午後3時。
佐野 里根は早足で交差点を右に曲がり、事務所へ直行する。
5分ほど真っ直ぐ進むと、カルスレーズンというカフェが目に入る。
ドアに手をかける。
カラン
カラベルが心地よい音を立てて開いた。
「頼もー!!!」
「うるさい黙れ里根」
三門 未奈がうるさそうに顔をしかめた。
本人は気に留める様子もなくドカドカと椅子に腰掛けた
「いーじゃん貸し切りなんだしー」
「そんでー、彰は?」
「ルーの手伝い」
彰は未奈の兄。三門 彰、ちょいとシスコン気味
「あー、あのコーヒー豆をひたすら潰す地味な仕事か。」
メニュー本をペラペラとめくりながら里根は言った
「地味とは何ですか地味とは」
ルーことルーラがひょっこりとカウンターの影から顔を出した。
ルーラは少し不思議な人。性別もよくわからない。
「ルー。彰は。そろそろ時間だ」
「あー、もうそんな時間ですか。そうだ、注文はお決まりで?」
伝票を手に持ちながらルーが言った
「なら、カルスレーズン特性チョコレートケーキを頼むぞ!ハッハッハー!」
「お前何様だよ」
「里根様だ!」
ルーがメモメモと言って、ペンを忙しく動かす。
「彰くーん、注文入りましたよー、カルスレーズン特性チョコレートケーキ……おっと、彰くんはコーヒー豆をすり潰す事しか出来ませんでしたね。フフフ」
厨房の方をニヤニヤと笑いながら見て言った。
「その仕事を押し付けてきたのはどこのどいつだったかなー、ハハハ」
「フフフフフ」
厨房の方から明らかに棒読みの笑い声が聞こえてくる。ルーも負けじと棒読みで笑い
返す。棒読みで。
「そうだ。未奈ちゃん未奈ちゃん、新しい情報は入った?」
「きさらぎ駅だろ?特に何も。学校の奴らにも聞いてみたけど、誰も知らないみたい。情報はネット掲示板だけらしいな」
きさらぎ駅。最近ネット掲示板で話題になった話だ。
「んー。迷い込んだ人に取材出来ればいいんだが」
「いや、ネット掲示板だけでもそこそこの情報が乗ってるぞ」
未奈がカバンからノートパソコンを取り出す。
カチカチとパソコンを器用に操作し始めた。私はやったことない。てか不器用すぎて出来ない。
「迷い込んだ人の名前て何だっけ」
「ハスミさん」
彰がコーヒー豆をすりつぶす仕事が終わったらしく、ひょっこりと出てきた。その後ろにチョコレートケーキを持ったルーもいた。
「で、そのハスミさんは最終的に戻れたみたいだったけど、7年後の世界だったって話。」
「実際に調査しにいくんですか?まぁきさらぎ駅に入れない可能性だってありえますけど」
彰が席に座る。ルーもちょこんと先に座った。
「入れないじゃなくて入るんだよ、入れないと何も始まんないしモグ」
チョコレートケーキを頬張りながら里根は言った。
「そんな簡単に入れるとは思いませんけどねぇ」
そう言ってコーヒーをすすった。
「大した情報も出ないしこっちから乗り込みに行こうぜ!」
「え、準備もなしには危なくないか?」
「うん」
彰と未奈で講義する。
「別に、準備なしとは言ってないぞ。」
「実行時刻は?」
「さすがに8時とかだと親にバレるから……10時に〇〇駅に集合はどうだ?」
「多分大丈夫だと思う。」
未奈が頷く。
「どうせならルーも来てくれたら微妙に心強いのに」
彰が言った
「カフェの経営があるので無理ですよ。てか微妙にって何ですか。あと、そんな余裕そうにしてないで、何か考えたらどうです?嵐の前の静けさっていいますし」
パソコンを指差しながらルーが言った。
「まぁそんな心配しなくてもダイジョーブだって!」
「……そろそろ四時か。私、用事があるから。」
「友達か?」
「いやまぁ、うん。」
未奈は荷物をまとめた後、席を立った。ドアを開けて外へ出ていく。カランとカラベルが心地よい音を立てた。
「彰………」
「シスコンなのについていかないんだな」
「だーれがシスコンだ!てかそれストーカーだろ」
「同じじゃん」
「はいはい、彰くんはコーヒー豆を再びすりつぶしてもらうので!それじゃあ里根チャンがんばれー、明日、ケーキ作って待ってますよ〜」
「お、じゃあ私はチョコケーキな」
嵐の前の静けさ。私はなぜか最後にその言葉を思い出した
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