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長い夏休みも終わってしまえば一瞬で。まだまだ遊んでいたいくらい、海に行ったあとの夏休みは花火にお祭りにサッカーの試合の応援、お泊りと···充実していて楽しいものだった。
そのどれもが若井との思い出だった。
新学期に会った若井は更に背が伸びたような気がしてドキッとした。つい3日前にも会ったはずなのに学校で会うとまた違ってカッコよく見えるから不思議だ。
「おはよう!久しぶりの学校ってなんかいいね、みんなと会えるし」
「おはよ、けど眠いよ俺···」
宿題は若井のおかげで早めに終えたものの、結局昨日もなんだかんだ夜更かししてしまって、思わずあくびが出る。
「元貴はほんとに夜型だな、俺がいないと平気で寝ないでいるしたまにご飯も食べないし···一緒にいないと心配になる」
そうだよ、俺は若井がいないとだめなんだから···もっとずっと一緒にいて、俺のことだけ心配しててよ。
「若井こそ俺がいないとダメなくせに」
教室へ向かいながらそう返して若井の大きな背中をポンポンと叩く。
「そうだよ」
え?と隣を見た瞬間に若井は教室のドアを開けていつもの元気さでおはよう!と声を出すと一斉に友達や女子が寄ってきて宿題終わった?日焼けしたなぁ、なんて取り囲まれて俺はなんにも言えなかった。
聞き間違いだろうか?
そうだよね、若井がそんな風に言うはずなんてないんだから。
先生が入ってきて秋にある文化祭の話をしている。出し物を何をするかみんなで話あっていると女子たちが王道のシンデレラとか眠れる森の美女とかそんなのにしようよ、と盛り上がっている。
演劇部がクラスに多いからそれも良いのかもしれない、俺は裏方がいいけど···他人事に聞いているとあっと言う間に方向性が決まって脚本から書く!と意気込んでいる演劇部メインに話は進んでいった。
学校が終わって今日は部活が休みという若井と帰っているとなんだか少しいつもより元気がない。
「若井?どしたの、疲れた??」
「演劇部の奴ら、だいたい脚本出来たらしくって···俺、もしかしたら王子様やらされるかもしれない···」
「へぁっ?!」
思わず変な声が出た。
なんで若井が?
「劇の中に歌とか楽器入れたいって言い出して···ギター弾けるから俺が適任だって」
「···なるほど」
「あと···いや、なんでもない···。俺そんなの出来る気しねーよ、元貴する?」
俺はとてもじゃないけどごめんだ。
それに若井には悪いけど、絶対俺より若井のほうが似合うに決まってる。
「俺は無理だよ···それに、ちょっと若井の王子様役見てみたいかも」
お姫様は俺じゃないけど。
若井はじぃっと俺を見つめて軽くため息をついた。
「バカにしない?」
「するわけないじゃん、きっと···カッコいいよ」
「···断れなさそうだったらやるしかないか。笑うなよ?」
笑うわけないじゃないか。
俺が相手役なら一目で恋に落ちるくらい、きっとカッコいい。 俺はもう落ちてるけど。
「なんかちょっと文化祭楽しみになってきた」
「マジか···元貴もどこかで歌ってよ、きっと元貴より歌上手い奴なんかいない」
そう言って笑う若井の顔が赤いのも、嬉しくて照れている俺の顔がたぶん赤くなっているのも、全部きっと夕焼けのせいだろう。
コメント
4件
あー、なんだろう⋯青春カムバック!って叫びたくなるわ。めっちゃいい話。好きいっ!