コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それは、ある晴れた、秋の日だった。
………綺麗な人だな。
それが第一印象だった。
でも、なんだか。
寂しそうだな。……そうも思った。
この辺りには仕事でよく来るのに、あんな所に、画廊があったなんて知らなかった。
あの日、たまたま、前を通りかかった。
ただそれだけ。
何気なく店の中を眺めたら、ガラスの扉の向こう側。
店の奥にある、小さなカウンターテーブルのような所に、店主らしき男の人がいた。
背丈は小柄なほう、か。
黒い髪に、細い黒ぶちの眼鏡を掛けて、何やら書類に目を通しているその表情。
シルクのようにつややかな素材の白いブラウスを着ていて。
なんだかすごく綺麗で、寂しげで、はかなくて。
一瞬で、目を奪われた。
そして、その人の後ろに飾られていた小さな絵。
静かで、深く冷たい海みたいな色の絵が。
まるで、その人、そのものみたいで。
吸い寄せられるように、店の中に入ってしまった。
『また見に来ていいですか?』
『えっ?』
『この絵。すごく気に入ってしまって。店の外から見えたんです。一目惚れです』
『はあ…まあ別にいいですけど…』
見たかったのは、絵、だったのだろうか。
それとも、それは言い訳で、絵のように美しい彼に会いたかっただけ、なのだろうか。
今になって考えれば、きっと、その両方だった……と思う。
『じゃあ今日は帰りますね。俺、若井っていいます』
『あ、俺は大森…ですけども』
困ったような顔で、でもちゃんと名前を教えてくれた。
大森さん。おおもり、さん。
帰り道で何度も呟いた。
あの日から。
毎日毎日、仕事の昼休みに、彼と、あの絵に会いに行くのが日課になった。
何度行っても、素っ気ない感じは変わらないけど。
でも話しかければ、答えてくれるし、それで充分。
大体、絵を買った訳でもない自分に、対応してくれるだけでも有難いくらいで。
だから、今日も会いに行く。
迷惑がられてるかもだけど。
あの人に会いたいから。……会いに、行く。
「……うわ、さみー……」
昼休み。
いつも通り外に出たら、風がひどく冷たかった。
ああ、冬が近付いているんだ、と感じる。
何か暖かいものでも飲みたいな、と考えたら、大森さんの顔がふっと浮かんだ。
そうだ。
最近人気のあのカフェは、紅茶が美味しいから。
大森さんは、なんとなく珈琲より紅茶って感じがするから。
華やかな香りのアールグレイなんてどうかな。
それならミルクも入れて、ハチミツも追加したら体が温まるかな。
好みかな。迷惑かな。
なんてあれこれ考えながら、一応自分の分も含めて2つ、テイクアウトして。
少し遅くなっちゃったな、と早足でお店に向かったら。
(…………あ。お客さん…………?)
店の中には、大森さんともう一人、何やら金髪の、派手な男の人がいて。
ガラスの向こう側だから、会話の内容までは聞こえないけど、なんだか凄く、親しげで。
(……入ったら、邪魔になっちゃうかな)
このまま帰ろうか、とも思ったけど。
でも、……手の中には、大森さんの顔を思い浮かべながらカスタムしたミルクティー。
持って帰る気にはなれなくて。
思わず、店の中に入ってしまった。
「…こんにちは」
遠慮しながら声を掛けたら、ハッとした表情で大森さんがこちらを見る。
「こんにちは…」
そう返してくれた小さな笑顔が、やっぱり今日も。
綺麗だった。
「すみません。お客様がいらしてたんですね。じゃあ、今日は帰りますね」
「あ…、若井さん、大丈夫です。これは客じゃないです。これはただの通りすがりの友人です」
「これって元貴、俺をまるで物みたいに」
不満そうに、金髪の派手な人が口を挟む。
「もう帰りますし、だから、大丈夫ですから」
「いえ、お邪魔したら悪いので」
そう言ってから、「あ、そうだ」と手に持っていた小さな紙袋を差し出した。
「今日は寒いので、暖かい飲み物でも、と思って買ってきました。良かったらお二人で、どうぞ」
「え…」
大森さんが、眼鏡の奥の目をゆっくりと見開く。
愛らしいまつげだな、とひそかに思う。
「あ…。ありがとう、ございます…」
「いえ。それをテイクアウトしたカフェが混んでいて、来るのが遅くなってしまって。じゃあ、また明日」
小さく手を振って、店を出ようとしたら、
「あ、なんか…僕までいただいちゃってすみません、ごちそうさまです」
金髪の派手な人が、ペコリと頭を下げてきた。
見た目は派手だけど、ちゃんとした人なんだな。
見た目は派手だけど。
なんならちょっと怖いけど。うん。
なんて思いながら、自分も会釈して、ガラスのドアを開けて、店を出る。
「……ふー……」
ため息を吐いたら、白かった。
今日は、本当に寒い。
一緒に飲めなかったのは、……少し、残念だけど。
でも渡した時、大森さんが、喜んでくれたような。
そんな気がしたから。
なんだかもう、それだけで、充分で。
心はホクホクしながら、歩き出したら、
「……あっ!」
そうだ!
思い出した。
帰り際、ついいつものクセで、「また明日」と言ってしまったけど。
明日からしばらく出張で遠い場所で仕事しなきゃいけなくて、少しの間お店に行けないって、伝えようと思ってたんだ……。
(……どうしよう)
でも、戻ってまで言うほどの事だろうか。
まだあの派手な人もいるのだろうし。
大体、そもそも、大前提として。
(……俺が店に来ても来なくても、大森さんは、どうでもいいだろうしな……)
自分で言ってて悲しいけど。
グサッ、て感じなんだけど。
でも事実だろう。
俺のことなんて待ってないだろうし。
来ない方が静かでいいな、くらい思ってるかもしれない。
「まぁ、言わなくても、いいか……」
ポケットに手を突っ込んで、テクテク歩き出す。
時計に目をやれば、昼休みも間もなく終わりそうで、俺は慌てて駆け出した。
余談ですが
青さんのビジュは以前のドキュメンタリーの動画を基にしてます
赤さんが「にゅぅぅぅぅ」と言ってたり
青さんが彼氏感強めに赤さんにギター教えてたり
二人でロンリネスの曲に合わせてペタペタお餅ついてたり
なんかあの辺りのあれです(伝われ)
赤さんはクスシキMVリアクション動画をイメージしてます
あの三人で見てる時の
赤さんのちょこんと座ってる感じとか
はしゃぐ子供と優雅なお母様みたいな
優しく気品あふるる感じ素敵だなと思ってます