母
母
"あの時"は優しかった。
でも、 そんな優しいママは
あの日を境に変わってしまった。
ガタッ…!
夜遅くに大きな音がなり 目が覚める。
私は目を擦りながら、 リビングの扉を少し開け覗く。
母
母
ママがパパの腕を掴み必死に問う。
母
父
父
父
母
母
父
母
父
母
バチンッ!!
母
父
父
父
母
母
父
父
父
そう言うとパパは
ビンタされ、 しゃがみこんだママを
何度も何度も蹴りまくった。
私は何も出来ないまま 部屋に戻り眠りに落ちた。
朝、目が覚めて リビングの扉を開けた瞬間、
すごい光景に息を飲み込んだ。
あの後も、 揉め合いになったのか、
部屋が荒れていて、 物があちらこちらで落ちていた。
その中に紛れて、ママが 下を向いて座り込んでいた。
パパの姿は、 どこにも見当たらない。
ママに近づくと、 何かブツブツ言っているのが 聞こえた。
母
母
母
母
母
ブツブツ…
読んでも返事ない。
私は人声掛け、 逃げるかのように家を出た。
ガチャ
学校から帰ってきて、 リビングのドアを開けると、
母
部屋は元通りに片付いていて、
いつものように笑顔で おかえりと言ってくれた。
でも、目は… 笑っていなかった。
急に寒気がして、 部屋にいこうとした時…
母
トン
トン
トン
ト ン
ト ン
ト ン
トン
母
母
キッチンで野菜を 切りながらそう言う。
いつものママじゃない。
何かが
何かが…
変だ。
ー数日後ー
テストが帰ってきて、 テスト用紙を持って家のドアを開ける。
ガチャ
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
ママはしゃがみ、 私の肩に手を置くと…
母
母
母
ママの言う通りにしなさい。
そうすればきっと、
幸せになれるわよ。
そうママは言う。
パパがいなくなってから ママの様子がおかしくなった。
あの日から、 優しかったママは
変わってしまった。
私は中学生になった。
勉強が難しくなるにつれ、 勉強する時間も段々増えて行った。
母
私は苦手な数学で高得点がとれてとても嬉しかった。
これで、ママに 褒めてもらえる。
そう思い、 自信満々でテストを見せた。
だけどママは、
母
そう言うと、キッチンの方へ 行ってしまった。
母
母
母
母
母
母
母
頑張って頑張って、 勉強し続けたのに。
褒めてもらえると思って気持ちが高ぶってたのが、
今考えてみると バカだなと思った。
ー次の日 朝ー
母
母
母
母
私はいつも通り、 制服に着替え家を出た。
だけど、私は学校に行くフリをして、
別の方向へ歩いていった。
昨日、分かった、
頑張っても頑張っても 意味が無い。
そう思うと、 学校にも、勉強も 何もしたくなくなった。
私はそう言いながら カバンから財布を取り出す。
私は、今までコツコツ貯めてきたお金を使って、
やりたかった事をやろう。 そう思った。
それから私は、 空が真っ暗になるまで 遊びまくった。
友達と遊ぶことも許されなかった私は、
こうやって、朝から晩まで遊ぶことは私の中で唯一の憧れだった。
ビュッーー
冷たい風が私の頬をさする。
どこかへ泊まろうと考えたが、
もうお金は残り少しになっていて、
泊まるお金はもうなかった。
何時か確かめるため、 電源を切っていたスマホに 電源を入れる。
通知を見ると、 ママからの電話ばかりだった。
怒られる。 そう思っているけれども、
心のどこかでは、 心配して欲しい そう思っている自分もいた。
いつもママの言う通りにしてきた。
だからこうやって、 勝手な行動をすることは
感じたことの無い緊張感があった。
だけど、今日1日、 すごく楽しかった。
…ガチャ
静かに玄関のドアを開ける。
するとリビングの方から 足音が近づいてきた。
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
いつも
いつも
勉強ばかりして、
暇があれば勉強。
休みの日は他の習い事。
私には、 自由という時間がなかった。
欲しいものがあっても、 買ってもらえない。
他の子が持っていても、 私だけが持っていない。
買ってもらえるものは、 勉強に必要なものだけ。
私はずっと、ママの言う通りにしていた。
なのにまだ足りないの?
頑張って
頑張って
頑張っ て
頑張 って
頑 張って
頑張って
頑張って
頑張って きたのに、
私はただ、 あの時みたいに…
小さい時みたいに、
褒めてもらいたかった。
ただ…
それだけなのに…
自分のことばかりしか考えてないママに
突然怒りが込み上げてきた。
母
母
母
母
母
母
母
母
母
違う
母
母
違う
母
母
違う!
母
母
母
母
母
バチン!!
ママは私の頬を思いっきり叩くと
私の目を覗き込んで こう言った。
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
貴方のため?
違うでしょ?
母
母
母
母
ガチャ
『ママ〜!見て見て〜!』
『学校のテストで100点とったよ〜!』
『あら、すごいじゃないの!』
『偉いわね!』
『えへへっ!』
『遊んでる暇あるなら、 勉強してなさいよ!』
『こんなくだらないことして、』
『ママをガッカリさせないで!』
「どうして、ママの言うことが聞けないの?」
「……全てママに任せなさい。」
「ママの言う通りにして。」
「そうすればきっと、」
「幸せになれるわよ。」
「パパがいなくなったのは」
「…あなたのせいよ。」
「貴方が産まれたせいよ。」
「アンタが、クソガキだからよ!」
「アンタがもう少し、賢かったら…」
「…パパは…出ていかなかったかもしれないのに。」
「全部、アンタのせいよ!」
ママに言われた言葉がどんどん思い出してくる。
そうするとなぜか、 自然に涙が溢れてきた。
泣きながらも、私は 必死に走り続けた。
必死に 必死に
足をとめないで、 真っ暗な道を走り続けた。
このまま遠くへ。
誰もいない所へとにかく行きたかった。
私の居場所はもうどこにもない。
帰るところも、
お金も
もう私には何も 残っていなかった。
ママが言っていた通りパパが出ていったのは
確かに私のせいかもしれない。
私はクソガキで ママにずっと甘えていたから。
ママがパパに暴力を振られている時も
私は何も出来なかった。
私は、 ママに言われた通り
勉強も
スポーツも
何でもやって、 何でも出来ると思ってた。
だけど、私は何かが、 かけていたんだね。
私は
できる子を 演じていたつもりだけど、
やっぱり、私は できない子なんだ。
コメント
1件