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い
80
あき💫🌙

8,903
雲一つない秋晴れの空の下、グラウンドは運動会特有の喧騒と砂埃に包まれていた。スピーカーからは大音量のBGMが流れ、色とりどりのハチマキを締めた生徒たちがせわしなく行き交っている。
「いや、マジで暑すぎ。俺もう帰っていい?」
赤組のテント裏。借り物競走を終えたばかりのイブラヒムが、首にかけたタオルで顔を拭いながら地面にへたり込んだ。すでにその手には、他クラスの女子から「これ、余ったのでどうぞ!」と押し付けられたスポーツドリンクが三本も握られている。
「サボるなイブ、次クラス代表リレーだろ。ほら、ハチマキ曲がってんぞ」
そう言って、ローレンが自分のハチマキをきゅっと締め直しながらイブラヒムの頭を小突いた。ローレンのポケットは、午前中の障害物競走で一着を取った際、女子後輩たちから貰ったお菓子で早くもパンパンになっていた。本人はそれを「お、サンキュー!」とただの男友達のように爽やかに受け取っている。
「あー、緊張してきたわぁ。俺、第一走者やから責任重大やねぇ」
ひらひらと手を振りながら現れたのは不破湊だ。すでに何人もの女子から「不破先輩、頑張ってください!」と声をかけられ、そのたびに「おぅ、ありがとねー」と全方位に完璧なファンサを振りまいてきた男は、相変わらず飄々としている。
「湊、お前さっき他校の女子に手ぇ振ってただろ!クズ男やんっw」
「人聞き悪いなぁ! 俺は女の子を笑顔にしたいだけや!」
そんな三人のやり取りから、一歩引いた場所で腕を組んでいるのが葛葉だった。クラスTシャツの袖を気だるげに捲り上げ、ハチマキを額のかなり低い位置で結んでいる。その冷淡な佇まいは近づきがたいオーラを放っており、女子たちが遠巻きに「葛葉くん、怒ってるのかな……でもカッコいい……」と色めき立っていた。
実際、葛葉は不機嫌だった。
理由は、ローレンが不破とイブラヒムの間でニコニコしながら腕を組んでものすごい顔の近さで笑いあっていたからだ。
(……なんで俺には、あそこまでフランクに絡んでこねぇんだよ)
葛葉はローレンへの気持ちを拗らせるだけで何も言えず、ただただ心の中で悔しさを募らせるしかなかった。
「第一コース、赤組。第一走者、不破くん──」
アナウンスが響き、四人はそれぞれのポジションへと散っていった。
第一走者の不破が、スタートの合図とともに爆発的なスピードで飛び出す。2色のメッシュが入った銀色の髪を揺らしながら圧倒的なリードを奪い、第二走者のイブラヒムへ。イブラヒムは「めんどくせぇ」と口では言いつつも、直線で驚異的な速さを見せ、二位との差をさらに広げた。
「ローレン! 頼んだ!」
「おう、任せろ!」
バトンが第三走者のローレンへと渡る。ローレンはグラウンドを疾風のように駆け抜けた。その汗の滴る真剣な横顔に、黄色い歓声が上がる。
そして、ローレンの視線が、アンカーの位置で待つ葛葉を捉えた。
「葛葉──!! ぶっちぎれ!!」
叫びながら迫るローレン。葛葉は一歩踏み出し、後ろに手を伸ばした。
パシィン、と手のひらに強い衝撃と、ローレンの体温が伝わる。
「…っ、わかってるわ!」
葛葉は叫ぶと同時に、地面を力強く蹴り出した。
白髪を激しくなびかせ、狂気的なまでの加速を見せる。ローレンが自分を応援してくれたという事実が葛葉の足をさらに前へと突き動かした。ローレンが繋いでくれたバトンを、自分の手で一番にゴールへ届ける。それだけだった。
「どけお前らァ!!」
圧倒的な独走劇。二位に大差をつけ、葛葉は堂々の一位でゴールテープを切り裂いた。
「よっしゃあああ!! 葛葉マジで速すぎ!」
真っ先にトラックを走ってきたローレンが、勢いのまま葛葉を抱きしめた。
「っ……!?」
突然の密着に、葛葉の心臓が跳ね上がる。ローレンから伝わる熱と、首筋をかすめる荒い息。完全に脳が焼き切れそうになりながら、葛葉は真っ赤になった顔を隠すようにローレンを突き放した。
「……っ、うっせ、離れろ。お前が遅いから俺が死ぬ気で走る羽目になったんだろ」
「あはは! 照れんなって! ありがとな!」
ローレンはケラケラと笑いながら葛葉の背中をバシバシと叩いた。
そんな時、後ろからローレンも覚えていない女の子が
「あの、今日!運動会終わったあとなんですけど、時間ってありますか、、?」
「あーあるよ。告白?」
「え!?はぃ、、いいですか?」
「わかった。あとでちゃんと聞くね。」
「ありがとうございます😭」
というもう何回もきいたようなラリーを葛葉の前でし、葛葉はもう何回も聞いているがやはり慣れず、ローレンに会話を振る。
「あー、腹減った。今日の夜、ローレンの奢りで焼肉な」
「は!? なんで俺の奢り!?」
「一位とってやったんだからw」
笑いながらテントに戻ろうとするローレンに葛葉は、ローレンの右手を掴んだ。
自分でもこんな大胆なことができるのかと自分自身に対して驚いた葛葉だったが、体温が残る右手をそっと握りしめ、胸の奥で暴れるローレンは自分のことが好きなんじゃないかという切ない期待を必死に抑え込んでいた。
「なぁ、葛葉。お前、ローレンのこと好きやろ」運動会後の無人の教室。ローレンが告白で呼び出され、教室を出て行った後、残された不破、イブラヒム、葛葉の3人の間で、不破が唐突にそう切り出した。「っえ?」葛葉は、持っていたSwitchを危うく床に落とするところだった。顔が一瞬にして耳元まで真っ赤に染まり、動揺を隠すように不自然な大声を上げる。「何言ってんのお前! バカか!? 脳みそ沸いてんのか!?」「いや、わかりやすすぎるねんもん。ローレンが他の男と喋ってるときの葛葉の顔、まじでこわいでwwでさ、俺の直感なんやけど……ローレンもお前のこと好きなんじゃないかなって知らんけど、両想いな気がすんねんな」「は……?」葛葉の思考が、完全に停止した。その隣で、スマホを操作していたイブラヒムは、ゆっくりと顔を上げた。イブラヒムは、この四人の中で最も「空気」を読める男だった。彼は気づいていた。葛葉がローレンを好きなのは事実だ。だが、ローレンが葛葉に向ける視線は、どこまでもフラットな「ただの友達」に対するものでしかないということに。ローレンは葛葉のことを本当にただの同級生の一人としてしか見ておらず、恋愛対象としての意識は1ミリも存在していない。不破の「両想い」という直感は、今回ばかりは完全に外れている。普通なら「いや、ローレンは別に葛葉のこと友達としか思ってないよ」と訂正するべき場面だった。だが、イブラヒムは自分の意見にあまり確信が持てていなかったのと、ここで不破の意見を否定して、気まずい空気になるのも面倒だった。「あー……。まぁ、そうかもね。お前の直感、当たるし。……上手くいくといいんじゃね?」イブラヒムは適当に話を合わせ、不破の意見に賛成してあげた。これにより、葛葉の心の中で「不破もイブラヒムも、ローレンが俺を好きだと言っている。……あいつのあの無自覚な甘え方は、そういうことなのか?」という、最悪の勘違いのパズルが完成してしまったのだ。「……じゃあ、俺、ちゃんと言ってくる」葛葉は、限界まで膨らんだ期待と緊張を胸に、教室を飛び出していった。
葛葉はリレーより早く走り回り、告白された後のローレンを見つけた。長年の付き合いからの絶対に断っているという確信の元、
「おい、ローレン。ちょっといいか」「あ、葛葉。おつかれー、どうした? 改まって」夕暮れのオレンジ色の光が、無人の屋上を静かに染め上げていた。葛葉は、もう限界だった。不破とイブラヒムの言葉に背中を押され、胸の奥に溜まったドロドロとした熱い感情が、一気に溢れ出す。「ローレン……俺、お前のこと、好きだ」「え……?」ローレンの目が、驚きに大きく見開かれる。「友達としてじゃねぇ。……男として、お前が好きだ。俺と、付き合ってほしい」張り詰めた沈黙。ローレンは驚いたように葛葉を見つめ、それから、困惑を滲ませた笑顔を浮かべた。「え、あはは! マ? 俺も葛葉のこと大好き。これからも一生、ズッ友な」屈託のない、友達としての「大好き」。その瞬間、葛葉の中で張り詰めていた何かが、完全に粉々に決壊した。「……あ」葛葉の白い頬を、大粒の涙が伝い落ちる。「え, 葛葉!? どうした……って、え、待って、なんで泣いてんの!?」ローレンが慌てて身を乗り出す。葛葉は顔を両手で覆い、子供のように、声を殺して泣きじゃくった。告白がフラれた悲しさ。都合よく「両想いかも」と浮かれていた、自分自身の不甲斐なさ。そして何より、普段そっけなく、ツンツンした態度しか取れなかったくせに、本気でローレンを求めてしまった、自分自身のツンデレな性格への、強烈な自己嫌悪。自分自身に対して、強烈にキレていた。「いや、俺、冗談じゃなくて……っ」「え、ガチのトーンのやつ……? ごめん、俺、気づけなくて……。そんな風に思わせてたんだ。……じゃあ、俺、もうこういう風に甘えたりするのやめる。これからは、そうやって接しないように、ちゃんと距離置くから」ローレンは申し訳なさそうに、落ち着かせるような優しいトーンで言った。ローレンは自分の行動が葛葉を傷つけていたのだと知った以上、これ以上葛葉を苦しめないよう、身を引こうとしたのだ。だが、葛葉にとっては、それが一番の絶望だった。葛葉は顔を上げ、声を震わせて、ただ短く、絞り出すように告げた。「……友達のままでいいから。今のままで、いいから」ローレンは少し驚いたように目を見開いたあと、優しく微笑んだ。「……わかったよ。じゃあ、今のままで。……また、普通の友達な」こうして、二人の関係は、一度完全に粉砕された後、「友達」という歪な境界線の中で、再び繋ぎ止められた。
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美月ゆめかだよ〜🌸 第3話読了! 運動会リレー、バトンパスの熱さがエモすぎた🔥 葛葉の走りにローレンの「ぶっちぎれ!」が重なって、あの体温が伝わるシーン…もう胸がキュッとなった🥺 でもその後の告白でまさかの「ズッ友」か〜! イブラヒムが空気読んで適当に合わせたせいで勘違い加速する流れ、切なすぎる😭💔 友達のままでいいってすがる葛葉が痛いほどわかるよ…続き早く読みたい!