テラーノベル
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「おっはよぉ〜、いやぁ今日の雨すごくない?」
スタジオに入ると涼ちゃんののんびりとした声が響いていた。
「んね、俺頭痛いよ」
「元貴は低気圧弱いもんね…大丈夫?」
「まぁまぁ、慣れっこですわ」
「若井は?大丈夫?昨日飲みすぎてたけど、二日酔いとか」
突然振られてたじろいでしまい、大丈夫!と発した声が少し裏返る。
何事もなかったような雰囲気で元貴が過ごしていることに心の底から安堵すると同時に、触れられない不安感も少し奥底で蠢いた。
顔を上げると元貴がこちらをじっと見ていて、唾を飲み込む。
観察するような、目。
「….よし、じゃあ揃ったし、やりますか!」
元貴は言及を避けたまま、明るい声のトーンで立ち上がる。
俺は、ギターの弦に目を落として、異様な気持ちをめちゃくちゃに持て余していた。
「…違う、そうじゃなくて、もっと、そう、カッティングなのかな。弾むような感じで」
元貴の声が振ってきて、意識が戻る。
鳴っていた他パートもやんで、注目が俺に集まる。
「…こう?」
慌てて弾き直すが、元貴の表情は芳しくなく、そうじゃない、とぼやく。
立ち上がって近くにくると、後ろから抱えるようにして俺のギターを弾いて見せた。
軽やかな音が部屋に響く。
「こう」
慣れたはずのシチュエーションの筈なのに、めちゃくちゃ真剣にこの場にいるその心構えは誰にも負けない筈なのに、どうしようもなく意識が元貴に向いてしまう。
やけに白く滑らかな肌をした腕が触れて、黒い髪の毛が俺の耳に触れた。
ちら、と元貴の目を見ると、その目はどこまでも音楽に没頭したプロデューサーの目であり、そして、俺に少しばかり怒ったような目でもあった。
「…こう」
重ねて同じフレーズを弾き直した元貴には、俺の意識の先が分かったのだ。
切り替えなきゃ、と自分の頬を引っ叩きたい衝動を抑えて、集中する。
元貴のフレーズを繰り返すようにしながらも少し俺なりの意味合いを込めて弾き直す。
「…」
少し不安げに元貴の顔を確認すると、少し考えたように天井を仰いでから、うん、いいね、と小さく言った。
緊張感を取り戻し、猛烈にギターを掻き鳴らす。
「うん、そう、そういうかんじ。いいじゃん」
元貴が満足そうにするのを見て、ほっとするのと同時に、ゾクゾクとした満足感が全身に走る。
そして、俺はまた、別の意味合いで安心していたのだ。
ミセスが壊れてないこと、
俺と元貴の仲が壊れてないこと、
俺がいつも通りにできていること。
あんなのは一時の気の迷いに違いないのだと、そう言い含めるように心の中で反芻した。
なぜそうあるべきだと思ったのかは分からないが、それを否定しなければ絶対にいけない気がしたのだ。
そうじゃないと、全ての意味合いが変わってしまう。
そしてそれが本質なのだとも、頭のどこかで理解もしていたが、今はどうしても、それを認められなかった。
コメント
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元貴の「観察するような目」と、それに気づきながらも見ないふりをする若井の内心がすごくリアルで刺さりましたね。バンド練習の空気感、特に元貴が後ろからギターを教えるシーンの距離感が絶妙で、音楽と感情が混ざり合うところにゾクゾクしました。あの「一時の気の迷い」ってやつ、きっとこれからもっと絡まっていくんでしょうね…。続きが気になります!
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