだ…?

キョウコ

ここのICUにいるわよ

シズマ

…集中治療室?

シズマ

シズマ

治療…?

キョウコ

生きてるもん

キョウコ

昏睡状態だけど

シズマ

嘘だろ…?!

キョウコ

あ、ちょっと!

キョウコ

急に動いたら…!

シズマ

そんなもんに
構ってられるか!

シズマ

どの部屋だ!?

キョウコ

別に良いけど!

キョウコ

傷口開いたら縫うの
私なんだからね!!

キョウコ

ここだよ

シズマ

…ありえない

シズマ

あの高さからだぞ…

肌が青白く

生気もない

いつもの溌剌さを 全く感じられなかったが

浅い呼吸は確認出来た

まるで

エンバーミングされ 火葬炉の前で待つ遺体

死にきれなかったかの様な ハルナが

そこにあった

キョウコ

現場って

キョウコ

睡蓮ダムだっけ

キョウコ

あそこいま渇水してるし
結構な高さあるよね?

シズマ

ざっと50m位だったな

キョウコ

いやぁ…

シズマ

なんだ?

キョウコ

…んー

キョウコ

ハルナちゃんね…

キョウコ

高所から水面に落下した
ような外傷

キョウコ

ほとんど
無いんだよね…

シズマ

そんな馬鹿な…

キョウコ

だから余計に

キョウコ

目を覚まさない原因が
分からなくて

シズマ

脈は?

キョウコ

かなり弱いかな…

キョウコ

正直なところ

キョウコ

キョウコ

このままの状態なら

キョウコ

今夜が峠かも

シズマ

外傷なし

シズマ

意識不明

シズマ

弱い脈拍…

シズマ

シズマ

幽体離脱…ってやつか

キョウコ

まじであるんだ

シズマ

俺の界隈ですら

シズマ

ギリギリオカルトに
片足突っ込んでるが

シズマ

その理由が何であれ

シズマ

もうそれ位しか
考えられん

キョウコ

仮にそうだとして…

キョウコ

今どこに居るんだろう?

キョウコ

もし近くにいたら
シズマは見えるの?

シズマ

〝幽体〟だからな

シズマ

こんなバキバキ眼鏡でも
辛うじて見えるさ

キョウコ

物持ちがいいとか
超えてるよねそれ…

シズマ

シズマ

物、…か

シズマ

そういや、

シズマ

あいつの所持品は
いま何処にある?

物って

『こうやって失くなるんだろうな』

って

我ながらに思う

【昨日:23時46分】

【タツモト医院 物品保管室】

ハルナ

霊でも

ハルナ

物も持てちゃうん
だもんなぁ

ハルナ

思えばユウト君からも
絵日記貰ってたし

ハルナ

今更っちゃ今更か

ハルナ

んー…

ハルナ

…あ、あった!

私のスマホ

ハルナ

この子で
シズマさんに…

ハルナ

ことづてを…

ハルナ

って

ハルナ

なんか全然
反応しないんだけど

スマホの電源ボタンは 押したら付くんだけど

指先での画面操作が出来ない

ハルナ

スマホって静電気で
反応してるんだっけ…?

ハルナ

私、幽霊だから…

ハルナ

あー…
どうしよう…

ハルナ

…んー

ハルナ

…ん!

私がシズマさんの事務所から ずっとポケットに入れていた

ボイスレコーダー

これも一緒に保管されていた

ハルナ

これなら静電気
関係ないもんねー

カチッ

ハルナ

やっほー

カチッ

や゛っほォー

ハルナ

ハルナ

ちょっと壊れたかな…

動かなくなるのも 時間の問題かもしれない

ハルナ

…でもこれ

ハルナ

今録音して

ハルナ

後で捜査とかに
持っていかれたら

ハルナ

そもそもシズマさんに
届かないかな…

ハルナ

ハルナ

…よしっ

私はこのボイスレコーダーの

用途を少しだけ 変えることにした

ハルナ

…最期に

ハルナ

一目だけ見ていこうかな

ハルナ

やっほ

ハルナ

シズマさん

ハルナ

まだ寝てるかな?

カーテンから顔を覗かせると

シズマさんが 音も立てずに眠っていた

十数時間にも渡る 処置が施された筈の、

身体の至る所からは 赤黒い鮮血が滲んでいて

白いカーテンで仕切られた ベッドの周りが

少しツンと鉄臭かった

そんなシズマさんの全てが 弱々しく見えて

呼吸器に曇る息の跡も

少し心許ない

ハルナ

こんな傷だらけに
なっちゃって…笑

ハルナ

全くもう…

ハルナ

むり…するから…

ハルナ

ですよ…

ハルナ

………

ハルナ

…でも

ハルナ

生きてて良かった…

見るに堪えないこの人の、

元気でムカつくあの笑顔が

『ハルナ』

朧気に浮かんでは

消えていく

ハルナ

ハルナ

…ッ

ハルナ

ごめんなさいッ…

ハルナ

ごめんねっ…

ハルナ

シズマさんッ…

幽霊になって

唯一、良かったことは

咽び泣く必要がないこと

どれ程啜り泣いても

誰にも聞こえないこと だと思った

この夏の思い出

全部

ぜんぶ

置いていきますね

シズマさん

【第11話】

【馳せ参ずる】

【物品保管室:16時41分】

キョウコ

この辺…
だったかな

キョウコ

あー、これこれ

シズマ

こういうのって

シズマ

証拠品として
持っていかれないのか?

キョウコ

明日警察が
取りに来るよ

キョウコ

なんか橋の外灯?
がバキバキに折れてて

キョウコ

そっちの対処にかなり
人手を取られてるみたい

シズマ

あれか…

シズマ

…まぁ、それは寧ろ
都合が良かった

シズマ

さて…

シズマ

…どれが適当か

シズマ

この場合は…

シズマ

スマホか…?

薄手のジップロックを開けて スマホを取り出す

キョウコ

あ、素手で触ったら…

シズマ

大丈夫だろ

シズマ

警察が捜査した所で
分かりゃしないし

キョウコ

じゃなくて…

キョウコ

…大丈夫?

キョウコ

指紋とかで

キョウコ

突き落とした犯人とかに
疑われない?

シズマ

シズマ

やっちまった?

キョウコ

やっちまったね

シズマ

まぁ…何とかなるだろ

シズマ

祓除師も一応

シズマ

捜査資格を与えられてる
はずだからな…

キョウコ

ちょっと
怪しいんじゃん…

キョウコ

それで?

キョウコ

そのスマホ
どうするの?

シズマ

恐らく

シズマ

目に見えた情報は
ないだろうから

キョウコ

ほう

シズマ

このスマホに遺った
残留思念を辿る

シズマ

所有者が日頃から
使用しているものほど

シズマ

当人の記憶や念が蓄積
されやすいからな

キョウコ

…ほう?

シズマ

…まぁこれで

シズマ

ハルナを追える
ってことだ

キョウコ

ちょーっと待った!

キョウコ

気のせいかな?

キョウコ

もう何処か行く気満々に
聞こえるんだけど

シズマ

キョウコ

その身体じゃ
無理だからね?!

シズマ

相変わらず心配性だな

シズマ

なんとか​───

キョウコ

なりません!

キョウコ

外なんて出たら

キョウコ

ぜっっったいッ!

キョウコ

死っ…!

キョウコ

…ごほんっ

キョウコ

おねんねします!

キョウコ

永遠に

シズマ

不謹慎だからって
言い直すな

キョウコ

真面目に言わせてもらうと
ドクターストップです

キョウコ

多量出血に内臓損傷

キョウコ

それに

キョウコ

右手の感覚だって
ほぼないでしょ?

シズマ

キョウコ

アホみたいに
弱ってるんだから

キョウコ

後は警察に任せなよ

キョウコ

…ね?

シズマ

だが…

キョウコ

シズマは十分
頑張ったって

キョウコ

それはハルナちゃんだって
分かってると思うし

キョウコ

きっとシズマが
死ぬ程の無茶なんて

キョウコ

…望んでないよ

シズマ

シズマ

…そうだな

キョウコ

…よかった

シズマ

…じゃあ

シズマ

警察へ引き継ぐ為に

シズマ

〝コイツ〟だけ
やらせてくれ

キョウコ

無理をせずに手早くね

シズマ

…よし

両手でスマホを包んで

目を閉じる

ハルナ

なんでここにいるの

ハルナ

リン

リン

なにさ、
怖い顔しちゃって

リン

ただ成仏屋がちゃんと

リン

死んだかなーって思って

リン

見に来ただけ

ハルナ

リン

と思ったらさ…

リン

やっぱしぶといね

リン

あんた達

リン

…まぁ

リン

あんたは
予想外だったけど

リン

何その身体?

ハルナ

…知らないよ

ハルナ

気が付いたら
こんな感じだった

ハルナ

ハルナ

私のことはどうでもいい

ハルナ

もう

ハルナ

シズマさんは
放っておいて

ハルナ

…お願い

リン

分かった、って

リン

言うと思ってんの?

リン

あいつにつけられた
あたしの腹の傷

リン

この身体のくせに

リン

全然痛みが引かないし

リン

すっごい
ムカつくんだわ

ハルナ

ハルナ

…お願い

リン

リン

文字通り

リン

成仏屋の寝首を
搔かれたくないのなら

リン

分かるよね

ハルナ

どういうこと

リン

あたしの言う通りに
すること

ハルナ

ハルナ

何をすればいいの

リン

ゆーと君が消えた場所

リン

覚えてるよね?

ハルナ

…忘れるわけない

リン

そこまで来なよ

リン

面白いもの

リン

見せてあげるから

ハルナ

…分かった

リン

期限は

あんたが息絶えるまでね

シズマ

(リンはハルナを
引き摺り込む気だ…)

シズマ

(これは…)

シズマ

(…マジで洒落に
なんねぇぞ)

キョウコ

…?

キョウコ

…シズマ?

シズマ

シズマ

…場所は何となく分かった

シズマ

外で引き継ぎの
電話をしてくる

キョウコ

キョウコ

おっけ

キョウコ

外まで手を貸そうか?

シズマ

いや、大丈夫だ

シズマ

一人で歩ける

シズマ

シズマ

…なぁ

シズマ

キョウコ

キョウコ

…?

キョウコ

なに?

シズマ

いつもありがとな

キョウコ

ど…

キョウコ

どうしたのいきなり…笑

シズマ

何となくだ

シズマ

…それより

シズマ

そろそろ
休憩終わりだろ?

キョウコ

そんな時間か…

キョウコ

…もう行かなきゃ

シズマ

じゃあ、また後でな

キョウコ

…うん

キョウコ

キョウコ

あの…

キョウコ

…シズマ

シズマ

ん?

シズマ

…どうした?

キョウコ

私が医師を
続けてる動機と

キョウコ

貴方が成仏屋を
続けてる動機

キョウコ

きっと、そんなに
変わらないんだと思う

キョウコ

何があっても

キョウコ

何を言われても

キョウコ

貴方のその信念は
間違えてない

キョウコ

お互いに
救うべき人を

キョウコ

救える方法で

キョウコ

救っているだけ

キョウコ

だから…

キョウコ

キョウコ

気を付けて

キョウコ

行ってきなさい

シズマ

シズマ

…流石だな

シズマ

いつになっても
適う気がしない

キョウコ

当たり前でしょ?

シズマ

ありがとう、キョウコ

シズマ

行ってくる

キョウコ

キョウコ

…ほんと

キョウコ

すぐ顔に出ちゃうところ

キョウコ

変わらないんだから…笑

【院内廊下:18時26分】

サトシ

キョウコ先輩!!

キョウコ

どうしたの?
そんなバタバタして

サトシ

203号室の

サトシ

カミヤさんが
いないんです…!

キョウコ

あら

サトシ

巡回が少し
遅れてしまって…

サトシ

急いで見に行ったら
もう居なくて…

サトシ

あんな…

サトシ

あんな重症で
動けるはずが…

キョウコ

駄目じゃん

キョウコ

ちゃんと見てなきゃ

サトシ

す、すみませんッ…!

キョウコ

…うそうそ笑

キョウコ

…でも

キョウコ

医療従事者としては
ハラダ君の方が正解かな

サトシ

どういう意味です?

キョウコ

患者の意志を
尊重し過ぎちゃった

キョウコ

彼が抜け出すのは

キョウコ

…分かってたからさ

サトシ

な、何か…、
あったんですか?

キョウコ

まぁ、その内
戻ってくるよ

キョウコ

あの人なら

キョウコ

じゃないと困るし…

サトシ

何か知ってるような
口振りですけど

サトシ

カミヤさんと
お知り合いなんですか…?

キョウコ

ハラダ君

サトシ

は、はいっ

キョウコ

私の苗字は
なんだっけ

サトシ

えっと…

サトシ

カミ…

サトシ

ヤ…?

キョウコ

そーゆーことです

サトシ

どーゆーことです?!

キョウコ

ほら、業務に戻るよ

サトシ

う…

サトシ

う…そだ…

サトシ散る

シズマ

はぁはぁ…

シズマ

くそっ…

シズマ

思ったよりキツイな…

シズマ

やっぱりキョウコの
言う通りだった…

病院を抜け出して

事務所まで来たはいいが

リンにやられた箇所からの 出血が酷い

腕と腹の包帯からは ジワジワと血が滲んで

見ているだけで 痛みが増すような気がしてくる

シズマ

新しく巻いておくか…

シズマ

さて、

シズマ

救急箱は
何処へしまったか

デスクの椅子に腰掛けて

引き出しを漁り、 やっとこ救急箱を取り出すと

腕の包帯をクルクルと交換した

シズマ

はぁ…

シズマ

ボロボロで情けねぇな…

少し一息ついて

チラッと横目で応接机を見ると

調査前日に ハルナとやったボードゲームが

だらしなく 乱雑に散らかっていた

シズマ

シズマ

…時間がない

少し角が色落ちした 茶革のショルダーバッグに

弾薬、短刀、神酒の小瓶、

護符、煙草、鎮痛剤と

手当り次第仕事道具を 詰め込んでいく

シズマ

お前ももう少しだけ
頑張ってくれ

俺は最後

ショルダーホルスターに 拳銃を挿し込むと

事務所横の 駐車場へと向かった

車3台が収まる 小さな駐車場

その一番奥に

カーキ色の防雨シートを被った バイクがある

シズマ

よっこら…

シズマ

っと…

シズマ

久しぶりだな…

シズマ

元気にしてたか?

シズマ

問題は…

シズマ

エンジンが…
掛かるかどうかだが

シズマ

頼むっ…

シズマ

おらっ

〝バルンッ〟

シズマ

へっ…笑

シズマ

聞き分け良くて助かるぜ

私は

たくさん

夜を歩いた

あの街を出て

市外へ向かう沿線を歩いて

あの山へ向かう夜道を歩いた

何かから

逃げる様に

急く様に

近付くほどに

胸がざわめく

帰りたかった

あの街に

日常に

でももう

遅かった

ハルナ

っ…

ハルナ

はぁ……ッ笑

ハルナ

やだなぁ…笑

ハルナ

何でだろ…

ハルナ

行きたく…

ハルナ

ないやっ…

ガクガクと

声が、全身が、

小刻みに震えてしまう

こんな

特異な状況に 置かれている時ほど

平凡な日常の

他愛のない一欠片が

ひどく恋しくなる

勢いに任せる様に大きく 息を吸って

全てを忘れる様にゆっくりと 息を吐いた

〝カチッ〟

ハルナ

ハルナ

えっと…

ハルナ

これちゃんと

ハルナ

録音出来てるのかな…

ハルナ

もしもーし

ハルナ

って言ったって
仕方ないか…笑

ハルナ

んと…

ハルナ

こんな時って

ハルナ

なんて…

ハルナ

言えば良いんでしょうね

ハルナ

上手い言葉が

ハルナ

見つからないん
ですけれど…

ハルナ

取り敢えずは

ハルナ

…ごめんなさい

ハルナ

馬鹿なことをしてるのは
分かってますけど

ハルナ

貴方のらしくない姿を
見るのが、

ハルナ

…正直

ハルナ

…ちょっと辛いです

ハルナ

…はははっ

ハルナ

ハルナ

何言ってるんだろ…

ハルナ

まぁまぁ、

ハルナ

貴方は貴方らしく

ハルナ

あの椅子にふんぞり返り
ながら座って

ハルナ

煙草をあの
少しムカつく表情で

ハルナ

吸ってるのが

ハルナ

性に合ってますよ

ハルナ

ただただ…

ハルナ

それだけですッ…

涙声になってきてしまって

マイクから口を少し離した

ハルナ

…はぁッ

ハルナ

こんな遺言を遺しておいて

ハルナ

言うのもアレですが…

ハルナ

私の事は

ハルナ

出来るだけ

ハルナ

…忘れてください

ハルナ

これが

ハルナ

私の

ハルナ

最後の…

ハルナ

依頼です

ここでボイスレコーダーが

変なノイズを上げながら壊れた

ボタンを押すと

再生機能だけは生きていたようで

私の声が歪ながらも再生された

ハルナ

さよならも
言えてないのにな…

ハルナ

まぁ…

ハルナ

こんな終わり方も

ハルナ

私らしいか

手に持っていた ボイスレコーダーを

近くの小岩の上に置いて

あの時残った木の板を

ハルナ

んしょ!

ハルナ

このっ!!

蹴りで打ち破っていく

ハルナ

面白いものって

ハルナ

どーせこの先なんでしょ

顔を覗かせた洞窟の穴から

何とも言えない空気が漂ってくる

ハルナ

ハルナ

行くかぁ…

誰も

誰も私を止められない

止めてはくれない

ハルナ

…行ってくるね

ハルナ

シズマさん

私は今から

私を

殺しにいく

すまないが

御託を言わせてくれ

俺は

幽霊どころか

生きた人間一人救えない

あろう事か

自分の子供と同じ要因で

お前のことも半分失った

救いようの無い

クソ野郎だ

『あんただって人殺しじゃない』

リンのこの言葉は

寧ろ

的を得ていたと言える

ただな

『貴方の信念は間違えてない』

そう言ってくれる人もいた

〝救うべき人を〟

〝救える方法で〟

俺は不器用だから

きっと

お前の望まない 方法になっているであろうことを

どうか許して欲しい

たとえ

何と言われようとも

お前の友人である

カミヤ シズマとして

絶対に

お前を

連れ戻してみせる

どんな〝手〟を使ってでも

«次回»

«最終話»

【素敵なイラストの提供】

悠 様 (Xアカ:@shunsukedayoon)

本当に本当に、 ありがとうございました。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

7

ユーザー

引き込まれるように一気に読みました。数年越しに伏線回収しているのがすごいです…! 最終話が楽しみです。完成するのをずっと待っています。

ユーザー

ずっと待ってました…!!更新本当にありがとうございます!! 次回もすごく楽しみにしています!!

ユーザー

深夜暇で暇つぶしに見てみたら最高すぎて感動しました。ほんと最高です‼️制作お疲れ様でした……

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