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華美な彫り物を施された高級な調度品

固く雨戸が閉められ、外を伺うことの叶わない窓、そして私には開けられないドア

そして一人だけとの連絡のみが許されたスマホが一つ。

それが私の世界の全て。

 

でも、何も不自由なんかしていないの

 

必要なものはカレに頼んで

 

許可を得ることができたら好きなものを買ってくれるし

 

 

…できた!

 

刺繍針も裁縫針も「君の手に傷がついたら大変だ」って持たせてくれない中で

 

OKが出た数少ない趣味の一つ、ジグソーパズル

 

カレが帰ってきたら額縁に入れてもらおう

 

…あ!カレからLIMEだ!

カレ

今から帰るね

カレ

今日はロイヤルキングのハンバーグセットを買って帰るよ

カレ

カレ

そして今日はメイドがいいな

 

いつもありがとう!

 

準備して待ってるね!

 

メイド服は確か…

記憶を頼りにベット下の収納を探る。

 

あったあった!

 

これを着てカレのお仕事の疲れを癒してあげよう

いつも連絡が来て小一時間でカレは帰ってくる。

その間に家事をしておこう。

 

…と言っても掃除はロボット掃除機がやってくれるし

 

お皿洗い、料理も刃物や破片が危ないからってさせてもらえないんだよね

 

乾燥機に入ってる出来上がった洗濯物でも畳むか…

カレ

ただいまナオ

 

おかえりなさい!

カレ

…うん、言った通りの服を着てくれてるね

カレの大きな手が私の頭を撫でる。

カレ

…ナオ。

 

はーい!

留守中の私の行動をチェックする為に、手を広げてスマホを要求する。

これも二人での暮らしのルールの一つ。

カレ

カレ

うん、他のアプリを入れた痕跡もないし、電話の履歴もないね

カレ

今日もいい子だった

カレ

さ、ご飯食べよう

カレとの生活には他にも決まりがある。

 

 

…お肉も良いけれど、お寿司とかも食べたいな

カレ

うん、いいよ!

カレ

明日僕がテイクアウトしてこよう

 

毎日買ってくるのも手間だろうから

 

たまには出前でも…

カレ

ナオ。

カレ

出前はダメだよ

カレ

ユーバーももちろん。

カレ

カレ

世間は物騒だからね。

カレ

知らない人間をこの家に入れるなんてあっちゃいけない

普段温かい光を湛えているカレの目が、スッと冷たくなる。

 

…ごめんなさい

カレ

わかればいいんだ

カレ

さ、仲直りの為にもドラマを観よう?

 

…ええ。

二人で見るドラマや映画、本にもルールがある。

二人で見る前に一旦カレが目を通し、暴力表現などがある場合カレが見せてくれないのだ。

一度カレに断られた作品を見せてはくれないかと聞いたところ…

「君には相応しくない」「僕の選ぶ作品の中の人たちのように優しい人になってほしい」ときっぱりと断られた。

カレ

…僕、先にお風呂に入ってくるから

カレ

ナオはそのままドラマ見ててね

 

うん、わかった

カレを送り出して、日中は帰りを待ちながら時間を潰し

帰ってきたら買ってきてくれた夕飯を食べて

ドラマを観たら順番にお風呂に入る。

寝た後にベッドに座り、乱れた髪をカレが梳くのが二人の暮らしのルーティーンだ。

カレ

…今日もいい匂いだ

くし片手にカレが買ってきたシャンプーの香りのする髪を掬い、自分の鼻先に持っていく。

カレ

世俗を、穢れを知らない、僕だけの真っ白な天使

カレ

ずっと僕が守ってあげるからね

髪の香りを堪能し終え、後ろからハグした後、また髪を梳き出した。

二人で暮らす前の私は、それはそれは悪い環境の元に晒されていた

…と、カレが言う。

私には以前の記憶が全く無いのだ。

 

(…でも、カレが言うことなんだから嘘ではないのだろう)

 

(実はカレが外で何をやっているか、どんな職業なのかも知らない)

 

(聞いても「二人の世界には関係ない事だ」といつもはぐらかされる)

カレ

…さあ、綺麗になった

カレ

明日も早い、もう寝よう?

 

(…でも、いいの。)

 

(カレがいないと私は生きていけない)

 

(この何も変わらない日々に守ってもらえるなら…)

 

(カレの言う事ならなんでも聞ける)

カレの腕の中、目をつぶって二人で夢の中へと溶け込んでいった。

次の日、目を覚ますとカレはもう仕事に出かけた後だった。

 

ふあ…

 

今日は寝坊しちゃったな

 

とは言っても寝坊しようが私が気にすることは無いんだけど

ガチャガチャガチャ!

布団で微睡んでいた私の耳に、ドアをこじ開ける様な音が飛び込んできた。

 

ひっ…!?

カレが増設した部屋を塞ぐ扉の鍵は外付けで、それからの侵入を防ぐ手段などない。

 

…私の身は、自分で守らないと…!

でも、包丁はおろかハサミですらカレの管理下にあり、私はその場所すら知らない。

 

どうしよう、どうしよう…!

色々考えたけれど、結局布団を被って震える事しか私には出来なかった。

侵入者

…見つけたぞ!

抵抗虚しく、被った布を引き剥がされ、不審者に両肩を掴まれた。

 

やめて、やめて!

侵入者

ああ、こんな姿にさせられて…

 

嫌あっ!!

最後の抵抗で男の顔を引っ掻く。

侵入者

痛た、止めろ!

侵入者

仕方ない…

侵入者

そらっ!

刺激物の臭いのするハンカチを鼻と口に押し当てられる。

 

…むーー!むーーー!!

 

カレ

今日は少し遅くなる

カレ

ナオが食べたがってた寿司、すし天国でテイクアウトして帰るから

カレ

今日はチャイナがいいな

カレ

ナオはわさび食べられたっけ?

カレ

いま店だから返事早く頼むよ

カレ

ナオ?

 

 

やっぱり今日は中華がいい

カレ

カレ

わがままだなあナオは

カレ

でもたまにはいいか

カレ

買ってくるからいい子にしててね

【二人の家の前】

カレ

本当、今日はどうしたんだ?

カレ

すし天国といつもの中華料理店、どれだけ離れてると思ってるんだか…

カレ

とっぷり日が暮れちゃったじゃないか

カレ

…まあいい、今日はたっぷりサービスしてもらおう

夜を期待して玄関の鍵を刺す。

カレ

カレ

…あれ?

カレ

開いてる!!?

カレ

ナオ!!

アパートを契約した後に、自分が付けた外付け鍵のドアも破られているのを確認し

異常な事態が起こっていることを確信した。

カレ

ナオ、ナオ!

カレ

ちゃんといるか!?

 

カレ

ナオ!!

ナオはその美しい髪を無残にもばっさり切られ、ベッドに座って俯いていた。

カレ

どうしたんだ、誰にやられたんだ?

 

カレ

黙ってちゃわからないだろう

カレ

やった奴はどこにいるんだ!?

 

…ふふ

ナオが不敵な笑みを浮かべながら顔を上げる。

カレ

…ナオ?

 

こう言ったらわかる?

 

「全部思い出した」

最も恐れていたセリフをナオの口から聞いた直後、後ろから何者かから羽交い締めにされた。

…時は遡り、「ナオ」が目を覚ました後。

 

申し訳ありません、急を要したので…

 

…いいわ、あなたがここに新聞のスクラップ記事のファイルを持って来てくれたおかげで

 

全部思い出せたんだから

 

…私は連続殺人犯、あいつは私が捕まった後に、精神鑑定を担当してた精神科医

 

私を見て劣情を抑えられなかったあいつは、私にこう持ちかけた

 

「死刑も精神病棟への入院も嫌だったら、僕の人形にならないか?」って

 

好きに生きられず、閉じ込められるなんて嫌だったけど

 

なんだろ、お茶に薬でも混ぜられてたのか眠らされてから連れ出されて

 

理想の人形にしておくために、暗示をかけて記憶を無くして

 

思い出すきっかけになりうるものを、周りから全部排除した

 

「ぬるま湯みたいに優しい優しい世界」に私を囲っていた

 

とんだ職権濫用よね

 

従順なのをいい事に、着せ替え人形みたいに私を飾り立てて…

 

おえ、この髪を見るだけで吐き気がしちゃう

 

…豪邸に住んでるとばかり思ってたけれど、たった1Kぽっちの狭い安アパートの内装をゴテゴテ飾ってただけなんて

 

そんなケチな精神性にもうんざり。

 

…そうだ、いい事思いついた!

 

あなた、鍵破りに持ってきた工具の中にヤスリってある?

カレ

んんーー!んーーー!

 

貴族の真似事みたいに、安アパートも殺人鬼も飾り立てて気持ち悪い男

 

せっかくだからあんたの望む様な殺し方をしてあげる。

 

…こっちに連れてきて。

彼女の指示通りに、ガムテープで口を塞いだ医者を窓際に連れて行く。

 

お貴族さまを殺すなら…

 

やっぱり斬首よね

 

ギロチンを作るのは難しかったけど、流石に首の骨くらいは折れてくれるでしょ

 

存分に鳴いて愉しませてよ?

カレ

…んーーんーーー!!

 

はい、抑えといて

雨戸を開けた窓に、顔がよく見える様仰向けに首を固定する。

カレ

んんんーーー!!!

涙を湛えて必死に首を振り、抵抗する変態。

 

いい?合図に合わせて雨戸を降ろすの

 

…「首を刎ねよ!!」

声に合わせ、ヤスリで尖らせた雨戸を力一杯に奴の首目掛けて降ろした。

 

あっはっは、燃えろ燃えろぉ!

アパートに火がつけられ、その炎が夜の闇を煌々と照らす。

他の住民が逃げ惑う様子を彼女は、はしゃぎながら離れた茂みから見物していた。

彼女には世の道理は通用しない。

でも、世間から童話に準えて「赤き王女」と名付けられるほどに

彼女の価値観の中で不快だと感じたものには、何倍もの報復をするという破天荒ぶりは

言いたい事を言えず鬱屈した生活を送っている俺らには、とても魅力的に感じられるのだ。

 

…赤き王女、ここはまだ人の目があります

 

ぜひ私達の隠れ家へ。

 

…ふうん?

 

あなた達も私を閉じ込めておくつもりなの?

解放された生活からまた逆戻りになるのか、と言いたげに俺を睨む王女。

 

滅相も御座いません

 

隠れ家にいる人間達は全員が貴女様の信者。

 

外出時も含め、貴女様の生活をサポートさせていただきます。

 

…「我らは赤き王女と共に」。

#TELLER文芸部  あかいとまとさん案

テーマ:束縛 追加お題「カイホウ」

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コメント

7

ユーザー

ハートの女王か…

ユーザー

木野さん、はじめまして🙇‍♂️✨ いいねありがとうございます! 話の展開が巧みに作られていて、細かい所まで書かれていて、とても尊敬です٩( >̶̥̥̥᷄д<̶̥̥̥᷅ )۶ フォロー失礼しますね✨

ユーザー

久しぶりにテラー覗いて素晴らしきものを見ました! 予想不可能な展開、最高です!

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