華美な彫り物を施された高級な調度品
固く雨戸が閉められ、外を伺うことの叶わない窓、そして私には開けられないドア
そして一人だけとの連絡のみが許されたスマホが一つ。
それが私の世界の全て。
カレ
カレ
カレ
カレ
記憶を頼りにベット下の収納を探る。
いつも連絡が来て小一時間でカレは帰ってくる。
その間に家事をしておこう。
カレ
カレ
カレの大きな手が私の頭を撫でる。
カレ
留守中の私の行動をチェックする為に、手を広げてスマホを要求する。
これも二人での暮らしのルールの一つ。
カレ
カレ
カレ
カレ
カレとの生活には他にも決まりがある。
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
普段温かい光を湛えているカレの目が、スッと冷たくなる。
カレ
カレ
二人で見るドラマや映画、本にもルールがある。
二人で見る前に一旦カレが目を通し、暴力表現などがある場合カレが見せてくれないのだ。
一度カレに断られた作品を見せてはくれないかと聞いたところ…
「君には相応しくない」「僕の選ぶ作品の中の人たちのように優しい人になってほしい」ときっぱりと断られた。
カレ
カレ
カレを送り出して、日中は帰りを待ちながら時間を潰し
帰ってきたら買ってきてくれた夕飯を食べて
ドラマを観たら順番にお風呂に入る。
寝た後にベッドに座り、乱れた髪をカレが梳くのが二人の暮らしのルーティーンだ。
カレ
くし片手にカレが買ってきたシャンプーの香りのする髪を掬い、自分の鼻先に持っていく。
カレ
カレ
髪の香りを堪能し終え、後ろからハグした後、また髪を梳き出した。
二人で暮らす前の私は、それはそれは悪い環境の元に晒されていた
…と、カレが言う。
私には以前の記憶が全く無いのだ。
カレ
カレ
カレの腕の中、目をつぶって二人で夢の中へと溶け込んでいった。
次の日、目を覚ますとカレはもう仕事に出かけた後だった。
ガチャガチャガチャ!
布団で微睡んでいた私の耳に、ドアをこじ開ける様な音が飛び込んできた。
カレが増設した部屋を塞ぐ扉の鍵は外付けで、それからの侵入を防ぐ手段などない。
でも、包丁はおろかハサミですらカレの管理下にあり、私はその場所すら知らない。
色々考えたけれど、結局布団を被って震える事しか私には出来なかった。
侵入者
抵抗虚しく、被った布を引き剥がされ、不審者に両肩を掴まれた。
侵入者
最後の抵抗で男の顔を引っ掻く。
侵入者
侵入者
侵入者
刺激物の臭いのするハンカチを鼻と口に押し当てられる。
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
カレ
【二人の家の前】
カレ
カレ
カレ
カレ
夜を期待して玄関の鍵を刺す。
カレ
カレ
カレ
カレ
アパートを契約した後に、自分が付けた外付け鍵のドアも破られているのを確認し
異常な事態が起こっていることを確信した。
カレ
カレ
カレ
ナオはその美しい髪を無残にもばっさり切られ、ベッドに座って俯いていた。
カレ
カレ
カレ
ナオが不敵な笑みを浮かべながら顔を上げる。
カレ
最も恐れていたセリフをナオの口から聞いた直後、後ろから何者かから羽交い締めにされた。
…時は遡り、「ナオ」が目を覚ました後。
カレ
彼女の指示通りに、ガムテープで口を塞いだ医者を窓際に連れて行く。
カレ
雨戸を開けた窓に、顔がよく見える様仰向けに首を固定する。
カレ
涙を湛えて必死に首を振り、抵抗する変態。
声に合わせ、ヤスリで尖らせた雨戸を力一杯に奴の首目掛けて降ろした。
アパートに火がつけられ、その炎が夜の闇を煌々と照らす。
他の住民が逃げ惑う様子を彼女は、はしゃぎながら離れた茂みから見物していた。
彼女には世の道理は通用しない。
でも、世間から童話に準えて「赤き王女」と名付けられるほどに
彼女の価値観の中で不快だと感じたものには、何倍もの報復をするという破天荒ぶりは
言いたい事を言えず鬱屈した生活を送っている俺らには、とても魅力的に感じられるのだ。
解放された生活からまた逆戻りになるのか、と言いたげに俺を睨む王女。
#TELLER文芸部 あかいとまとさん案
テーマ:束縛 追加お題「カイホウ」
コメント
7件
ハートの女王か…
木野さん、はじめまして🙇♂️✨ いいねありがとうございます! 話の展開が巧みに作られていて、細かい所まで書かれていて、とても尊敬です٩( >̶̥̥̥᷄д<̶̥̥̥᷅ )۶ フォロー失礼しますね✨
久しぶりにテラー覗いて素晴らしきものを見ました! 予想不可能な展開、最高です!