テラーノベル
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放課後、誰もいない教室。
夕日が差し込んで、床がオレンジ色に染まっている。
その中に、私と赤くんだけがいた。
彼は机に座ったまま、何も言わずに私を見つめていた。
私は立ち尽くしたまま、なぜか呼吸の仕方を忘れていた。
心の奥が、じわじわと崩れていく感覚。
怖いはずなのに、怖さすら感じなくなってきた。
赤 。
赤 。
赤 。
そう言って、彼が立ち上がり、歩み寄ってくる。
一歩ごとに、私の中の何かが音を立てて割れていく。
赤 。
赤 。
橙 。
泣きそうになるのに、涙は出ない。
叫びたいのに、声が出ない。
赤 。
赤 。
彼の手が、私の頬に触れた瞬間。
ぶつっ。
何かが、音を立てて切れた気がした。
自分の中の何か。
普通でいたかった自分とか、拒絶する力とか、そういうものが。
橙 。
気づけば、私はそう呟いていた。
自分の声なのに、他人のように遠く感じた。
橙 。
彼が嬉しそうに微笑んだ。
まるで、ずっと望んでいた瞬間が叶ったように。
私はその笑顔に、なにも感じなかった。
嫌悪も、恐怖も、怒りも_何一つ。
あるのはただ、酷く静かな絶望と、妙に心地よいあきらめだけ。
壊れていく私の中で、ひとつだけ残った感情があった。
_『これで、愛されるならそれでいい。』
そう思ってしまった自分が、何より一番怖かった。