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バタン、と音をたてて、ドアが閉まる。瞬間、思わずといったようにりうらがドアに駆け寄ってノブをつかもうとした、が。
「りうら!……何するつもりや?」
いふの鋭い声がとび手を止める。
「………これは、みんなで決めたことなんだから。気持ちは分かるけど、だめだよ、りうちゃん。」
りうらの肩に手を置いて、ほとけが優しく話しかけた。
「っ!分かってる!分かってるけど、これで終わりなんて……!」
「俺やって嫌や。けど、これが悠くんのためやから…。」
「しょにだ…。」
悠佑が声をかけられた次の日。ないこもまた声をかけられた。もちろん、悠佑のことで。
「悠佑をうちに引き取らせてもらいたい。」
「…は?」
「ライブやテレビ出演、舞台なんかもさせてみたいね。」
「え、ちょっと待ってください。悠佑はうちの大事なメンバーだってことはわかっていますよね?あいつも含めて、俺達いれいすはここまで来たんです。」
「でも、悠佑がアイドルで収まる器ではないことはわかってるでしょ?」
「………!」
「いれいすメンバーの中でひときわ郡をぬいた歌唱力。埋もれさせるのは彼のためにはならないと思わない?」
「それは……動画やソロワンマンなんかもあるし……。」
「今の彼は、どんなに動画を上げてもステージに上がっても所詮“いれいすの悠佑”。僕なら1人の“実力派歌い手の悠佑”として売り出して名を広めてやることが出来る。」
どちらが彼が本当に望むことだと思う?
その質問にないこは答えることができなかった。
悠佑が長年努力を重ねて夢みていたのは、そういうこと。悠佑をでかい舞台に立たせたいと言うのは紛れもない本心だし、悠佑がいれいすやメンバーを誰よりも大切に思ってくれていることも1ミリだって疑ってない。けれど、じゃあ悠佑がいつまでも自分たちと一緒に活動して満足できるのかと聞かれると。
いつぞやの配信で、1人でフェスの舞台に立ってみたい、と言っていたのを聞いた。悠佑の本当に望むこと。自分が悠佑を引き止めるのは、ただの我儘?悩んで悩んで、悠佑を心から慕ういふに相談してみたら、あいつも言葉を失った。
俺たちはみんな、俺たちのあにき、悠佑が大好きだから。
いつまでも縋りついて、悠佑の夢の邪魔をしたくはないから。
子供組も呼んで一晩話し合って、決断した。
悠佑を、自由にしてあげよう。
「……次の配信で、あにき脱退のお知らせ、しなくちゃ。」
「……うん。」
「あにきがいなくなったら、リスナーさんたちどうやって引き留めよう?今まで以上に頑張らなくちゃな。」
「……うん。」
「…あにきがいなくても、あにきが大切にしてたいれいすを、これからは俺たちだけで大きくしていかなきゃならないんだ。だから……泣くのは、今日だけにしような?」
「………………っゔんっ………!」
その日は、全員が涙枯れるまで泣き明かした。
悠佑脱退のニュースはいれりすの間にかなりの衝撃を与えた。少なからず登録者数も減った。けれど、誰も挫けなかった。いれいすを大きくする。その思いだけで今まで以上に突っ走った。
最初は悠佑の事を話題に出していたリスナー達も、メンバーが悠佑の名を出すだけで口ごもってしまうのを見ているうちに次第に口にしなくなっていった。
そう、あれからメンバーの間で悠佑の話題は禁句となっていた。元々テレビを持っていないメンバー達だったから、その後の悠佑の活躍も目にしていなかった。
だから、悠佑の決断を、悠佑のその後を、誰も知らなかった。