腰の辺りまで伸ばしていた長髪をバッサリ切った。髪色も、黒一色に戻した。周りにはさらに幼くなった、なんてからかわれた。今、悠佑はとあるビルの前に立っていた。約束の時間までにはまだ少し時間がある。
何度か深呼吸を繰り返す。
自分のこれからの運命を変える決断。いれいすに入った時は、一緒に歩む仲間がいた。でも今回は1人だ。それまでは1人で頑張ってたのに、今は少し怖気付いている自分に、ちょっと笑ってしまう。
俺、あいつらに随分と甘やかしてもらってたからな。
もう、いい大人なのに。しっかりしないと、あいつらに笑われる。
「……よし!」
軽く自分の頬を叩き気合いを入れて、悠佑はビルの中へと入っていった。
去年に引き続き、今年もまた全国ツアーが始まる。悠佑がいなくなって、初めてのツアー。連日行っている練習もどこか満足出来ず、頼れる最年長の不在を嫌でも実感していた。いれいすバンドのメンバーもそれは同じなようで、どこかぎくしゃくしたものを感じる。それでも、見に来てくれるリスナーのためにと、全員がただ淡々とこなしていく。しかし、確実に歪みは出来ていて、段々膨らんでいきとうとう大きく亀裂が入ることとなった。
「こんな時、悠佑さんなら…。」
バンドメンバーのひとりがぽつりとこぼした一言。あと数日で本番と迫ったある日。ツアー前のリハーサルをしていた時だった。
「…は?」
つい、きつい声で返してしまう。
「悠佑さんなら、この場面は僕達の見せ場を作ってくれてるはずです。」
「いや、このタイミングで僕ら新しいパフォーマンス見せたくて、そういう振り付けを練習してきたんですよ。」
「じゃあ、ここは?ここでメンバー1回はけるでしょ?」
「そこは、企画として映像を流す予定なんです。」
「…っ、だったら、演奏も僕らじゃなくて良くないですか?!」
「はあ?!」
「だってそうでしょう?見せ場もない、ただ歌う時バックで演奏するだけなら、別に生演奏である必要なんてない。」
「今更、何言ってんの?ツアーはもうすぐだって言うのに。そんな無責任な。」
「相談もなく勝手に決めたのはそっちでしょう?」
「ちょ、ちょっと、みんな……落ち着いて!!」
段々声が大きくなっていく言い合いをオロオロしながらも止めようとする初兎。険悪な雰囲気がながれる。
「…確かにあにきがいた時のようには出来へん。俺たちにいたらない所があるのは認める。やけど、今更あにきに頼ることなんて出来んのやから、今頑張ってるあにきのためにもツアー失敗する訳にはいかないんよ。」
自分に言い聞かせるように、いふが言った。顔を見合わせるバンドメンバーたち。しかし納得はしきれていないようで。
「……だって、悠佑さん、結局ソロデビューなんてしてないじゃないですか。」
「…………え?」
その時初めて、いれいす脱退後悠佑は移籍することなく歌い手活動をやめていたことを知った。
コメント
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え、衝撃の事実... テレビを持っていないが故に... テレビはあったほうがいいね...