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音声は止まった
野嶋隆
新海拓馬
これが 神崎隼也の遺書の全容らしかった
事件の動機や経緯が語られ 事件の詳細は省くと言っていた
新城綾香の存在を知っている今 不信感を覚えないわけがなかった
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
野嶋隆
新海拓馬
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
新海拓馬
野嶋隆
母の仇……
一度も顔を見たことのない母親
この仇を討つために 神崎は橘一家に復讐したのだろうか
それは
母という偶像を創り上げ 自身に対する境遇への不満や怒りを 橘一家というまぼろしにぶつけたのかもしれぬ
いずれにしろ 目的は違っていても想いは同じだ
しばらく 互いに口が利けなかった
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
新海拓馬
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
それから間もなく警察が到着し 私は事情聴取を受けた
新海の言った通り 警察は事件を早く解決したいようで
神崎隼也という青年による殺人劇
それが事の真相だと言うような 口振りであった
私は真実を話したが その真実はやがて虚構に塗り替わる
怪訝な眼で私と新海を見て
事件のショックは大きいですなぁ と、まるで信じてくれなかった
相手がそうだと判断すれば もうそれまでだった
こうして 真実は創られた
それから1週間が経ち
私は退院した
新海くんは 未だに入院しているが
あの様子だと もう時期に退院できるだろう
彼は退院してからも 高島詩乃としての私に興味があるから
これからも交流を続けろと、 憎まれ口を叩いていたくらいだ
そんな彼に別れを告げ
私は家に帰った
妻と娘夫婦が大慌てで駆け寄り あれこれと心配された
私は大丈夫だと言う旨を伝え 孫の姿を探した
すると 孫も今帰ってきたようで 私を見た途端に大泣きをした
私はこの時
初めて 生き残ったのだという実感が湧いた
日常の幸せを噛み締め もう二度と、この胸にいる孫を離さないと決めた
……終わった
全てが終わったのだ
もう 二度とマーダーゲームも起こらない
あの惨劇は 日々を生きる上で必要ない
なら 忘れるべきか
………
真実は追い求めるべきか
………
終わった?
本当に終わったと言えるのか
私は……
野島隆は空を見上げた
…………
空に浮かんでいたのは ほの白い満月だった
その姿を眺めていると 自身が囚われてしまうのではないか
そんな妄想が働き 思わず目を逸らしてしまった
目下に転じると 黒黒と澱んだ海があった
その姿を眺めていると 自身が囚われてしまうのではないか
そんな妄想が働き 思わず目を逸らしてしまった
結局 満月と海を挟んだ中途半端な地点に 視線を這わせた
私は、何故なんだろうと
問うてみた
新城綾香
…………
答えはなかった
白と黒 対極の物の中に共通の恐怖は存在する
白くても時には人を殺す 黒くても時には人を殺す
絶対はない
……それは
やはり 私の認識によるものでしかない
相対的に絶対は生まれる 絶対のみが一人歩きすることはない
だから
イメージなんてものは 人によって変わる
私あっての世界であり 世界あっての私
この世界は私が創る
真実は私が創るものだ
そうでしょう?
新城綾香
…………
答えはなかった
微かに海が砂を攫う音がする
それだけで あとは何もない
この音があってこその 静寂、か
静寂があってこその 海の囁き、か
私は目を瞑った
しかし 光景は変わらなかった
なら どちらでも良いことだ
私は問うた
新城綾香
…………
「それは、解らないものだからだよ」
答えが返ってきた
私は目を開ける
私の目の前に"探偵"がいた
ふふ
……なんだ
光景は変わっているではないか
新城綾香
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
老いた探偵が私の隣に座った
いま私は 堤防の上に腰掛けている
そこでただ 柄にもなく夜景を望んでいたのだ
…………
………それにしても
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
私は答えなかった
この老人が 何を言いにきたのかは分かっている
きっと
私に自白を促しているのだ
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
私は老人の方に手を伸ばし ポケットを探った
しかし、考えていたものは どこにもなかった
不審そうな眼で老人を見ると
老人は笑いながら言った
野嶋隆
新城綾香
新城綾香
野嶋隆
やれやれ、用心深いな と、老人は言って
ぽつぽつと言葉を紡いだ
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
私は視線を月に戻した
もう 何も怖くなくなっていた
丸々した月を睨みながら 言葉を出した
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
私は笑った
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
老人も満月を見ているようだった
横目で見ると 同じようにその衛星を睨んでいる
双眸は厳しかった
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
老人はこちらを向いた
私は視線を月から海へ転じた
すると
今度は 不安の波が押し寄せてしまう
やはり私は 月と海の真中を見ることにした
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
静寂
海の囁きが 煩わしく思えた
しかし私は もう答えを決めている
ずっと前から
新城綾香
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
新城綾香
野嶋隆
懐かしい名前だ
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
私はとうとう 視線を老人に向けた
その双眸は 打って変わり穏やかになっていた
だから 私も穏やかに言の葉を咲かせた
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
新城綾香
野嶋隆
私は老人の言葉も待たず 立ち上がった
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
新城綾香
野嶋隆
そう言って 私は真っ直ぐと歩き出した
コンクリートはコツコツと 小気味好い音をだす
振り返らないと決めていたが 論理に逆らう私がいる
歩みを止めて 後ろを振り返ってみた
もうそこに老人はいない
黒い海も堤防に隠されて見えない
そこにあったのは
ただ ほの白い満月が一つ
空に浮かんでいた