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第1話 - あ

2023年08月29日

#恋愛

結城　真矢

リエ

アトさん、お疲れ様。今LINE大丈夫？

アト

リエさん、お疲れ様です。大丈夫ですよ？

アト

何か急用ですか？

リエ

まあ、明日会社で言っても良かったんだけど。

リエ

善は急げって事で、今からお願いする事にしたんだ。

アト

はあ、何でしょうか？

リエ

ねえ、同じ課の人から聞いたんだけど、

リエ

アトさん、あなたのご実家、ケーキ屋さんなんですって？

アト

ケーキ屋？ええ、まあそうですが。

リエ

しかも兼持町にあるあのケーキ屋さんなんですって？

アト

よくご存知ですね。

リエ

私、あのケーキ屋さんのケーキ一度食べたかったの！

リエ

テレビや雑誌でもよく紹介されていたよね？

アト

はあ、まあ。取材受けたみたいです。

リエ

昭和の時代から続くお店で、レトロ感がありつつ

リエ

可愛さやセレブ感もあってインフルエンサーの常連も多いでしょ？

アト

ネットでもよく紹介してもらっているみたいですね。

リエ

いいなあ。食べてみたーい。

アト

ありがとうございます。両親も喜ぶと思います。

リエ

私は、推しのインフルエンサーが紹介した

リエ

映え映え納豆スメルチーズケーキがいいなあ。

アト

限定や予約制でもないので、店に行けば買えると思いますよ。

リエ

え？アトさんが買ってきてくれるんじゃないの？

アト

え？なんで？

リエ

なんでって、お友達だから？

アト

お友達でも理由もなくケーキ買ってきませんけど。

アト

そもそも、リエさんは同じ職場で働いている間柄ですよね？

リエ

ケチねえ！

リエ

いつもお世話になっている同僚に、有名店のケーキを

リエ

ご馳走するって配慮はないの？

アト

いつもお世話になっているって、本当に言ってます？

リエ

前に足りなくなったファイルを分けてあげたじゃない。

アト

そのファイル、会社の備品ですよね？

アト

たまたま事務所にファイルがなかっただけで、

アト

倉庫に行けば問題なかった事ですし。

アト

それよりも、リエさんが間に合わなかったデータ集計や

アト

会議資料のまとめとか残業して手伝ってますけど？

リエ

そんなの、みんなで助け合ってやる事でしょ？

リエ

課長もそう言ってるじゃない！

アト

元々、リエさんが振られた仕事ですよね？

アト

手伝ってるのは、それが間に合わなかったから、

アト

私の仕事にも影響しているからです。

アト

今日だって、リエさんの仕事を手伝っているのに、

アト

先に帰りましたよね？

リエ

えー、そうだったの？じゃあ帰る時に言ってよ。

アト

言いましたけど、逃げるようにして退勤しましたよね？

リエ

そうだったっけ？

アト

あの仕事、明日までに提出しなきゃいけないですよね？

リエ

そうだったっけ？

アト

自分の仕事の期限も把握してないんですか？

アト

リエさん、ずっと前から思ってましたけど、

アト

私、リエさんの仕事を半分くらいやってるんですけど？

リエ

あれ？そうだったっけ？

アト

でも成果はリエさんのもの。正直、やっていけないんですよ。

アト

データはクラウドに入れてありますので、明日からは

アト

リエさん1人でやってくださいね。

リエ

まあまあ、そんな事いわないで。

リエ

甘い物食べたら、気持ちも落ち着くかもよー。

アト

休憩時間に、お茶菓子を食べているので大丈夫です。

アト

と、いうかそのお茶菓子もリエさん勝手に取って行ってますよね？

リエ

はあ？それは私じゃないわよ！

アト

リエさんがデスクで食べているのを見ていますよ。

リエ

私個人で買ったのよ！言いがかりよ！

アト

そうですか？あれ、限定品だったのに？

リエ

酷い！ろくな証拠もなく、犯人扱いだなんて！

〜翌日〜

キョウジ

アト君、おはよう。

アト

課長、おはようございます。

キョウジ

これから出社かな？

アト

はい。今駅で、電車に乗るところです。

キョウジ

そうか。なら間に合うか。

アト

どういう意味ですか？

キョウジ

今日はこっちじゃなくて、遠井支店の方へ行ってくれ。

アト

え？今日からですか？

キョウジ

ああ。そっちからだと、電車で1時間くらいだが、

キョウジ

私の方から遠井支店には話をつけてある。

アト

いきなりですね。遠井支店で何かトラブルでも？

キョウジ

いや、そっちは他の支店とは違い、業務も少なく人員も少ない。

キョウジ

特に何かトラブルがあったわけじゃないんだけどね。

キョウジ

まあ、社内クラウドで共有できる書類があるから、

キョウジ

今までの仕事はそっちでやってくれ。

アト

ちょっと待ってください。

アト

遠井支店へ行く理由を教えてもらえませんか？

キョウジ

君、リエ君を謂れのない盗みを疑ったそうだね。

アト

え？何のことですか？

キョウジ

リエ君から証拠のLINE履歴を見せてもらってるよ。

キョウジ

お茶菓子を盗って行ったとか、証拠もないのにひどい事を言うね。

アト

それは、確たる証拠もないのに、軽はずみな発言でした。

アト

リエさんに直接謝罪させてもらえませんか？

キョウジ

リエ君は大変傷つき、君の顔を見るとショックを受けるそうだ。

キョウジ

業務にも支障をきたすおそれがあるので、

キョウジ

君は遠井支店で仕事をしてもらう事にした。

アト

私の言い分は聞いてもらえないのでしょうか？

アト

君がしばらく遠井支店にいたら、ほとぼりが冷めるだろうよ。

キョウジ

だから、そこは我慢してくれないか。

アト

はあ？

キョウジ

それと、リエ君が今担当している資料も頼んだよ。

アト

そんな、今までリエさんの仕事も

アト

ほとんど私がやっているのを知っていますよね？

キョウジ

え？まあ、手伝ってくれているのは知ってるよ。

アト

先日、よくまとまっていると、課長が褒めていたレポート、

アト

ほぼ私がまとめたものなんです。

アト

リエさんは途中で放り出して、私が後を継いだんです。

キョウジ

そうだったのか？それはご苦労だったね。

キョウジ

でも、仕事はみんなでフォローし合うものだよ。

キョウジ

仲間が仕事ができなくなった時は、手を差し伸べるものだ。

キョウジ

誰の成果だとかは関係ないんだよ。

アト

リエさんは、私の仕事、何一つ手伝ってくれないですねどね。

キョウジ

そんな意地の悪い事は言わずに。

キョウジ

リエ君も、いつかは君を手助けしてくれるかもしれない。

キョウジ

そう冷たくしていたら、助けてたくても助けられないかもよ。

アト

わかりました。

〜その日の昼〜

リエ

アトさん、遠井支店はどう？

アト

どうって、環境が変わったけど、そんなに変わらないかな？

アト

お昼ごはん食べられるお店が少ないのがちょっと不便なだけで。

リエ

それは残念ねえｗｗｗ

リエ

こっちは今からインフルエンサーお勧めのお店でランチだよ。

リエ

今から写真送るね。

アト

まあ、いい彩りね。あのカフェの新作？

リエ

そうそう。マスターのお散歩中に拾った草の

リエ

気まぐれサスティナブルサラダランチよ！

リエ

こっちの支店は、おしゃれなお店が並んでるから、

リエ

毎回選ぶのに大変だわーｗｗｗ

アト

毎日が忙しいわね。

リエ

ところで、課長に怒られて反省しましたかー？

アト

怒られてって、課長がリエさんの肩を持っているだけでしょ？

リエ

でも、課長はアトさんが悪いって言ってたけど。

アト

課長は事なかれ主義だからね。

アト

私が我慢したらうまく収まると思ってるんでしょ？

リエ

ちなみにこのLINE履歴も後で課長に見せるね。

リエ

アトさんが課長の悪口言ってましたーって。

アト

個人的なLINEのやり取りを第三者に見せるってどうなの？

リエ

証拠です。証拠。

リエ

止めて欲しければ、アトさんの実家のケーキを持って来る事ね。

リエ

昨日言った、映え映え納豆スメルのチーズケーキ、ホールで。

アト

はあ？

リエ

UNKチョコケーキも気になってるんだよねー。

アト

あのね。それ、脅迫とも取れるんだけど。

リエ

そう？でも職場に差し入れてもいいんじゃない？

リエ

そしたら課長の機嫌も治るかも。

アト

それはできないよ。

リエ

えー、じゃあずっと遠井支店で働く事になるよ？

リエ

もしかすると、もっと寂れた町の支店に異動になるかもｗｗｗ

アト

別に支店が変わっても、ネット環境があれば仕事できるから。

リエ

ええ？周りにイケてるお店が全然ない地域でもいいの？

アト

電車があるから、不便は感じないかな。

アト

お昼はコンビニでもいいし。

リエ

いいから、ケーキ持って来なさいよ。

リエ

言う事聞かないと、課長にはあなたの悪事をさらに告発するから。

アト

やってもいない悪事をどうやって告発するのよ。

〜翌日〜

キョウジ

アト君、どういう事かね。

アト

課長、おはようございます。どうされましたか？

キョウジ

リエ君に大量の仕事を押し付けたみたいだね。

アト

は？

キョウジ

本来なら君がやるべき仕事を、

キョウジ

リエ君に大量に押し付けたとの報告が上がっている。

アト

具体的にどの仕事ですか？

キョウジ

社内クラウドを確認しなさい。

アト

これですか？これは本来ならリエさんが担当している仕事です。

キョウジ

だが君の署名もある。

アト

私は途中のチェックで署名してあります。

アト

それに、できている箇所は私はやったところです。

アト

ここまで手伝ったから、後はリエさんがやってね、と

アト

言ったのは覚えていますよ。

キョウジ

なぜ最後まで手伝わないんだ。

アト

ですから、リエさんの仕事ですから。

アト

私は私で別の仕事があります。

アト

リエさんが投げ出したので正式に引き継いだ仕事もあります。

キョウジ

大量の仕事にリエ君が困ってるんだ。

キョウジ

どうにかして助けてあげなさい。

アト

私はこの量の倍近くあるんですが。

キョウジ

人にはできるペースがあるだろう？君が仕事が早いのは認める。

キョウジ

だから、困っている仲間を助けてあげてもいいじゃないか？

アト

もう充分に助けていると思いますが。

キョウジ

君がそう反抗的だから、職場の空気が乱されるんだ。

アト

いえ、仕事で揉めているのはリエさんとだけですが。

キョウジ

リエ君と揉めていると言えば、ケーキくらい買ってやりなさい。

アト

ケーキの件も知っているんですね。

アト

でも、これは明らかにリエさんの方が図々しくないですか。

キョウジ

ご実家のケーキなんだろ？別にいいじゃないか？

アト

いいと思うかは、日頃のリエさんとの関係によると思います。

アト

それに実家は平日に気軽に寄れる距離じゃないので。

キョウジ

そんな態度だと、こっちの支店に戻ってくるのはまだ先だな。

アト

え？

キョウジ

リエ君と和解が戻って来る条件だ。

アト

そんな。課長、そこまでする事ですか？

キョウジ

職場の和を乱している以上、君を戻す訳にはいかない。

アト

そんな。

キョウジ

どうすればリエ君と和解できるか、よく考えるんだな。

〜2日後〜

リエ

アトさーん、ケーキは今日持ってこれそう？

アト

ケーキは持ってくる予定はないですね。

リエ

えっ？課長に言われた事忘れたの？

アト

忘れてはいません。自分なりに、考えていますよ。

リエ

私の要望はね。毎日あなたの実家のケーキと、

リエ

私の仕事を全部やってくれる事。

リエ

この2つを実行できたら、こっちに戻ってきていいよ。

アト

あなたのご要望、記録しておきますね。

リエ

忘れないでよ！

リエ

あー、ケーキどれにしようかなあ。

〜1週間後〜

リエ

ちょっと、ケーキはまだなの？

アト

リエさん。ケーキは待ってても来ないですよ。

リエ

はあ？ふざけんじゃないわよ！

リエ

ケーキを毎日持ってくるって約束でしょ？

アト

約束していませんよ。

アト

ただあなたの要求として記録する、と言っただけです。

リエ

屁理屈こねないで！

リエ

仕事も全然やってないじゃないの。

リエ

このままじゃずっと遠井支店勤務だけどいいの？

アト

別にいいですよ。

リエ

へ？

アト

実際に勤務してみれば、快適な職場なんですよ。

アト

ネット環境は整っているから、仕事は問題なくできますし

アト

何より、仕事を押し付けて来る同僚も、

アト

面倒事を起こす方の肩を持つ課長もいない。

アト

みなさん、自分の仕事は自分で責任を持ってやっています。

リエ

ネット環境があれば、私の仕事も手伝ってくれるでしょ？

アト

手伝う理由はないですし。

アト

同じ部署じゃなくなったから、共同責任もなくなりましたし。

リエ

へ？

アト

自分の仕事は自分でやってくださいね。

リエ

それじゃ困る！

アト

困る前に、自分で解決しようとしてくださいよ。

リエ

そんな。本社から統計資料の請求がきているの。

アト

ああ。システムは私が組んだものですか。

アト

データ量は多いですが、入力だけだと伝えたはずですよ。

リエ

こんな大量にできないよ！データもどこにあるか分からないし。

アト

共有ファイルにあるはずですよ。

アト

わからないなら、他の社員に聞いてください。

リエ

ねえ、アトさんが全部やった方が早いんじゃないの？

アト

私も期限が迫っている仕事があるので無理です。

リエ

そんな事言わないで。アトさんならすぐにできるって。

アト

無理です。自分でやってください。

リエ

課長にまた意地悪されたって報告するから。

アト

どうぞ。私もこの件を本社に報告していますから。

リエ

へ？

アト

どうも私が部署の和を乱したようなので、反省として報告書を

アト

本社の人事部に提出してあります。

リエ

さっき課長が呼び出されたのって、まさか。

アト

それはわからないですね。

アト

近い内に本社から事実確認があるとは聞いていますが。

リエ

ねえ、アトさん。もし本社の人から聞かれても、

リエ

冗談だった、って言ってくれないかしら？

アト

それはできませんね。リエさんが私にしてきた事を考えたら。

アト

課長が不当にリエさんの肩を持っている事も我慢なりません。

リエ

お願い！もうケーキ持ってきてとか言わないから。

リエ

仕事だってこれから真面目に自分でやるから！

アト

それは人事部に人に言ってください。

〜後日談〜

アト

リエさんが私に仕事を押し付けていた事、

アト

課長はそれを諌めない事は上層部にも伝わりました。

アト

さらには、私への不当な異動もパワハラと認められました。

アト

課長は降格した後、遠方へ左遷。

アト

家族にも呆れられ、定年まで単身赴任になるとか。

アト

リエさんは勤務態度や業務実績が著しく劣悪と判断され、

アト

課長とは違う遠方の支店に異動しました。

アト

監視の元、クビにならないように必死で働いているそうです。

アト

さらにおしゃれなカフェなんて全くない地域なので、

アト

日に日に元気がなくなっているみたいです。

アト

私はというと、元の部署には戻らず、遠井支店に残っています。

アト

みんないい人達ばかりなので、時には助けてもらいながら

アト

毎日のびのびと自分の仕事ができています。

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結城　真矢

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