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夏都side
赤暇なつ
月曜の午前中からサッカーの 授業があるだけでも不運なのに この強烈な日差しと暑さだ。
明け方近くまでDVDを見ていた 俺の意識は既に遠のきつつあった。
赤暇なつ
赤暇なつ
頭では分かっているのだが 再生ボタンを押したら最後。
エンドロールを見るまでテレビの前を 離れる事が出来ないのがお約束だ。
特に昨日の夜は大好きな 監督の作品ばっかりだったので 食い入るように観てしまった。
長続きするたった1つの愛は 『片想い』
劇中で登場人物がこの台詞を聞くのは かなり重苦しいシーンだった。
今の俺とは似ても似つかない 状態だったけど不思議とストンと 胸に落ちてきてそのまま 心の隅に居座っている。
赤暇なつ
我ながら良い感じに オチをつけた気がする。
暑さと疲労を忘れ俺が満足気に 頷いているとスパンッとやけに 小気味良い音がして背後から 背中を叩かれた。
紫龍いるま
俺が振り返るまでなく 華麗なツッコミを お見舞いしてくれた相手が叫んだ。
声だけで分かる 紫龍 威榴真 だ。
春緑すち
その隣で宥める 春緑 澄絺 の声が続き 俺はようやく何が 起きたのかを理解した。
赤暇なつ
ゴールを見渡すと みんなが棒立ちになって 試合が中断してしまっている。
既にボールはセンターサークルまで 戻っておりゴールしてから時間が 経っているのが見て取れた。
赤暇なつ
慌てて得点板を捲り 俺はコートに向かって大声で叫ぶ。
赤暇なつ
m o b .
m o b .
クラスメイトが ニカッと笑って見せる。
赤暇なつ
m o b .
赤暇なつ
情けなく眉を下げる俺の姿に ドッと笑いが起こる。
クラスメイトのフォローのお陰で 嫌な空気は消えてくれたようだ。
ほっと息をつくと威榴真が 鋭い視線を向けて口を開いた。
紫龍いるま
赤暇なつ
紫龍いるま
赤暇なつ
威榴真の気迫に圧倒され 俺は思わず視線を彷徨わせる。
心配してくれているのは 百も承知なのだが弱ってる時に 威榴真の「正論」を聞くと 責められてるように錯覚してしまう。
口調にも視線にも圧倒的な 自信が溢れているように 感じられるからだろうか。
春緑すち
春緑すち
ネタにするように澄絺が小さく笑うと 少しだけ威榴真の瞳も和らいだ。
紫龍いるま
春緑すち
春緑すち
紫龍いるま
想像して可笑しくなったのか とうとう威榴真が笑い出した。
赤暇なつ
あっという間に話題が変わり 3人の間に流れる空気も軽くなった。
澄絺はその場の状況を読むのが上手く 人と人のバランスをとるのも お手の物だ。
俺、威榴真、澄絺、蘭の 幼馴染4人組の中でも クッションのような存在だった。
赤暇なつ
俺は深呼吸をし、 幼馴染2人を真っ直ぐ見る。
赤暇なつ
威榴真も澄絺もまだ何か 言いたげな表情だったが 俺は気付かないふりをして続ける。
赤暇なつ
赤暇なつ
紫龍いるま
春緑すち
俺の言葉を信頼してくれている 2人に力強く頷き返し 彼らをピッチへと送りだした。
赤暇なつ
桃瀬らん
風に乗って 桃瀬 蘭 の 声が聞こえてきた。
視線を送るとテニスコートの端で 談笑する3人組の姿を捉えた。
恋醒と 桜黄 美琴 は ラケットの素振りをしているが 蘭は完全に話に夢中になっている。
赤暇なつ
少し肩に触れている柔らかな髪に 透き通るような白い肌。
明るい笑い声と いつもキラキラ輝いている瞳が 俺の心を掴んで放さなかった。
いや、俺に限ったことではない。
雨乃 恋醒は、六奏高校の アイドル的存在なのだ。
人見知りする所があるようだが つっけんどんな態度を取る事はない。
クラスメイトで部活仲間でもある 蘭達のように親しくなった相手には 向日葵のような笑顔を見せる。
可愛いのに気取った所がないのも 人気の理由だろう。
しかも恋醒は絵画コンクールの 賞レースでは常連と呼ばれていた。
芸術的な才能があるからか 独特な感性の持ち主でもあるようだ。
所謂『不思議ちゃん』枠に 入れられることもあるが あの笑顔をこっそり 遠巻きに拝む男子は後を絶たない。
赤暇なつ