散らばる漫画に手を伸ばしパラパラと流し見をする隆ちゃん。イケメンが少女漫画を見てるとかもう眼福でしかない。ありがたや。って! 違うでしょ!
「美桜、自分の事始めにオタクって言ってたけど漫画が好きって事だったんだな、勝手に部屋に入ってごめんな。つい叫び声が聞こえたからビックリして」
「うぅ……ごめんなさい。自分で散らかした漫画につまずいただけなの、大きい声出してごめんね……」
手に持っていた漫画をそっと床に置き私の頭を撫でる隆ちゃん。この大きくてスッと長い指、優しい温もりの隆ちゃんの手が大好きだ。
「っつ!? え……?」
おっと、おかしい。さっきまでこの手は私の頭を優しく撫でていたはず。何故このような状況に一瞬でなっているのだ? こ、これはつまり一世を風靡した【壁ドン】ってやつじゃないの!?
いつの間にか私は壁に追いやられ優しい彼の手は壁にドンと突かれ私は隆ちゃんに上から見下ろされている。ニヤリと笑うその笑みと目つきは艶美でゾクリと身体が縮こまる。
まさか自分が生きている人生でイケメンに壁ドンをしてもらえるなんて奇跡。神に手を合わせたい。ありがたや、ありがたや。
「さっきチラ見した漫画に壁ドンシーンがあったから、美桜は好きなのかなぁと思ってやってみたけど、反応見る限りだと……かなり好きだろ?」
「う……好きです」
意地悪な笑顔を浮かべ未だに壁ドン姿勢を崩さない隆ちゃんに、私はもう腰が抜けて床にへたり込んだ。本当に何故こんなイケメン、イケボの素敵男子が私なんかを結婚相手にしてくれたのか謎が深まるばかりだ。
「りゅ、隆ちゃん……」
「ん?」
全身の身体の力が抜けた。耳に響くように低音ボイスで囁かれ、身体中に彼の声が注がれる。「ん?」の一言で骨抜きにされちゃうとかこの先が思いやられるというか、期待で胸溢れるというか、なんというか……
「あの、そろそろ退いてください……死にそうになる」
「あぁ、ごめんごめん」と笑いながら手をパッと退かし、私は壁ドンからやっと解放された。心臓がバクバクと動きすぎて死ぬかと思った。
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