そして月日は流れ、
芥川が業績が認められ、幹部に昇級した。
中島敦
芥川龍之介
芥川のそっけない返事でも、敦は返してくれるだけで嬉しかった。
そして、僕は決意した。
もう、“元の世界に帰ろう”と。
ここが僕の知る世界でないことは、
敦を拾う前からわかっていた。
だが、この結末を知ってしまっていたから。
もう誰一人として殺してはならぬと
強く決心したから。
ここまで“先生”としての役割を果たしてきた。
だが、芥川が昇級した今。
僕の手助けなどはいらない。
ここまで育てれば、敦は、敦以外の人たちも、無残に死ぬこともない。
芥川も、敦のことは余程のことがない限り、
殺すことはないだろう。
そうやって、育ててきたのだ。
もう思い残すことも、償うべき罪も、ないだろう。
……敦には、黙っていよう。
あの子には、もうずいぶんの情が移ってしまった。
別れを惜しむ姿を見たら、
もう帰れなくなってしまう。
それだけは、避けなければならない。
あとは、最後に芥川に釘を刺すのみ。
芥川龍之介
敦の師
敦の師
芥川龍之介
敦の師
僕は芥川に近づく。
そして、耳元で
敦の師
低い声で叱るようにささやいた。
敦の師
敦の師
敦の師
敦の師
敦の師
敦の師
敦の師
敦の師
敦の師
敦の師
敦の師
芥川は、深くうなずいた。
芥川龍之介
芥川龍之介
僕は深く笑う。
芥川は気がついていた。
僕の存在に。
Beast 中島敦
芥川龍之介
Beast 中島敦
芥川龍之介
僕は扉を手をかける。
ここを出れば、もとの、もとの世界へ戻る。
……長かった。長い日々だった。
首領を、……太宰さんをまた死なせたくないがあまりに
いろいろと気を配った。
それがようやく実を結んだ。
悔いはない。
満足しきっている。
……さあ、帰ろう。
僕は扉を開ける。
開けた扉の中で、僕の世界の芥川が不機嫌そうな顔で突っ立っていた。
番外編
及び、優しいあなたの殺し方
完