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「うわ黒の絵の具きれた!!!」
「私美術部から借りてくる!」
文化祭準備が本格的に始まり、在校生全員が忙しなく看板作りや教室の装飾に勤しんでいる。
それはもちろんB組も同様で、絵や工作の得意な人を筆頭に喫茶店らしい雰囲気づくりに励んでいる。
「ゆーう!」
教室の入口に貼り付ける「男女混合!?メイド喫茶」という文字の「メ」を担当してダンボールの型取りをしていると、後ろから勢いよく飛びつかれた。
ほのかなアールグレイの香りから、それが川瀬だと分かる。
「お、川瀬おはよう」
「おはよゆう!ちょっと匿って!!」
挨拶を交わすなり川瀬はそう言って教卓の後ろに身を縮めた。
「えなに?川瀬なにして….」
「ねえここに川瀬くん来なかった?!?!!!」
恐らく10人はいるであろう大勢の女子からそう聞かれ、チラッと下をみると川瀬はすごい勢いで首を左右に振っていた。
「あー…いや来てない」
「そっかありがとう!!もうどこ行ったんだろう川瀬くんの採寸する為に今日来たのに!!!!!!」
彼女達はそう言い残してドタバタと音を立てて教室を出ていった。
「….なるほどな」
「もううぅ助けてよゆううぅぅう」
「採寸….そっか川瀬のクラスは劇だもんな」
「無理矢理王子役やらされた挙句にこれだよ、も〜最悪….採寸なんて男子でもできるじゃん….」
川瀬は割と空気を読むタイプなので、クラス中の圧に勝て無かったのだろう。俺だって川瀬と関わりのないクラスメイトだったら王子役に川瀬を推薦していた。
「….あ、じゃあ俺が今しようか?採寸」
「え?まじ?!」
俺の提案を聞いてすぐ、川瀬は大きく形の整った目をきらきら輝かせて俺に抱きついた。
「上手くできるか分かんないけど….ていうか倉井は?」
「奏も同じような状況でとてもじゃないけど合流できる雰囲気じゃなかった…..」
イケメンもここまで来ると大変だな、と呑気に同情していると、先程まで絵の具でパネルを彩っていた宇野がこちらへ向かってくる。
「瑠夏おはよ、どうしたの?」
「かげおはよー、、、採寸って名目で女子に追いかけ回されてもうHP0なんだよー、、」
「今年も断れなかったんだ」
川瀬の状況を察した宇野は目尻に皺を寄せて笑った。
「だから今のうちにゆうに採寸してもらっちゃおうって!メジャーある?」
「あr」
「俺がやる。」
ついさっきまで朗らかに笑っていたのに、宇野は眉をひそめてそう言った。
「どっちでもいいから早く!!見つかる前に!!」
川瀬に急かされた宇野は素早い手つきで淡々と記録を取った。
「2人ともありがと!!!!また後で!!」
ほっとしたのか、川瀬は満足気な顔で足早に去っていった。恐らく隙を見て倉井の救出に向かうつもりなのだろう。
・・・と、いうか。
「…..なぁ、そろそろその不機嫌顔なおしてよ」
「……別にいつも通りだし」
「いやどこがだよ」
明らかに嫉妬を滲ませた顔とこの何とも言えない空気に耐えきれず、俺はつい吹き出してしまった。
「もー。….あ、ご機嫌斜めなら断ってくれていいんだけど今から散歩デートしない?」
「する、します絶対。」
見えないしっぽをブンブン振って喜ぶ宇野に、どんどん遠慮がなくっていくのを感じる。それがどうしようもなく嬉しくてたまらない。
「頼まれた仕事ひと段落ついたからクラスに差し入れ買って来ようかなーって!行こ、宇野!」
そう言って俺は人目も気にせず宇野の手を引いて教室を出た。
「く、来橋…いいの?見られたらどうするの?」
「忙しくてだれも見てないって!早く早く!」
「ちょっ、、くふっ」
俺に手を引かれながらくすぐったそうに宇野が笑う。あえて反応はせずに、俺たちは走って校門を出た。
俺たちは学校から少し離れた所で人通りが少ないのを確認し手を繋いだ。宇野が俺の歩幅に合わせるようにして歩くスピードを落としてくれているのがわかる。
「何のお菓子がいいかな〜」
「来橋が食べたいのにしよう」
「意味ねぇじゃん笑笑」
すっかりいつも通りの調子に戻った宇野は優しい声で笑う。
コンビニで当たり障りのなさそうなスナック菓子と飲み物を買い帰路につくと、あっという間に学校付近にまで到達した。少し寂しさは感じるが、宇野と二人でいられる時間を作れて良かった。
「….俺、もうちょっと大人になる。」
「え?急にどうしたの」
突然宇野が立ち止まってそう宣言したのだが、俺にはその言葉の意味がいまいちよく分からなかった。
「来橋と付き合えてから俺、より一層我儘になってる。さっきだって….相手は川瀬なのに、来橋が他の男と密着するのが嫌で耐えられなかった。」
俺はその言葉を聞いて、少しだけ宇野の手を強く握った。
「嫉妬してるんだろうなってことくらい分かってたよ、多分川瀬も。つーか俺、宇野に嫉妬されるの嫌いじゃないし!!あいや嫉妬させるのは申し訳ないしほんと慎みたいと思うけど、…でもさ、そんなんなっちゃうくらい俺のこと好きなんだなって、すっげぇ愛しいよ。その度に俺も大好きになる。」
今まで宇野の嫉妬をめんどくさいなんて思ったことはないし、それは以前伝えた。だけど俺は宇野が不安になる度に、同じことを、同じ温度で言ってあげたい。
「俺と違って宇野は頭いいし、きっともっと色んなこと考えてくれてるんだろうけどさ!これからはそうやって悩む前に一緒に考えたい。大好きだよ。」
「……..俺も好き。大好き。」
強く抱きしめられると、俺まで安心してしまう。じんわりと愛情を体に染み込ませながら、俺たちは学校に戻った。
「え!差し入れ買ってきてくれたの?!」
「みんな!!宇野くんと来橋くんがお菓子とジュース買ってきてくれたよ!!!!」
俺たちが教室に入るなりみんなすぐお菓子の存在に気づいてキャッキャとはしゃぐ。
「こんな喜んでもらえると買ってきた甲斐があるな」
「そうだね」
次々と飛んでくる感謝の言葉に、宇野と俺は顔を見合せて微笑んだのだった。