TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

トレイシー

それは……失礼しました。

申し訳無さそうに少しだけ眉を下げつつ、トレイシーはイソップから距離を取る。

イソップ

………い……いえ……。

其れから丁度良い位置に置かれていた椅子に腰掛けると、彼女は何かを思い付いた様子で息を漏らした。

トレイシー

ならカールさん……貴方、知ってるんですね。

イソップ

えっ、なっ………何を、でしょうか……。

トレイシー

……“恋人の在り方”を。

“げっ”。マスク越しから微かに、苦虫を噛み潰した音が聞こえてくる。

トレイシー

……知らないんです、私……。

希少な反応、人間の動作に久方振りに興味を持ったトレイシーは、顔に陳腐な紅潮を乗せ、再びイソップに近付いた。

イソップ

……い、や………。しり……しり、知りません……。

トレイシー

……では何故、あの様なことを。

イソップ

…………流れ、です。

トレイシー

……流れ?

イソップ

………か、会話の、流れ、です。

イソップ

……レズニックさん……!?

   

今日もゲームなのね……。

   

でも、勝ったら願い事が叶うなの!

何度噛んでも噛みきれないパン。 口に広がらない下手な小麦の味。 私が齧った筈の栄養。

   

はっ、そんなお茶の子再々してて楽しいか?俺は一人でこのゲームに勝利する。

不味い。

   

そんな事言うなんてーー

   

……気にしない方が良いわ。

吐き出したところでゲームは免れない。 迷惑にもなるし、嫌な顔を浮かべられる。

   

相変わらず女は馬鹿らしいな。おいそこの機械男、お前もそう思うだろ?

   

酷いなの!トレイシーは女の子なの!

   

一人称が“僕”の奴が女ァ?笑わせてくれるな、こりゃ傑作だ!

   

……御免なさい、トレイシー。今日はあんまり無理しないで。私達と一緒に行動しましょう。

トレイシー

……ありがとう、先生!でも僕は大丈夫!

ーーさん。

ーーックさん。

イソップ

……レズニックさん?

イソップが己を呼ぶ声に、トレイシーははっと声を上げた。

イソップ

……今、僕に寄り掛かって、いましたが。

それと同時に、冷静な声で衝撃的な事実。トレイシーは皮肉の一つでも言ってやろうと口を開けた。

ーー開けたかった。

トレイシー

………成程。

何人もの死を送って来た者の“体”とはとても思えぬ、“身体”に伝わる確かな温かさ。

それが何故か、唯の気の迷いか、理由は解らぬが

トレイシー

……恋人の在り方を、少し分かった気がします。

何時までも浸かっていたいと思えた。

××××年12月28日

久し振りに誰かを触った。 あんな形(なり)でも、彼女は生者だ。

この作品はいかがでしたか?

73

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚