大っ嫌いな知り合いも
大好きな恋人も
大切に育ててくれた両親も
〝みんな同じ人間だ〟
〝みんな等しいんだ〟
当たり前だよね
私だってわかってる
でもさ
〝どんな風に呆気なく死んでしまおうと〟
〝知ったことじゃない〟
〝大好きな人だろうが〟
〝大っ嫌いな人だろうが〟
〝みんな平等だからね〟
こう言われると
疑問になるというよりも
なんというか
腹が立つ
だっておかしいよ
大っ嫌いなあの人よりも
優しくて大好きなあの人の方が
守られていてほしいし
守ってあげたい
そう思ってしまうのは
おかしいのだろうか?
少なくとも
同じ事を考えていたのは
私だけじゃないようだ
だって
今は
嫌いな人を
〝消せる時代〟だから
克也
克也
克也
凛
凛
克也
克也
凛
克也
凛
凛
〝いい人が生きやすい社会を〟
たしかそんなことを言っていた
役所に行って
抹消申請を出して
申請が通れば
その人を〝抹消〟できる
国やニュースはそういう風にしか言わない
〝抹消〟
響きは気味悪いけれど
考え方は嫌いじゃなかった
世の中の理不尽さは
身に染みていたから
«翌日 6時19分»
朝起きるとリビングで
身支度を済ませたお父さんが、テレビを見ながらコーヒーを啜っていた
お父さん
お父さん
凛
凛
お父さん
お父さん
凛
お父さんは大好き
私が小さい頃にお母さんが亡くなってから
1人で私を今まで育ててくれた
大手企業の役員で
一生懸命に働くお父さんは
本当にかっこいい
私は支度を済ませると
椅子に座って
お父さんの焼いてくれた少し焦げたパンをかじる
お父さん
凛
お父さん
お父さんがテレビに向けて人差し指をちょいちょいと指す
視線を向けると
どこかの市役所の入り口が映し出されていた
でも
市役所とは思えないほど
多くの人でごった返している
しかも右上には〝生中継〟と書いてあった
凛
凛
お父さん
凛
凛
お父さん
お父さん
お父さん
お父さんは眉間にシワを寄せながら
胸に刺さるような少し怖い声でそう言った
お父さん
お父さん
凛
凛
お父さん
でもね、お父さん
お父さんみたいな〝大好きな人〟を守るには
抹消申請は必要だよ
絶対に
凛
凛
会社に着くと
先に来ていた同僚達数人が小声で話し合っていた
凛
香奈美
香奈美
香奈美が〝元〟部長のデスクから1枚の紙を持ってきた
凛
«抹消申請通知書»
[申請者]
杉元 明
[抹消対象者]
金本 憲一
上記の者を執行対象と認める
香奈美
凛
申請した新人の杉元くんは
部長にいつも怒られていた
怒鳴り
突き飛ばし
きつい罵声も浴びせていたっけ
きっと私達の見えていないところで
もっと酷いパワハラも起きていたのだろう
部長にほんの少しだけ同情しつつも
〝自業自得だな〟
と感じてしまう私がいた
香奈美
香奈美
香奈美
凛
凛
香奈美
香奈美
凛
香奈美
«21時46分»
凛
お父さん
お父さん
フライパンをまるで料理人のように振って
良い香りのするチャーハンを作っていた
パラパラと周りに少しこぼれていたけど
こんなでも意外と料理は美味しい
お父さん
凛
お父さん
お父さん
凛
凛
凛
お父さん
お父さん
お父さん
お父さん
凛
凛
お父さん
お父さん
凛
お父さん
凛
お父さん
凛
凛
凛
お父さん
お父さん
お父さん
凛
お父さん
«同じ週の日曜日»
凛
克也
克也
凛
凛
克也
克也
凛
凛
克也
克也
凛
克也
凛
克也
克也
克也
凛
克也
«翌月の10日»
凛
お父さん
いつもの様に
お父さんはコーヒーを啜りながらニュースを見ていた
お父さん
凛
お父さん
お父さん
お父さん
凛
お父さん
お父さん
凛
凛
凛
お父さん
お父さん
お父さん
凛
〝心のない人間が増えてるよ〟
その時は
お父さんの言っていたこの事が
あまりよく分かっていなかった
«21時50分»
凛
凛
凛
玄関のドアノブが回らない
凛
カコンッ
郵便受けをみると
広告や書類が数枚入っている
凛
手持ちの鍵で家に入り
広告や書類をリビングの机に放り投げた
凛
凛
凛
凛
何故かチゲ鍋が出来た
凛
凛
お父さんの好物だし
«0時15分»
凛
凛
リビングの机にうなだれながら
冷めた鍋を見つめる
しばらくしたら
そんな事をするのにも飽きてしまった
視線を少しずらすと
放り投げた広告たちに目が止まる
いつもなら軽く読んで捨ててしまうけれど
あまりにもやることがなかったので、細かいところまでしっかりと読んだ
まぁそれでも
いつかは終わってしまう訳で
最後の一枚に来てしまった
凛
凛
凛
その封筒は意外にもしっかりとしていて
大きさもA3程あって大きかった
ビリビリと上だけを破き
中の書類を確認する
«抹消申請通知書»
凛
[申請者]
浜村 克也
凛
[抹消対象者]
吉田 辰明
凛
凛
凛
上記の者を執行対象と認める
凛
震える手に必死に言うことを聞かせて
克也に電話をかける
凛
克也
克也
凛
凛
克也
凛
克也
凛
克也
凛
凛
凛
克也
克也
克也
凛
通話
02:24
克也
私の大好きな人の
嫌いな人は
私の大好きな人だった
好きってなんだろ
嫌いってなんだっけ
もう分かんないや
そんな事
もうどうでもいい
«抹消申請通知書»
[申請者]
吉田 凛
[抹消対象者]
浜村 克也
上記の者を...