速水泰輝
兄貴たちって、なんで小峠の兄貴だけは、下の名前で呼ぶんだろうね?

モブ舎弟1
そりゃあ、小峠の兄貴は、兄貴たちと一緒に行動する事が多いからな

モブ舎弟2
えっ?ただ単に、毛色の違うから気に入ってるんじゃねぇーの?兄貴たちって、如何にも同族嫌悪しそうなタイプじゃん

速水泰輝
その中でも、南雲の兄貴とは親しげですよね

モブ舎弟1
そりゃあ、そーだろうよ

速水泰輝
?

何も分かってなさそうな速水の様子に、二人はため息をつく。
モブ舎弟1
はぁ~。南雲の兄貴、女には親しみを込めて、下の名前で呼ぶって、言ってなかったか?

速水泰輝
そういえば言ってました

モブ舎弟2
つまりそういうことだ

速水泰輝
?

モブ舎弟1
速水は本当に鈍いのな~。だ~か~ら、小峠の兄貴は南雲の兄貴のオンナって事だよ

速水泰輝
なる程って、えぇぇぇーーーー!

モブ舎弟2
どんだけ驚いてんだよ

モブ舎弟1
南雲の兄貴と小峠の兄貴が付き合ってるのって、周知の事実じゃん。知らなかったの、速水お前くらいだぜ?

速水泰輝
だって、小峠の兄貴がいても南雲の兄貴は女の人ナンパしてるじゃないですか!

モブ舎弟1
あぁ、あれな。小峠の兄貴の気を引くためだろ。毎回、わざわざ小峠の兄貴に報告しては、小峠の兄貴の反応確かめてるもんな

モブ舎弟2
結局、やきもち焼いて貰えず、毎回徒労に終わんのに、南雲の兄貴も本当に懲りない人だよな~

モブ舎弟1
てか、南雲の兄貴は分かりやすい行動とってんのに、今の今まで気づかないお前に、こっちがびっくりだわ

速水泰輝
だって、二人のそんな素振り見たことないもん!二人の勘違いじゃないの?

人目を憚らず、隙あらばイチャイチャしているのに、速水は未だに目撃したことがないらしい。だから、二人が自分を謀っているのでは?と疑っているようだ。
モブ舎弟1
ところで、小峠の兄貴、今日で何徹目だっけ?

モブ舎弟2
5徹目くらいじゃねぇ?

モブ舎弟1
そろそろだな。速水ついてこい。あれ見れば、嫌でも納得出来っから

縁側に続く通路の角で三人は立ち止まり、縁側の様子を伺う。縁側では飯豊、小峠、南雲が休憩がてら、日光浴を楽しんでいた。
連日の寝不足と麗らかな昼下がりの陽気につられて、小峠はこっくりこっくりと船を漕ぎはじめる。何とか踏みとどまろうとするも、とうとう睡魔に負けて、隣に座る飯豊に凭れかかりそうになる。飯豊に凭れかかる寸前、南雲が小峠の肩を抱き、自分の方へ引き寄せる。
南雲梗平
華太、お前頑張り過ぎ。ほら、眠いなら寝とけ。何かあったら起こすからさ

小峠華太
そうせて貰います

小峠華太
梗平さんの匂い安心する

南雲梗平
なぁに、嬉しいこと言ってくれてんの、華太

小峠華太
もう少しだけ、肩貸して下さい

南雲梗平
何時間だって構わねぇよ。だって、ここは華太の専用席だからな

小峠華太
じゃあ、俺の膝は梗平さんの指定席ですね

南雲梗平
へぇ~、今日はえらく口説いてくるじゃん?めっずらしー

小峠華太
だって、俺は梗平さんのオンナですから

そう言うと小峠は完全に眠りに落ちてしまった。肩にかかる重みに、南雲は幸せそうに笑んだ。二人の間に甘い空気が漂っている。
そんな甘い雰囲気を醸し出す二人の隣で、飯豊は必死に空気と化そうと努力していた。
飯豊朔太郎
(飯豊朔太郎、お前はやれば出来る!俺は何も見てない、聞こえていない、そう、俺は空気と化すんだ)

モブ舎弟1
なっ、言った通りだったろ?

モブ舎弟2
真相が分かったところで、俺たちはさっさと退散するぞ

速水泰輝
え?書類整理は終わってるし、そんなに急がなくてもいいんじゃない?それに飯豊君、助けて欲しそうに、こっち見てるよ

モブ舎弟1
アホ!昔から先人のありがたいお言葉があんだろ?人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねって、な。それに飯豊は自業自得だし、自分でなんとかするだろ

確かに馬に蹴られるのはごめん被る。かといって、あの胃もたれしそうな甘い空間に入るのは、もっときつい。なら、さっさと退散する方が吉。
速水泰輝
(ごめんね、飯豊君)

心の中で手を合わせ、二人の邪魔をしないよう、側を離れた。
南雲梗平
女は可愛い。だけど、俺のオンナはどんな女よりも魅力的だ。そうだろ?だって、この俺を魅了してやまないのだから
