女の子の世界

誕生日の灯りが増える度

女の子は現実を知るの

魔法使いは居ない

王子様は現れない

お姫様にはなれない

そして

サンタクロースには 会えないと

小学一年生の誕生日

実の父とは 結婚出来ないと知った

お父さんが 大好きだったから

ずっとずっと そばに居たいと願った

だけど…

その願いは、叶わなかった

お母さんは 何度も何度も謝って

わたしを抱きしめた

小学三年生の誕生日

わたしの隣に、お父さんは居なかった

母と二人でいい

そう思ったのに

小学六年生の時

何となく気づいていた

母に恋人が居ること

10分後

現れたのは

お父さんより少しだけ 若い男の人

その年の誕生日

母の隣には 新しい父が居た…

新しい父は 裕福な人だった

新しい父は 気さくで、優しくて

欲しい物は 何でも買ってくれる

それから2週間後

義父に買ってもらった 制服が届いた

真新しい制服に袖を通した時、感じたの

制服には、不思議な力があるって事に

鏡に映るわたしは

義父の言った通り 美人に見えた

その時、気づいたの

制服には魔法があると

女の子を輝かせる魔法が

義父と母が褒めてくれる

だから、思ったの

大きな姿鏡を部屋に飾り

メイクパレットで 変身する

わたしは、どんどん変わっていった…

ただひとつ残念な事に

この魔法は

同世代の男の子には 効かないみたい

幼なじみの仁が

わたしに振り向く事は 無かった

中学に上がった頃から思うようになった

幼馴染みのナナは

魔法のようにメイクと オシャレを覚えて

どんどん綺麗になっていく

ずっと隣に居たから 知っている

幼馴染みのナナが 綺麗になった事

大人に、なった事…

その時 冬の冷たい風が吹いた

強い風は 制服を身体に押し付ける

まとわりつく布が、ナナの身体の線を露わにした

風に揺れる、艶やかな髪も

甘ったるい香りも

丸みを帯びた身体も全部

女の子、特有のもの

ナナが口を尖らせる

正直、ナナと一緒に居ると息苦しい…

ナナは誕生日が嫌い

クリスマスなのに、サンタが来ないからって

だから 特別な事は何もしない

ナナの誕生日

誕生日の日、なんにも知らないナナは

僕を自宅に招いた

罪悪感で胸がザワザワする

だけど…

この願望を押さえる事は、もう出来ない…

誕生日は嫌いだった

憂うつな事しか 無かったから

だけど、もし…

オーブンのクッキーを 見つめる

黄色の生地は、甘い香りに包まれながら

その身を焦がしてゆく

チンッ

焼きたてのクッキーは

熱くて

柔らかくて

壊れやすい

鉄板をテーブルに置き、冷ますことにした

クッキーが 食べ頃になる前に

仁に飲み物を持って行く

コンコン

自分の部屋なのに、ノックするなんて

変な気分

ガチャ

部屋に入ったわたしは、言葉を失った

姿鏡の前には

わたしの制服を身にまとった、仁が居る…

「やめてよ！」

「これは、わたしの物｣

「これは、わたしの魔法｣

思い出すのは義父の顔

イヤイヤと首を横に振る

「ナナちゃん」

十三回目の誕生日

新しく増えた灯りは

わたしの一番知りたくない本音を浮かび上がらせる

わたし…

新しいお父さんを

好きになってしまったの