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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

『元気ですか?浮上したら漁火が綺麗だったので送ります。春はまだ遠いですが風邪など引かないように気をつけて。』

相変わらずの短いメールに写真が添付されていた。

黒に滲むオレンジの点。 説明がないと漁火なんだか何なんだかよく分からないが、幻想的な絵ではある。

ワンルームのベッドに仰向けに倒れて、中峯聡子(なかみねさとこ)は携帯の小さな液晶を見つめた。 冬の漁火というとあたしにはイカ釣り漁船くらいしか思い浮かばない。

今、どこにいるんだろう。風邪の心配してるってことは寒いとこ? でも海上ならこの時期どこでも寒いだろうし。

メールが届いたってことは沿岸だろうけど国内とは限らないから・・・

中峯聡子

やめたやめた

携帯を持った手を真横に投げ出す。 居場所は詮索しないのがルールだ。

中峯聡子

取り敢えずはまだ付き合ってるってことだよね

漁火がきれいだったので(君にも見せたくなったから)送ります。

このくらいの補完は許されるだろうか。少なくとも、きれいだと思った景色をメールで送ろうと思うくらいにはあたしに関心があるということで、

付き合いが終わっていないはずの現状からすると、その関心は好意と解釈しても独り善がりではないはずだ。

句読点含め53文字。 何度読み直しても食い入るように眺めてもそれ以上びた一文字出てこない。

端的な彼の文章は、2ヶ月ぶりの連絡としては素っ気なさすぎて色々と不安になる。 待つ身は長いというのは本当だ。

なかなか連絡が取れない彼ではあるが、メールが2ヶ月ぶりというのは最長だ。

空いた時間に対してこの3行はあんまり素っ気なさすぎる。

もう少し何かサービスしてよ。好きだとか愛してるなんてことまでは要求しないけど、会いたいとか寂しいとか。

今回だけはもっと何か、甘ったるい恋人らしい言葉が欲しかった。

春はまだ遠いですが。

中峯聡子

むしろあんたが遠いわよ

呟いてから気づく。奇しくも巧く掛かっている。ハルというのが彼の呼び名だ。

受診時刻を見ると1時間ほど前だ。念のために彼の携帯に掛けてみるが結果はお定まりの『電源が入っていないか電波の届かない場所』である。

1時間前だと帰りの電車に揺られている最中だ。電車内ではマナーモードで鞄に入れてあるので気づけない。

家に帰って来ていたら、すぐ掛け直せばもしかしたら繋がったかもしれないのに。

残業が憎い。

いや、残業でも事務ならこんなに遅くなっていない。営業に異動していなければ。

大体、同期の女子は3人いたのに何でよりにもよってあたしが異動に。

思考がどんどんマイナスに回り出して、あたしは色んな気持ちを振り切るように携帯を閉じた。

このままくどくど考え込んでいたら、最後は行き着いてはいけないところに行き着いてしまう。

次の連絡は数週間後か数ヶ月後か。

ーー潜水艦乗りの彼女は辛い。

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