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めためたおもしろそう
侑李
雫
高校に入って一年が過ぎた。 今日も代わり映えのない正門までの坂道。
侑李
そう言う侑李(ゆうり)の言葉に
雫
と、少し子どもじみた崩した口調で応えて “変わらない今日”を始める。
私の隣に来た侑李を横目で見ると、 夏の日差しが透き通る白い肌に キラキラと反射していた。
スッと通った鼻筋、 少し猫目な瞳に綺麗に伸びた睫毛、 サラサラと音が鳴るようになびく黒い髪、 それら全てが美しい横顔を 創り出していた。
侑李
侑李に声を掛けられて いつもの“友達スイッチ”を入れる。
雫
そう言いながら視線を前に戻す。
侑李
雫
語尾がやけに寂しげに聞こえて 思わず振り向いてしまう。
侑李
侑李は思い出したように 日焼け止めクリームをカバンから取り出し それを腕や首に塗りだした。
その侑李の姿を通り過ぎるみんなが 横目で見ているのを私は知っている。 侑李は誰もが振り返るほどに、 整ったスタイルと容姿だった。
そんな特別な存在の侑李と私が 肩を並べて歩けているのは 小学校が同じだったから。
たった3年間、 私が親の事情で引越しをするまでの間 私と侑李は友達だった。
それから7年後 高校の入学式の日、侑李と私は再会した。
あの日、この坂道で 後ろから呼び止められて振り返ると
舞い散る桜より華やかな侑李がいたことを 昨日のことのように鮮明に覚えている。
侑李
記憶を読み起こしている途中、 侑李の声で“今”に意識が戻る。
雫
侑李
雫
侑李
そう言って、いたずらっ子の様な笑顔で 顔を近づけてくる侑李の肩を 思わず力任せに押して引き離す。
雫
侑李
得意気な表情をして言う侑李が 可愛かった。
誰もが羨むほどに綺麗な侑李が、 「一番よく知っている人」として 名前を挙げてくれるのが 私だということが、誇らしく嬉しくて…
そして何よりも…
【好きな人】の隣で笑っていられること それが、私の幸せだった。
自分の気持ちに気が付いたのは 高校一年の冬だった。
侑李が傍に来ると 胸がトクトクと音を鳴らすのは その美しさからの 憧れの反応だと思っていた。
だけど、あの雪の降る夜
侑李
と笑って私に報告する侑李を見たとき 私の中の何かが崩れていく音が聞こえた。
降り続ける水を含んだ雪が 地面にグチャッと落ちる音が聞こえる様に 景色が淀んでいく感覚。
雫
その言葉を伝えるのに 違和感を与えるほどの間を作ってしまったことを、今となっては後悔している。
あの瞬間、 私はこれ以上ない最悪のタイミングで
自分の「本当の気持ち」に 気づいてしまったのだ。