テラーノベル
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鏡を受け取ったエリスは出来上がった髪型を見てみると、
「うわぁ、凄い! 別人みたい!」
長くウェーブがかった栗色の髪は、肩よりも少し上の方まで短くなったウェーブがかったボブヘアスタイルになり、色も暗めの茶色に染まっていた。
「少し短くし過ぎたか?」
「いえ、大丈夫です。この方が私だって分からなさそうですし」
「そうか。お前は長い髪も似合っていたが、短いのも似合うな」
「そう、でしょうか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
“似合う”と言われたエリスは素直に嬉しく、自然と笑みが溢れた。
「ギルバートさんは、やっぱり髪はご自分で切っていらっしゃるんですか?」
「ああ。伸びてきたと思ったらすぐに切っているから、形は変わらない。色も、過去に染めてからずっと同じ色にしている」
「ギルバートさんも染めていらっしゃるんですね。とても自然なお色だから、地毛なのかと」
ギルバートは傷を隠すつもりが無いのかスッキリとした短髪で、色は光沢のある漆黒。
そんな彼も元は別の髪色だった事を知ったエリスは元の髪色が知りたいと思ってしまう。
けれど、あまり髪の話題に触れられたくないのか、特に興味も無いのかギルバートは黙々と片付けに勤しんでいた。
結局髪色を聞けずじまいだったエリスだけど、いつか聞く機会があれば聞いてみようと気持ちを切り替えると、これから街へ出向くのでギルバートよりも先に出掛ける準備を済ませてしまう事にした。
「よし、出発するぞ」
「はい」
準備を終え、リュダに跨った二人は偵察の為にセネル方面へ向かって出発した。
ひとまず市場へ行けば情報は得られると、初めに市場へ立ち寄る事にした二人。
リュダを繋いで情報収集に向かうさなか、エリスの故郷でもあるルビナ国からやって来た行商人と出逢う。
「お客さん、知ってるかい? ルビナ国の王女でセネルの王子の元へ嫁いだエリス様が、亡くなったという話」
ギルバートが情報を得る為に買い物をしていると、商人がエリスが亡くなったという話を口にした。
「亡くなった? 何故だ?」
「何でも病状が悪化したらしくてねぇ、昨日亡くなったと今朝早くに号外が配られていたよ。ほら」
詳しく話を聞いていくと、エリスが逃げ出した昨日、彼女が亡くなったという話を作り上げ、今朝各地で号外が配られていたらしく、商人は貰ってきた紙をギルバートたちに差し出した。
そこには、【流行り病に侵され長らく闘病生活を送っていたエリス王子妃の病状が悪化して亡くなった】と記載されていた。
分かっていた事ではあるけれど、いざ自分が亡くなった事にされたエリスの心中は複雑だった。
行商人と別れ、再びリュダに乗った二人は市場から離れていく。
その道中、
「エリス、大丈夫か?」
元より口数の少なかったエリスが更に大人しい事、先程の出来事を踏まえて彼女を心配したギルバートは木陰に近付くと声を掛けた。
「……あ、すみません、大丈夫です」
「表情を見る限りそうは思えない。無理はするなと言っただろう? 昼食がて少し休憩しよう」
リュダから降りたギルバートは木陰で昼食を取りながら休憩しようと、元気の無いエリスに手を差し伸べた。
木陰に並んで座り、市場で買って来ていたパンを食べながら、心を落ち着かせていくエリス。
「……分かってはいたけど、自分が死んだ事にされるのは、複雑だなって思いました」
「まあ、そうだな、生きているのに亡くなった事にされるというのは、何とも言えない気持ちだろう」
ようやく気持ちの整理がついたらしい彼女は胸の内をギルバートに明かしていく。
「シューベルトたちは、本当に私が死んだと思っているのでしょうか?」
「まあ、可能性がゼロでは無いからな。寝込みを襲われ何も持たずに逃げた。しかも腕に傷を負っていたし、逃げたところで格好も格好だったから人前にも出れず、何処かで野垂れ死にするかもしれない……と。だが生きている場合も考えているとみていいだろうから、表では病死と発表しているが死体が見つからない限り捜索は続けるはずだ」
「……もし見つかれば……」
「まず間違い無く殺されるだろうな」
一度は殺されかけ、逃げ出したら表では死んだ事にされてしまった上に、まだはっきり死んだと分かっていない段階で捜索を打ち切る事はしないとみているギルバートは、見つかれば即殺されるだろうと言った。
そんなギルバートの言葉にエリスが身震いすると、横並びに座っていたギルバートはエリスの肩を抱いてそのまま自身の方へ引き寄せた。
「大丈夫だ、そうならないように、俺が居る。例え俺の命が尽きても、お前の事だけは逃してやるから、心を強く持て、エリス」
「……ギルバートさん……」
ギルバートの言葉に、震えていたエリスの身体は少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「……守ってもらえるのは、凄く心強いです。でも、私のせいでギルバートさんにもしもの事があるのは、嫌です……。ごめんなさい、私、凄く我侭な事、言っていますよね」
「そんな事は無い。分かった、それならば約束しよう。俺もお前も助かる最善の方法を考える。だから、心配するな」
「はい、あの、私も、強くなります。力は無理かもしれないけど、心を強く持ちます、もう、すぐに落ち込んだりしません」
「ああ、お前はそれでいい。よし、そろそろ行くか」
「はい」
エリスに元気が戻った事もあり、日が暮れる前に町まで着きたいギルバートは出発を提案し、再びリュダの背に乗った二人は先を急ぐ。
そして、何とか日が暮れ前にセネル国へ辿り着いた二人は物々しい雰囲気に包まれた町を前に思わず息を呑んだ。
王都よりも離れた町に滞在する事を選んだギルバートはひとまず宿屋を取る。
「お客さん、三日後の葬儀に参列する為にここへ来たのかい?」
「いや、そういう訳では……。葬儀と言うが、何かあったのか?」
情報を得る為にあえて知らない振りをしたギルバートは宿屋の主人から話を聞いた。
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