「冨岡先生って、いっつもぶどーぱん食べてますよねー」
ある日の昼休み、いつものように武道館脇の階段でひとり寂しくお昼を食べている体育教師・冨岡義勇のところに来ていた2年・宇波美月が言った。隣に、美月の友人の柊咲楽がいる。
「確かに!なんでいつもぶどーぱん食べてるんですか?ほかのも美味しいのに」
「いや……しばらく食べてたら慣れてしまって……」
「まあ、そういうこともありますけどね。でも、毎日同じもの食べてて飽きません?」
「私は、3日連続ぐらい食べたらすぐ飽きちゃうからなぁ」
「咲楽の話は聞いてなーい」
「ひどくない?笑」
勝手に盛り上がっている2人を横目に、冨岡はパンを食べ進める。
何故2人はいつも自分のところに来るのだろうか。
思い返せば2人が1年生の夏ぐらいからここに来るようになり、今では毎日のように来ている。……来てくれるということはそれだけ慕われてるのかと思うと少し嬉しいが、自分的にご飯は静かに食べたいので、2人が雑談に盛り上がっている時はちょっと騒がしくて困ることもある。
そういえば、何故自分は毎日同じものを食べているのだろうか。以前も同じ事で悩み、1年の竈門からこんがり鮭マヨチーズパンを大量に貰ったが、結局はいつものぶどーぱん生活に逆戻りだ。
「あっ、そうだ。今日昼休みに委員会の仕事やる予定だったんだ。咲楽、私教室戻るねー」
「えっ?あ、うん…」
「じゃあ冨岡先生もさようなら〜」
「……」
宇波がこちらに手を振ってきたので、軽く手を振り返す。
「……柊、そういえば」
「え、なんですか」
「不死川が、さっき柊のことを何か言ってたが…何かあったのか?」
「……げえ」
「?」
「……今日までに出さなきゃ行けない課題忘れたんですよ……」
「……それは、まあ…何があっても仕方ないな…」
「ええ!?回避できないんですか?!」
「忘れてしまった以上は何らかの罰は下されると思う…」
「やだよ…冨岡先生助けてくださいよ…」
「何をどう助ければいいんだ」
と、会話が一区切りしたところで昼休み終了のチャイムが鳴る。
「あ、あと5分ぐらいで授業なので戻りますね。さよーならー」
「ああ」
冨岡は昼食のゴミを近くのゴミ箱に捨てると、5時限目の体育の授業に向けて準備を始めた。
※※※
帰りの学活が終了し、生徒たちが各々部活に行ったり下校したりする中、教室に2人、美月と咲楽がいた。
「ねーねー、咲楽、めっちゃ良いこと思いついたの」
「なに?」
「それはねー、」
「早く教えてよ〜」
「冨岡先生にパンをあげる!ってこと!」
「……ほお?」
別に先生にパンをあげるのは問題ないのだが、ひとつ疑問に思うことがあった。
え、何故?
何がどうなって冨岡先生にパンをあげるという結論になったのか。
「え、なんで?」
「だってさ、いつも冨岡先生にお世話になってるし。それに毎日同じパンばっか食べるのちょっとかわいそ…」
「はは、確かにね。失礼だけど」
「お金は持ってきてるよね?これからスーパー行ってパン色々買おうよ」
「いいよ、そうしよう!」
そうして、世にも奇妙な教師への恩返し作戦が始まったのだった。
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