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📖 第四章:「名前を呼ぶ距離」
昼休み。
教室はざわざわと賑やかで、弁当の匂いと笑い声が混ざり合っている。
○○は自分の席で静かに弁当を開いていた。
周りではグループができ始めているが、○○は特に誰とも一緒に食べるわけでもなく、一人で過ごすのが気楽だった。
○○:(……)
むしろ、無理に合わせるよりはいい。
そう思っていた、その時——
ガタン。
近くの席が引かれる音。
ふと顔を上げると——
凛が、○○の前の席に座っていた。
○○:「……は?」
思わず声が出る。
凛は相変わらず無表情のまま、パンの袋を開けている。
周りの空気が、一瞬で変わる。
女子A:「え、なんであそこ…?」
男子B:「マジで?」
ひそひそ声が広がる。
○○:「……なんでここ」
小さく聞くと、凛はちらりとも見ずに答える。
凛:「空いてるから」
それだけ。
理由としては正しい。
でも——
○○:(いや、他にも空いてるでしょ…)
ツッコミたい気持ちを抑える。
沈黙。
気まずい。
やたらと気になる。
パンを食べる音が、妙に大きく感じる。
○○:(……落ち着かない)
何か話すべきか、それとも無視するべきか。
迷っていると——
凛:「……昨日」
突然、凛が口を開いた。
○○:「え」
凛:「ボール」 短い言葉。
でも意味はすぐに分かった。
○○:「……ああ」
あの時のこと。
○○:「別に、大したことじゃないし」
そう言うと、凛は少しだけ視線を動かす。
ほんの一瞬、目が合う。
凛:「……そう」
それだけ言って、また前を向く。
会話、終了。
……のはずだった。
○○:「……あんたさ」
気づけば、口が動いていた。
凛の手が、わずかに止まる。
○○:「いつもそんな感じなの?」
凛:「……は?」
○○:「無愛想っていうか。全部どうでもよ
さそうっていうか」
少しだけ、挑発気味に言う。
凛はゆっくりと○○の方を見る。
その目は相変わらず鋭い。
でも——
昨日より、少しだけ冷たさが弱い気がし
た。
凛:「……どうでもいいことには、興味ない
だけ」
○○:「じゃあ、興味あることには?」
数秒の沈黙。
凛の視線が、わずかに逸れる。
そして——
凛:「……サッカー」
短く、はっきりと。
○○は一瞬、言葉を失う。
○○:(……やっぱり)
昨日見た姿が、頭に浮かぶ。
○○:「……知ってる」
ぽつりと呟く。
凛:「……は?」
今度は凛が反応する番だった。
○○:「昨日、見たから。放課後」
凛の目が、ほんの少しだけ見開く。
驚いたような、意外そうな表情。
でもそれも、一瞬で消える。
凛:「……勝手に見てただけだろ」
○○:「悪い?」
少しだけ笑いながら返す。
すると——
凛は、ほんの一瞬だけ
ほんの一瞬だけ、口元を緩めた。
気のせいかもしれないくらい、小さな変化。
でも確かに、今——
○○:(……笑った?)
心臓が、ドクンと鳴る。
凛:「……別に」
そう言って立ち上がる。
パンの袋をゴミ箱に捨てると、そのまま教
室を出ていく。
残された○○。
周りの視線が一気に集まる。
女子B:「ねえ今のなに!?」
男子A:「会話してたよな!?」
○○:「……うるさい」
そっけなく返すが——
内心は全然落ち着いていなかった。
○○:(……なんであいつ、ここに来たの)
理由は分からない。
偶然かもしれない。
でも——
○○:(……名前、まだ呼んでないな)
ふと気づく。
「凛」と呼んだこともなければ、
自分の名前を呼ばれたこともない。
それなのに——
距離だけが、少しずつ変わっていく。
窓の外では、昼の光が校庭を照らしている。
○○は弁当を閉じながら、小さく息を吐いた。
○○:(……ほんと、調子狂う)
最悪だったはずの第一印象。
なのに今は——
少しだけ、その距離を壊してみたいと思っている自分がいた。
——名前を呼ぶ日が来るのは、まだ少し先の話。
コメント
1件
脳内花畑になった…あ、蝶々見っけ(?)