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「落ち着いて聞いて、きっとここから出られるわ。だから私の言うことを信じて。それに、もしここが現実の刑務所なら、私たちが入って来られる事自体可笑しいことでしょ? それに看守どころか誰もいない。そうでしょ。あ、それに赤羽さんは看守じゃないわよ」
敬語をやめた呉林は地でもって呪い師の雰囲気のままで強く説得をし、何とかこの不可思議な世界を理解してもらおうとした。私は心拍数が気になる心臓をしながら、呉林の奇抜な説得力を聞くと足の震えが消えた。
しばらく中年の男は力いっぱい鉄格子を掴んでいたが、急に力を抜いて溜め息を吐いた。
「ここが何所だっていい、ここから出られればそれでいい。あんたの言う通りにするよ。俺には仕事がある。頼む。不安で仕方がないんだ」
「僕は出来るだけ信じます。早くここから出たいので」
青年の方は、ここが不可解で非現実的な場所なのではないかと受け入れようとしていた。
私はジャンパーのポケットにある鍵束を出して、全部の鍵を青年の牢屋に差し込んだ。
鍵穴は新品のようで、キラキラ光っていた。けれど、どれも違う。中年男性の牢屋にも試したが開かなかった。ふと、呉林と目を合せる。
「問題は鍵ね」
呉林は私の意図を汲み取ってくれた。
「鍵を探してくれませんか。お願いです。どこにあるのか解りませんが」
青い顔の青年はここから早く出たいといった顔をしている。
「鍵を探してくれ。頼む……」
中年男性もそうだった。
無理もない。こんな訳の解らない場所の牢屋になんか入っているなんて、想像出来ないほど不安なはず。
私は同情したい気持ちもあるのだが、この刑務所を調べなければならないという恐怖は到底、測りしれないものだった。
「わかったわ」
私と呉林は頷いた。
外に出て、扉を閉めると、鍵を探しに行くことにした。また歌が聞こえてくる。今度は少し悲しい歌に聞こえる。
「鍵と言っても、この広い刑務所の中。どこにあるのか……。俺が最初に行った事務所しかないかな」
私はひどく億劫だった。ここは一体、地球の何処なのだろう。
私たちは事務所の方へと延々と薄暗い通路を歩きだす。天井の裸電球はぶらりとしていた。
「私、さっきから嫌な感じがしてしょうがないのよ。ここは刑務所だから死刑囚でも出てきそうだわ」