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昇降口にはもう誰の姿もなく、後者の静けさが、心のざわめきを際立たせていた。
カタン。
下駄箱の扉が閉まる音に驚いて顔を向けると、そこにいたのは_緑だった。
桃 。
緑 。
緑 。
そう言って、緑は少し照れくさそうに笑った。
あぁ、だめだ。そんな顔、しないで。
その笑顔を見る度に、「やっぱり好きだ」って確信してしまう。
桃 。
とっさに嘘をついた。逃げたかった。
緑と並んで歩くと、また期待してしまうから。
今日だけは、一人になりたかった。
緑 。
緑はそれ以上追及せず、手を軽く振って歩き出す。
その背中を見送りながら、心の中で叫ぶ。
_待って。行かないで。
手を伸ばせば、届く距離にいるのに。
言葉にすれば、何か変わるかもしれないのに。
でも、私は何もできないまま、立ち尽くしていた。
好きにならなければ、こんなふうに苦しむこともなかったのに。
でも、もし好きじゃなかったら_
今のこの痛みすら、知ることはなかった。
桃 。
心の中でつぶやいて、私はゆっくりと背を向けた。
このまま気持ちを隠し続ければ、きっと"優しい幼なじみ"でいられる。
でも、それは私の本心じゃない。
もう限界が近いことに、私は気づいていた。