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告白した翌日。
りうらは、いつもより早く目が覚めた。
天井を見つめたまま、しばらく動けない。
胸の奥が、じんわり熱い。
(……昨日)
公園。
夕焼け。
ないちゃんの顔。
「ちゃんと好きって言ってくれたのは、嬉しい」
その言葉が、何度も頭の中で再生される。
「……っ」
布団の中で、小さく丸くなる。
振られた。
それは事実だ。
でも――
(きらわれてない)
それも、確かだった。
りうらは、ゆっくり起き上がった。
⸻
学校では、いつも通りだった。
算数の時間に先生が黒板に書いた問題。
休み時間の鬼ごっこ。
給食の牛乳。
でも、違うのは――りうら自身。
「りうら、今日元気じゃね?」
クラスメイトの男子が聞いてきた。
「べつに」
「なんか、にやにやしてる」
「してない」
即答したけど、否定しきれない。
(だって……)
胸の中に、秘密がある。
誰にも言えない、でも大事なもの。
それだけで、世界が少し違って見えた。
⸻
放課後。
りうらは、昨日と同じ公園に行かなかった。
(……来ない)
そう決めていた。
ないちゃんを困らせたくない。
昨日、ちゃんと答えをもらった。
それなのに、また顔を見たら――
期待してしまうかもしれない。
(それは、だめだ)
りうらは家に帰って、宿題をして、
テレビを見て、夕飯を食べた。
それでも。
カーテン越しに、外の音を聞いてしまう。
自転車のブレーキ。
誰かの笑い声。
(ないちゃん……)
気づけば、考えている。
⸻
一方、そのころ。
ないこは、自分の部屋でベッドに寝転がっていた。
スマホを持ったまま、画面は暗い。
「……はぁ」
大きく息を吐く。
昨日のことが、頭から離れない。
8歳の男の子。
真剣な目。
震える声。
「りうら、ないちゃんが好き」
――普通なら、笑い話だ。
年下の子の、かわいい勘違い。
でも。
(あんな顔で言われたらさ……)
胸の奥が、ちくっと痛む。
「……ずる」
小さくつぶやく。
自分は、ちゃんと断った。
大人として、正しいことを言った。
それなのに。
(嬉しかった、なんて)
そんな感情を持ってしまった自分が、少し怖かった。
⸻
翌日。
玄関を出ると、ちょうど向かいの家のドアが開いた。
「……あ」
りうらと、ないこ。
一瞬、目が合う。
「……おはよ」
ないこが、少しだけ気まずそうに言う。
「……おはようございます」
りうらは、丁寧に頭を下げた。
(……距離)
昨日までと、違う。
話しかけていいのか、
近づいていいのか。
わからない。
ないこは、りうらの様子を見て、少し眉を下げた。
「……りうら」
名前を呼ばれて、胸が跳ねる。
「昨日のこと、引きずってない?」
「……ない」
嘘じゃない。
でも、全部でもない。
「ちゃんと、わかってる」
りうらは言った。
「ないちゃんが、困ることは、しない」
その言葉に、ないこは驚いた顔をした。
「……ほんと、大人びてるよね」
苦笑しながら、頭をぽん、と撫でる。
その一瞬で、
胸の奥が、きゅっと締まる。
(……だめだ)
触れられると、期待してしまう。
「……じゃ」
りうらは、一歩下がった。
「行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
ないこの声は、少しだけ寂しそうだった。
⸻
それから、少しずつ。
りうらは、ないちゃんと距離をとった。
帰り道をずらす。
公園に行かない。
話しかけられても、短く返す。
それは、つらかった。
でも。
(これが、正しい)
そう思っていた。
⸻
数日後。
ないこは、我慢できなくなった。
「……最近、避けられてない?」
友達に言われて、はっとする。
「そんなこと……」
否定しかけて、言葉が止まる。
(……してる)
避けているのは、りうらの方。
でも、その理由は――
「……子どもだよ?」
自分に言い聞かせる。
でも。
(子どもだって、気持ちは本物だった)
その事実が、頭から離れない。
⸻
ある夕方。
ないこは、公園に行った。
あの日と同じ、時間帯。
ブランコは、空いている。
(……いない)
当然だ。
それなのに、胸が少し痛む。
「……ばかだな、あたし」
しゃがんで、砂を指ですくう。
そのとき。
「……ないちゃん?」
聞き覚えのある声。
振り向くと、りうらが立っていた。
ランドセルを背負ったまま、驚いた顔。
「……どうして?」
ないこが聞く。
「……忘れ物」
公園の近くに落としたらしい。
「……そっか」
沈黙。
逃げるべきなのに、
足が動かない。
「……りうら」
ないこは、意を決して言った。
「避けてたでしょ」
りうらは、少しだけ目を伏せた。
「……うん」
「なんで?」
「……ないちゃんが、困るから」
その答えに、胸が詰まる。
「……あたしは」
言葉を探して、少し間を置く。
「困ってない」
りうらが顔を上げる。
「……え」
「大人として、答えは変わらないけど」
しゃがんで、目線を合わせる。
「話さないでいる方が、つらい」
りうらの目が、揺れた。
「……でも」
「好きって言われたからって、距離取られるのは、さみしい」
正直な言葉。
「……だめ?」
りうらは、しばらく考えてから、首を横に振った。
「……だめじゃない」
「じゃ、逃げないで」
ないこの声は、優しかった。
「友達でいよ」
その言葉に、胸がきゅっとなる。
「……うん」
完全には、満たされない。
でも、失うよりずっといい。
⸻
その日から。
少しだけ、元に戻った。
公園で話す。
挨拶をする。
笑う。
でも、前とは違う。
りうらは、ちゃんと線を引いた。
ないこは、ちゃんと大人でいた。
それでも――
「……大きくなったら、また言っていい?」
ある日、りうらが聞いた。
ないこは、一瞬考えてから、笑った。
「そのときは、ちゃんと男として、ね」
「……うん」
その約束は、約束じゃない。
でも、希望だった。
⸻
8歳の恋は、終わらなかった。
形を変えて、
時間の中に、そっと置かれただけ。
りうらは知っている。
この気持ちは、
今すぐ叶わなくても、
無駄じゃないってことを。
いや〜、じれったく書くの大好きです((殴
ささっと告らせろって?
ちょっっっと、厳しいかもですねえ?😏
次回で完結です!