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「あの後はよく眠れたようだな」
「はい、あの……お陰様で」
朝、あれから数十分程で目を覚ましたギルバートと会話を交わしたエリス。
まだ、もう暫くギルバートに身を預けていたかったという思いを胸に抱きつつも、彼が身体を起こした事でエリスも身を起こす。
「俺は別に何もしていない。しっかり休めたなら良かった」
フッと口角を上げたギルバートはそう口にすると、早々にベッドから降りていくのでエリスもそれに倣うようにベッドから降りていった。
昨晩同様二人で朝食の準備を整え食べ終えると、
「エリス、何かしたい事はあるか?」
食器を片付けながらギルバートはエリスに『したい事』があるかと問い掛けた。
「いえ……その、特には……」
けれど、嫁いでからというもの常に部屋の中で毎日を過ごしていたエリスにやりたい事など思いつかず、『特に無い』と答えた。
「そうか。ならばセネルの動向を探る為にも、少しセネルに近付いてみようと思うが、エリスも行けそうか?」
「え?」
「無理そうならば、俺一人で行く。その間お前の事は安全な場所へ預けていくから安心してくれていい」
ギルバートはセネルの動向を探る為にあえてセネルへ近付いて行こうと考えているようだが、エリスとしては近付く事に抵抗があり、すぐには決められずにいた。
もしエリスが行かない選択をするのであれば彼女をどこか安全な場所へ預けていくと決めているようなのだが、エリスとしてはギルバートと離れる事が一番不安で避けたい事だった。
「……私も、行きます」
「無理はしなくていいぞ?」
「いえ、無理はしていません……その、ギルバートさんと離れるのは不安で……」
「そうか、分かった。ならば共に行動しよう。それと、セネルに近付くにあたって少し容姿を変えた方がいいな」
「容姿を?」
「まあ、髪型を変えるのが一番簡単に出来るだろう」
「髪型……」
「まあ、束ねるだけでも印象は変わるだろうから、後で束ねてみるか」
ギルバートから容姿を少し変えるべきだと言われ、手っ取り早く出来るのが髪型だと言われたエリスは考える。
普段髪をおろして過ごしていたので、束ねるだけでも変わるかもしれないと。
けれど、ドレスアップしていた時は髪を束ねていた事もあり、見る人が見ればすぐに気付かれてしまうかもという不安があった。
「あの、ギルバートさん」
「何だ?」
「可能であれば、髪を切ってもらいたいです」
悩みに悩んだ末、エリスはギルバートに髪を切って欲しいと願い出た。
「変えた方がいいとは言ったが、そこまでする必要は無い。髪は女にとって大切なものだろう? お前のその栗色の長い髪は綺麗だ。切ってしまうなど勿体無いと思うが」
「いえ、構いません。出来れば髪色も変えたいです……お願い出来ますか?」
命を狙われる恐怖を少しでも減らせるならと、伸ばしていた髪を切り、色も染める決断を下したエリスの覚悟を感じたギルバートは、
「分かった、お前がそう言うのなら、早速準備に取り掛かろう」
エリスの意思を尊重して彼女の髪を切り、別の色に染める事を了承した。
何でもそつなくこなしてしまうギルバート――彼は何者なのだろう。
髪を切って欲しいと願い出たエリスは自身の髪が切られていく中、ボーっとそんな事を考えていた。
あれから早速髪を切るのと染める為の準備を始めたギルバート。
外に椅子を置いて、エリスの身体に布を羽織らせてその工程は行われていた。
カラーリング剤も自らで調合するようで、様々な薬品などの入った小瓶を用意したギルバートは髪を切る手付きも上手く、躊躇いも一切無くエリスの髪にハサミを入れていく。
はらりはらりと落ちていく髪をジッと見つめるエリスは、今自分がどんな髪型になっているのか密かに気になっていた。
髪を切り終わると、そのまま染める工程に移る。
天気も良く、気温もそれ程高くない今日の気温はただ座っているだけのエリスにとって心地良いもので、時折吹いてくる微風が気持ち良くて、彼女はいつの間にか眠りの世界へ誘われていた。
「――ス」
「……んん……」
「エ――……ス」
「ん……、」
「エリス、起きろ、エリス」
「――ッ!」
うたた寝をしていたエリスは自分を呼ぶ声に気付き、ようやく目を覚ます。
「す、すみません! 私寝て……」
「構わねぇよ。ただ座ってるだけじゃ眠くもなるだろ。それよりも、終わったぞ。ほら、鏡だ」
「あ、はい!」
寝てしまった事を謝罪するエリスに気にしていない事を告げたギルバートは少し大きめの鏡を手渡した。