テラーノベル
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微睡みと純黒の、融合。
方向感覚と実際の、不整合。
しばらくすると現れる、目蓋の裏の光刺激。
降り注ぐ頭痛、点滅と断続。
眼球の上で蠢く鮮烈な光跡はゆっくりと変形し、接着と離散を繰り返す過程で、様々な光景が形成されていく。
浮き出てきたのは灰被りの街の中心、
その広場で焚きつけられる十字架。
あるいは海戦の傷跡が残る座礁船、
荒波に揉まれる黒旗。
あるいは灯り無き暗く寂れた墓場、
そこから掘り起こされた泥塗りの棺。
あるいは謀反の焔に燻る巨城、
月明かりの射し込む天守閣。
あるいは岩蓋の亀裂から零れる一条の光、
出口なき洞穴の底。
あるいは人工的に削り出された川、
深くゆるゆると流れる上水。
あるいは本の山と新聞紙、
空薬莢と血痕が残る、静寂が支配する地下シェルター。
纏まってはぼやけて、そうして幾つもの景色が過ぎ去ったのちに、全身が灼けるほどの光が突如として漆黒の向こうから口を開いた。
やがて光は全てを飲み込み――――
いつの間にか、不思議な空間へと接続した。
地平線の奥まで敷かれた白黒のタイル。
継ぎ目のない真白な空。
幻想的な情景と、失われた重力感。
いつも見る、夢の世界。
そこに立つ尽くす彼はどこか寂しげで、
そして、理由のわからない懐かしさを感じる。
『………………』
白仮面に、黒のロングコート。
いつも夢に出てくる、謎の男。
「……またあんたか」
『………………』
「あんたも仮面をつけてるよな。 てことはよ、もしかして『少数派』の奴らと、何か関係してるのかよ?」
男は一切言葉を発しない。
ただ、代わりに白い空間が呼応するように蠢くのを感じる。
「……何なんだよ。 何もかも訳分からねえことばっかりだ! あんたも、この夢も、仮面も野崎も権能ってのも! 何もかも! 美術館の時だって、あんたは呪いがどうとかっておかしな事ばかり言いやがってさ!」
夢に八つ当たりしちまうくらいには、やるせない鬱憤が溜まっている。
急にテロなんかに巻き込まれて、なんとか切り抜けたと思ったら、次は脅迫されて、監視されて。
わけわかんねえことばっか言われて、理解しようとしても、現実離れしたことばっかで……、付いていけねえよ。
『呪われ。 お前は何も間違ってなどいない』
男はそう言い、こちらへ向けて手を差し伸べてきた。
オレが近づくのを躊躇っていると、白い空間のあらゆるところから灰にも似た粉塵が白い風となって現れ、彼の黒手袋の上で渦巻き始める。
渦は凝縮されていき、崩壊と再構成を繰り返して塊となり、遂には仮面の形と成った。
「その仮面は野崎の……、ロビンソンがつけていた鉄仮面か……?」
無機質で冷たい印象を漂わせる鉄の仮面。
くり抜かれた目の穴から、血の涙を流すための溝が刻み込まれている不気味なデザイン。
ロビンソンが被っていたものと違う点と言えば、粉々に割れた跡を思わせるヒビが入っていることだろう。
『この世には、正義を誇る狂人が蔓延している』
男が仮面を握り潰すように触れると、再びそれは粉々となって空間に四散した。
『ある者は夢みた未来、その実現のため。
ある者は愛した過去、その再現のため。
ある者は悪への私怨、その報復のため。
ある者は恐れる存在、その除外のため。
あらゆる理由で、独善的な正義を振るうのだ』
男は掴んだ灰を振るって、
『仮面は、エゴと罪の象徴。 狂人たちの証だ。 我々はその抹殺人。 証を壊して周らなければならない。 それは世界のためであると同時に、お前が『代筆者』となるために必要な儀式でもあるからだ』
「それだよそれ、『代筆者』って何なんだ。 あんたは前、王がどうとかって言っていたよな」
『時が来れば、自ずと解るだろう。 此処にいる彼等の姿と声が聴こえるようになった頃には』
再び、空間がどろりどろりと蠢く。
まさかこの淀みの正体が、男の言う彼等なのか?
オレが姿形が見えてない、その声を言葉として認識できていないだけで、誰かがそこにいるとでも言うのか?
『運命の呪われ。
仮面を追うのだ。
その先には真実がある。
貴様の求めている、
無き記憶の真相も――――』
暗転。
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