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沙奈が走り出したすぐ後、哲平君が縛られていた鈴蘭テープを力尽くで引き千切り後を追った。私も追いかけようとしたものの、半ば強制的にクラスメート達に押さえられて体育館に連行されてしまった。

体育館には、保健室前で別れたばかりの剣道部の先輩を始め多くの生徒や教師が集まっていた。学校行事の為、では無い事がすぐに分かる。先輩、後輩、教師の区切りが外され、全く別の階級に分けられている、そんな感じだ。その頂点で指示を出しているのが剣道部の先輩。高嶺スバルと言っただろうか。彼と、彼の周りの教師生徒達が、他の者達をまとめ、話を聞き、このよく分からない事態の収拾に努めている。そんな風に見えた。

私は、高嶺先輩や彼の周りの人達を見て、視界の揺らぎを感じた。ふらつき足元が覚束なくなり、横のクラスメートに支えられる。

「関係の深い人や、思い入れのある人が『入っている』人を見ると、そうなるみたい」

支えてくれたその子が言った。

「そうして、段々と思い出していくの。あちら側の世界の事」

「・・・あちら側?」

視点がまだ定まらない。周囲の音もぼやけて聴こえる。

「最初は夢。午前中に、あちら側で暮らす、自分の中に入った人の生活の様子を夢で見たわ。起きてからクラスメートの一部の子達に、夢の中での知り合いがいる事に気付いたの。それから、弥生ちゃんを見て、視界と音に揺らぎが起こって、弾ける様に思い出したわ。そこからパズルをつなぎ合わせる様に思い出していく」

「・・・思い出す・・・」

「弥生ちゃんももうすぐよ。だって、アスラン様がいるもの」

徐々に戻る視界。ハッキリ見える高嶺先輩。重なって見えるのは、見慣れた逞しい背中。そう、彼は・・・

アスラン。


物心ついた時には、いつも横に彼が居た。年の離れた兄の様な人。早くに両親を亡くした私にとって、唯一の肉親は祖母。だが彼女は市長という忙しい仕事に着いていた為、私は縁のあった彼の母に預けられ育てられた。

目と肺、消化器官に障害があった私に、彼と彼の母は深い愛情を注ぎ、何不自由無く育ててくれた。大きくなった今でも、その恩を感じない日は無い。

私が10歳になった時、彼の母は私に教えてくれた。私の両親の死について。

魔物、それはいつの間にか現れた人の敵。甘い匂いで惑わせて、攫って食べるのだと言う。

長いこと魔物は、食べる分だけを攫って食べている様に思われていた。実際には分からない事だが、無差別な殺人の様な真似はしていなかったのだと言う。それが、人を殺して攻め入る様になってきた。その原因が、1人の魔物の存在による、と分かったのは、丁度私が生まれた頃だったそうだ。

マリカ。

そう名付けられた魔物。

天災に女性の名前を付けるという文化が流行り始めた頃だった。竜巻や砂嵐、洪水、そして魔物。

リリアナ、グエン、ジーナ、ライザ、マリカ。

当時の魔物は5つの勢力に分かれており、それぞれに名前が付けられた。当初は勢力に付けられた名前。

後の研究で、勢力毎に1人の女王がおり、女王を中心に兵隊がいる事がわかって来た。全てが雌。昆虫の様なその構図。いつしか付けられた名前は、女王を指すようになったのだという。

その中の1人、5人の中で1番最後に誕生したと言われる女王、マリカ。

彼女の登場と、その勢力の拡大により、世界は変わった。魔物同士での争いが起こり、5つあった勢力は3つに減った。

そのうちにマリカは人里を襲う様になった。食の為では無く、その住処である場所を奪う為に。

多くの市が襲われ奪われていった。次々と奪われる領土。私達の住む市も攻撃を受けた。その攻撃で、私の両親の命は奪われたのだ、と。

祖母は市長だ。狙われて当然の立場。勿論多くの護衛兵に囲まれていたのだが、それがまるで敵わない程の数の魔物が一気に攻めて来たのだと。その時、市長を守る為に2人は身を呈したのだと。

十分に理解出来る年になっていた私は、体の中から静かながらも湧き上がる物を感じた。

私は奪われたのだ。何よりも大切な者を。得て当然の幸せを。この身に受けるべき愛情を。

祖母も、子供とその伴侶を奪われたのだ。市民は、次代の市長を奪われた。両親だけでは無い。もっと多くの命が奪われた。いや、奪われ続けているのだ。不条理に。不等な占領欲の為に。

許せない。許さない。

さっき保健室で見た『アレ』は何だ?魔物では無いのか?魔物、しかも『マリカ』であったのでは無いか?

私は何度も見たはずだ。マリカ本人を。戦地で、市街で、私の部屋で!

あの日、幾度もマリカの侵略を阻止した私を殺しに、私の部屋にやって来たではないか。側近を送り込み、アスランが出て来た為敵わないと側近を止めに来た、ひと回り小さな魔物。あの魔物の気配。覚えている。忘れられる訳もない。

今、知らない世界で見知らぬ娘の体の中に閉じ込められたこの状態。何が起こっているのか見当もつかないが、アレを放って置けない。捕らえなければ。

「アスラン!」

私は大声で呼び掛けた。振り向く彼。そのまますぐにそばまで来る。

「マリカと他の魔物の捕縛。市民の安全確保。状況確認。私にも報告を!」

頷くアスラン。

周囲の生徒、教師等が跪く。

魔物との対峙だ!

春風と共に来る平穏の終わり

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