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製菓実習室には, もう二人しかいなかった。 片付けの音だけが, やけに大きく響く。
康平はシンクで手を洗いながら, 何気ない声で言った。
康平
名前を呼ばれて, 蓮音の手が一瞬止まる
蓮音
康平
振り返らずに続ける。
康平
蓮音
康平
その言い方は,軽い。 褒めるつもりで, 何の含みもなく。
蓮音は 視線を落としたまま, 答えない。
康平
蓮音
康平
タオルで手を拭きながら, 康平はようやく振り向く
康平
その一言は, 心配から出た, 完全な善意だった。
蓮音の喉が,かすかに鳴る。
蓮音
康平
蓮音
康平
康平は一瞬きょとんとしてから, 笑った。
康平
蓮音
康平
その瞬間。 蓮音の胸の奥で, 何かが,音を立てて崩れた。
蓮音
蓮音
蓮音は ゆっくり顔を上げる。
蓮音
声が,わずかに震える。
蓮音
康平は すぐに答えられなかった。
康平
言葉を探す沈黙。
康平
蓮音
康平
そのどれもが, 少しずつズレている 核心に触れていないのに, 表面だけをなぞられている
蓮音
康平
蓮音
康平
康平は, 本当に分かっていない 顔をしている。
その顔を見て, 蓮音は はっきり 理解してしまった。
蓮音
蓮音
蓮音
蓮音は一歩だけ後ろに下がる。
康平
呼び止める声は, さっきよりも少し近い。
蓮音は答えない。
答えたら── もう戻れない言葉が, 喉まで来ている。
蓮音
蓮音
それを言えば, 康平は,きっと止まる。 でも同時に, もう今までの距離には 戻れない。 蓮音は視線を逸らしたまま, 低い声で言った。
蓮音
康平
康平は引き止めなかった。 それもまた,善意だった。
蓮音は出口に向かいながら思う。
蓮音
まだ触れていない。
名前だって, 完全には越えていない。
それでも。
蓮音
蓮音
ドアが閉まる音が, 静かに,決定音のように響いた。